休職中の身に沁みる|梨木香歩「西の魔女が死んだ」
そろそろ生活リズムを整えなければと、久しぶりに読みました。
起きる時間を前日に決めるエピソードが印象深かったからなのですが、
読み返したら、今後どうするか悩んでいる自分にとても響く物語でした。
「西の魔女が死んだ」は、不登校になった主人公・まいが、「西の魔女」と呼ばれる祖母の家に住み、心を回復させていこうとする物語です。
※結末のネタバレはありませんが、エピソードを引用しながら感想を書いているので、未読の方はご注意ください。
向き合わない両親からの離脱
まいの両親は、「学校に行きたくない」理由を聞きませんでした。
それだけでなく、母は祖母(西の魔女)に、まいは「扱いにくい子」「生きにくタイプの子」と話し、父は「わたしが死んでも、みんなは普通の生活を続けるの?」という質問に「そうだよ」と即答するような人でした。
家にも学校にも居場所がない彼女にとって、全てを認めてくれる西の魔女の存在は大きな救いだったのではないかと思います。
実際、2人の生活はとてもあたたかなもので、本当に癒されました。
生活リズムを整え、自分の意思を持つこと
まいは、一族が持っている魔女の力(超能力のようなもの)を欲しがります。そこで西の魔女は、「基礎トレーニング」として精神力を鍛える方法を伝授します。
座禅は瞑想はまだ早い。
では何をするのか?
それは「規則正しい生活」をすることでした。
そのために必要なのは
・意志の力
・自分で決める力
・自分で決めたことをやり遂げる力
であると。
精神力が弱いうちに瞑想などをすると、意識がもうろうとしているときに「悪魔」が乗っ取りにくると。
(悪魔というのは、ひどい言葉で追い詰めたり、最悪の場合、死に追いやる存在だと私は解釈しています)
前日のうちに、何時に起きるか、そのあと何をするかを決めていく。
それをやりきる。繰り返すことで精神力が鍛えられていく。
私は早速明日から取り掛かろうと思いました。
世界全部が清らかではない
つらい現実世界から一時離脱し、心を回復させるための物語ですが、西の魔女との暮らしは、全てが清らかではありませんでした。
近所に住むゲンジという存在が、まいの心をかき乱します。
全てが正しく・澄んでいる世界は存在しない。それは現実逃避にすぎないと言われているような気がしました。
私は今、休職中ですが、知人に薦められたアニメを観ていても、「ちょっと不快にさせるキャラクター」はどの作品にもいました。
いろんな人がいる。それが当たり前のことと受け入れる必要が、私にもあったのかもしれません。
そういう目に直面すると、まいの心は激しく乱れ、怒りさえ覚える。
その感覚は私にもよくわかる、と思いました。
あの、血が沸騰するような感覚。他のことが考えられなくなる感覚が。
自分が楽に生きられる場所
両親から転校することを提案され、今後のことを2人で話し合います。
まいは、
・転校しても根本的な解決にならない
・敵前逃亡みたいで後ろめたい
・自分に弱いところがある
(一匹狼のように突っ張る強さを養うか、群れで生きるか)
と言います。
それに対し、西の魔女は、
・根本的な解決は難しい(まいだけの問題ではないから)
・自分が楽に生きられる場所を求めることに
後ろめたさを感じる必要はない
(「サボテンは水の中に生える必要はないし、蓮の花は空中では咲かない。シロクマがハワイより北極で生きるほうを選んだからといって、誰がシロクマを責めますか?」)
と答えます。
このシーンが、今の自分に深く刺さりました。
復職にあたり、部署はそのままか、異動するか、転職かで悩んでいて、
まさに、まいと同じことを考えていたからです。
逃げたくないし、自分の問題は、元の場所で改善していくべきだと。
でも「自分が楽に生きられる場所を求める」ことと聞いたときに、前回うつでダウンしたあと、当時の上司(復帰後、上司ではなくなりましたが)に似たようなことを言われたのを思い出しました。
ただ、私はその提案を「もう上司の迷惑になりたくない」と拒否しました。
あのとき受け入れていたら、今が違う未来になっていたでしょうか。
でも、ダウンした原因の一つは上司にありました。
また繰り返すかもと思ったその判断は「楽に生きられる場所ではない」可能性が浮かんだからなのかもしれない。
西の魔女、ありがとう
西の魔女は、まいのことを心から愛していて、物事を決めつけたりせず、目の前のことをあるがままに受け入れているところが好きです。
夫(まいの祖父)との関係も、神秘的で素敵です。憧れます。
あのラストシーンは、西の魔女でなくては成立しなかったし、
何度も読んでいる小説なのに、べそべそ泣いてしまう。
大きな愛がたくさん詰まった作品だと、改めて思いました。
私も精神力を鍛えて、次の場所に行けるよう頑張りたいです。