命日
12月29日。
朝の5時ごろ、父が部屋にやってきて「お前たち、ちょっと来て」と。
私は嫌な予感がして一気に目が覚め、ベッドから飛び起きて両親の寝室に駆け込んだ。
「キャンディ」
泣き崩れている母とただ眠っているように見えたキャンディがそこにいた。
アメリカン・コッカースパニエルの女の子。
小学校2年生の七夕に我が家へやって来てくれた。
犬が欲しいという願いが叶った日。
七夕に願いが叶ったのは今のところ人生であの日だけ。
でももうそれだけでいい、この先の人生で七夕でお願いする必要なんてないって思えるほど特別な家族だった。
近所でコッカースパニエルの子犬が生まれたという情報を手に入れた母がすぐにそのおうちへ。
出てきたおばちゃんは「1匹だけ残ってるけど、未熟児なんですよ」と渋っていたように見えた。
とにかくひと目会いたいと言うと、家の中から両脇を抱えられながらツルツルのお腹丸出しで、放せと言わんばかりにアウアウとおばちゃんの手を噛んで抵抗している子がやってきた。
私と妹と母の全員が一瞬で目がハートになったのを覚えている。
今まで見てきたペットショップにいるチワワやミニチュワダックスの子犬なんかより格別に可愛くて、くるくるの毛が印象的だった。
あの日を今でもはっきり覚えてる。
まだ生後2ヶ月とかだったと思う。(今では違法だけど)
他の兄弟はとっくにもらわれてって、未熟児が理由で残っていたそう。
おばちゃんは「元気に育つか分からないから」と3万円の提示を。
ペットショップで30万円のチワワを知っていたから、母は大喜び。
わんわん物語の主人公でもあるアメリカンコッカー。
母は大ファンで我が家には絵が飾ってあった。
その日に連れて帰っていいと言われ、父に許可を得る事なく(そんなの忘れてた)我が家へ(笑)
帰りの車で母は映画と同じ「レディー」がいいと言ったが、私と妹は大反対。
なんとなく、ふと「キャンディ?」と私が呼ぶと、こちらを見て尻尾を振った。(犬はどんな名前でも反応する説ありw)
こうして名前はキャンディに決まったのだった。
本当に美人で、アメリカンコッカーでも珍しいバイカラーだった。
元気で良い子だったが、大人になってから不整脈持ちであることが判明。
それでも12年も生きてくれた。
本当に特別な子で、バイトで嫌な思いをして泣いて帰った際はペロペロと涙を舐めて慰めてくれたり。
ただの犬とは思ったことがないくらい。
9歳差の弟が生まれた際も、床に寝転がる弟の隣で一緒に寝そべったり。
しつけなんて全くしなかったのに人に唸りをあげたり噛んだりすることは決してなかった。
動物は言葉を話せない。
その代わり、一生懸命に全力で甘えて、遊んで、食べて、感情表現が豊でなんともピュアな生き物。
だからこそ何年経っても忘れられない。
キャンディが虹の橋を渡った日の朝は雨が降っていた。
でも彼女を火葬した翌日、外にはとてつもなく大きな虹が出た。
「あ、キャンディは虹の橋を渡れたんだ」
と安心した。
でもやっぱり...
あの朝を忘れられない。
あれだけ犬を飼うことに最初は反対していた父が声を上げて泣いていた。
父が泣いているのを見たのは人生であの日だけ。
どれだけ家族にとって大切な存在だったか。
あれから今日で6回目の命日。
キャンディを思い出さない日はなかった。
何年経っても夜ふと思い出しては涙が出てしまったり。
悲しむのは彼女にとってもよくないんだけど、でもどうしても抑えられない日がある。
母が「(今の旦那さん)がいるからもう大丈夫って思ったんだね」と。
友達も彼氏もずっとおらず、キャンディが私の心の支えだったから。
これからもずっと、死ぬまで彼女が私の一番。