自分の手で考える(ブックヨット デザインのひみつ)
「本を出す。それだけでいいのかな?」
TENTの本『アイデアとかデザインとか』の企画がスタートした時から、僕はちょっとモヤモヤした気持ちを抱えていました。
デザイナーさんって、歳を重ね実績を重ねメンバーも増えていくと、本を出したり講演したりが増えて。
そっち側が忙しくなってしまって。ディレクションはするものの、実際の作図や試作はスタッフが担当しているという例が多いと思うんです。
「たとえ本を出したとしても、自分の手を動かして製品を考えるぞ!」
そう思った僕は、『アイデアとかデザインとか』発売日に間に合うように、BOOK on BOOK 以来の約十年ぶりの本にまつわるプロダクトを作ることにしました。
本にまつわるプロタクト
さて、何から考えようかな。とくに何も思いつかなかったので、いつもよりちょっと贅沢をして、ブルーボトルコーヒーで1時間ほどHINGEと向かいあうことにしました。
そしてふと、11年以上前、TENTの準備段階でハルタさんと話していたことを思い出しました。
「本を立てておける"しおり"って作れないですかねー」
この時は簡易的に厚紙かスチレンボードか何かで試作して本を立ててみたんですけど、表紙はグニャリと曲がるし、あんまり上手くいかなくて諦めました。
あれから11年。今の自分だったらこの課題に向き合えるかもしれない。
ちょっと考えてみよう。
「うーん、やっぱりなんともならないかもなあ」と思ったその時、重力を活用することを思いつきました。
本を45度ほど倒したら、表紙はグニャリと曲がらずにすむかもしれない。
さっそく、段ボールで試作をしてみることにしました。
これで実験してみたところ、想定通り本を立てておくことはできました。でもなんだろう、この形。エイみたいというか、なにかのモニュメントみたいというか。なんとも言えない。
もっと、これ単体で置いておいたとしても納得のできる心の座りの良い形はないかな。
いまいちな気がするけど、いちおう試作はしてみよう。
うん、やっぱりイマイチだ。むむむぅ。
とはいえ、家に持ち帰って本を立てて試してみたところ。
うん、そう、なんかスジは悪くない気がするんだ。
もうちょっと考えてみよう。
なんかこう、旗みたいな形とか。
あ、なんか…ちょっと船っぽいぞ。
ボートというかヨットというか。この方向性で、さくっと試作してみますかね。
じゃあ本も乗せてみよう。
なんか、良いんじゃないですか。方向性が見えてきたんじゃないですか?
こんなイメージで、次は素材をどうするか構造をどうするかを考えてみよう!
帆をたためる構造はないか
この時は鉄板と鉄板を溶接するイメージでいたんですけど、帆船って帆がたためるじゃないですか。帆をたたんでコンパクトになる、あの機能性も取り入れられないかな、なんて思いついちゃったんですよね。
たとえば、土台が木で帆が鉄板でできてて。しまいたくなったときには帆をたたんで小さくしまえる。そんな構造を考えたくなりました。
マグネットで固定。それだと本の重さに耐えられないだろうな。
L字の鉄板をスリットから差し込んで、ウラでねじ止め…どうやって鉄板を通すんだ?横からネジを打ち込んで、鉄板もいっしょに固定できないだろうか。
そうだ!小さな角材をたくさん並べて、角材を鉄板で挟み込んでネジで固定するというのはどうだろう。すごく良いんじゃない?試作してみよう!!
できたぞ!イカダのようなものが。イカダ…。
これはこれで…うーん、部屋においておきたい感じは、しないかも。
そんなこんなで、様々な方法で板金の脱着の仕方を悩んでいたところ、ケンケンさんがこんな提案をしてくれました。
「木の裏側を45度の斜面で掘れば、L字の鉄板を通すことでできるんじゃないですか?で、通した底の裏面でネジ留めすれば表から見えないし。」
たしかにこうすれば固いL字型の鉄板を細いスリットに通すことができるじゃないですか。
僕は思わず叫びましたね。「うわー!悔しい。それ、ケンケンじゃなくて僕が考えたってことにしてよ!!」
そんなこんなで、サイズの微調整を含めてたくさんの試作を作り、そのたびに本を乗せてバランスなどを検証していきました。
その後、様々な工場さんに見積もり依頼をして一緒にコストを抑える努力をして
『アイデアとかデザインとか』の発売日である11月4日に、なんとか発表することができました!
発表後すぐに予約受付を開始しました。
おかげさまで好評で、たくさんの予約をいただいています。
ありがとうございます!
ご予約の方、順次発送を行なっていきますので、もう少々お待ちください。
よろしくお願いします!
けっこうなお兄さんになってきた僕ですが、言葉や思考ばかりに偏らず、これからも自分の手を使って考えていきたいと思います!
工作ばんざい!!
<ご質問と回答>
図書館の司書をされていた方から「本が痛むのではないか」というご指摘をいただきましたので、こちらにも回答を書かせていただきます。
自分の家で試作を数ヶ月使って検証した結果としては、帆は本にそれほど深く刺さるものではないので、ダメージは想像されるほどにはないと思っています。ぜひ実物に触れていただきたいです。
その上で、人から借りた本や図書館の本などについては、丁寧に扱うべきものだと私は考えています。ブックヨットは、あくまでご自身の所有物で、納得した方のみがお使いいただければ幸いです。
さて、こんな感じの開発秘話がお好きな方は、TENTの「デザインのひみつ」マガジン(無料)をフォローしてみてください。
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下北沢にリアル店舗もございます。