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どうしても居場所が必要だった。実家は居ごこちがあまりよくなくって、自分だけの、自分のためのキッチンが欲しくてたまらなかった。 それで、いまの家に住みはじめたのが20歳。 誕生日を飛び越えたとたん、印鑑を押してお金を払えばなんでもできてしまった。成人式には出なかったけれど、成人であることをなにより実感した瞬間である。貯金していたお金をぜんぶはたいて家出した時、いまよりもっと自由だったと思う。 (これは鍵を受けとって部屋の掃除をしにいった日。ひとりで雑巾がけをしたり。と
べつになんてこったない、ありふれた夜だ。 だいだい色のテーブルライトだけが天井を照らしている。化粧を落とす気力無くそのままベッドに横たわっていて、足もとには猫。 聞こえるのは、おもての車道をゆくトラックの音と、扇風機が風をゆらす音。それからやっぱり、ぷすーぷすーという猫のいびきも。 いつもどおりの夜である。 わたしは最近、なんでもない。ほんとうになんでもないのだ。 昔みたいにひどくたかぶることはないし、消えてしまいたくなるほど自棄になることもない。あったとしても、大
20190826 ◯ 「じぶんの嫌いなところを好きになれるよう、日々正しく生きていきましょう」と、誰かが言ったような気がする。 じぶんの嫌いなところはあるだろうか。わたしにはあるし、あなたにもある。愚問。生きていれば、誰だって。 何不自由なく見えるあの子にも、きらきらと輝いて生きているように見える大人にも、じぶんを嫌う部分はきっとあって、しかし、そうは見させないなにかがある。それはとても強みだ。 嫌いなところ。わたしには、いくつかのはっきりとしたものと、とくべつに意
20190731 ◯ 血のつながった弟がひとりいる。 しかし、わたしと弟は確実にことなっていて、真逆で、とてもかたよってしまっている。 もっかいごちゃまぜにして、きれいに分割したらつぎこそちょうどいいかんじになるような気もするけれど、産まれてしまったからにはもうどうしようもなく、このこころとからだでふたりとも生きてきた。 弟とわたしはとてもなかよしだ。 それは、いっしょの家に住んだり、いっしょのごはんを食べたり、いっしょのおやに育てられていないからだとおもう。こん
20190729 わたしが京都に住む男の子だったら、「今日の夜、鴨川沿いをさんぽしようよ」なんてちょうどいい理由をつけて、会いにいくのにな。 5月の下書きに残っていた。 ◯ 最近、すっかり生活と仕事に呑まれてしまった日々だけれど、無性に、京都へ行きたくてうずうずしている。仕事に集中できなくなってしまった午後なんかは特に。5月の誕生日にあわせた10日間、京都で満たされたはずだったが、それはただのつもりで、蓄えておけるような感覚でも無いと知る。 いつもだったら、夜行バス
20190724 ◯ なるべく うれしいこととか、きれいなもの、やさしい言葉をつまみだしてここに置いていきたいと思っている。でも ◯ なんでこんな、息してるだけで、つかれてしまうんだろう。つかれることにも、正直つかれてきた。21歳フリーター、考えなくてはいけないことが多すぎる。 いや、まだ、自分で決めたことはいいのだ。好きでこの状況に落とし込んでいるのだから簡単に納得することができる。ノーリスクでなにかを得ようなんて甘ったれているし、だから日々、考えて、行動している
20190722 選びたい。 じぶんの血肉になるものは、なんであれ、なるべく選んでいたい。 必要なことはまず、手にとり嗅ぐったりして、決めたい。そうやって選んだじぶんにとって確かなものを、ゆっくり咀嚼したい。酸いも甘いも嚙み分けて、いろんな味を知っていたい。それなのに 「ねえ食べた?食べ終わったよね?じゃあ次はこれ、ほらほら早く。あっ見て見て、今度はこんなのも。ね?まだいっぱいあるんだから、とっとと飲み込んで。」 おなかいっぱい。もはや暴力だ。 ある出来事が起きるた
20170720 ちょっと長いけど、想うことがあり、わたしが文章を書くことについて書きました。うれしいことが、あったんです。文章をやめたくない。お付き合い願います。 ◯ わたしの文章が走りだしたのは、明確だった。 あのころ、ひどく鬱々しい夜が多かった。悲しさや憤り、妬み、絶望、人生への落胆。そういったきもちのわるい感情が混在して、皮膚のすぐ下や、内臓のすきまなどを、ムカデのように這いずりまわるのが常。 ◯ どうしようもない夜、泣き喚き、罵り、いけないことばを叫びた
20190719 華金、夜の電車に乗る。わたしよりずいぶん歳上の女の声が、車内や駅構内によくひびく。キャッキャッとした、キツネとかイタチを思わせるような声をかけあう女たちは、別れ際、いきおいよく手を振るのが上手だ。 ◯ そういう光景を、東京の電車ではよく見る。人物はちがうのに、いつもおなじひとに見えるのはなぜだろう。 わたしとおなじ歳の女より活気があるような気がして、というか、あきらかな活気があって、うらやましい。 なにかを振り切るような声量で、すこし鋭くて、かけあ
20190718 食べかけのココナツサンドが湿気っている。わたしが留守のあいだ、猫が舐めたのか?と訝しんでしまうほど、ふにゃりと情けなく湿気っている。 ○ 今朝、ふと、本棚から選った本から、一枚のレシートがはらりと落ちた。 —————————— 2016年1月4日(木)No1 文庫 ¥605 合計 ¥605 (うち消費税 ¥45) お預かり ¥610 お釣り ¥5 点数 1 ありがとうございます! またのご来店をおまちしてお
20190717 ちゃんと回ってくれるんだ。 もう、硬くって、冷たくて、回らないと思ってた。 焦げた色の錆びも剥がれて、 この感覚をわたしは知っている。 このたったひとつのパーツが動くだけで、少しずつ噛み合った周りの歯車が、きしきしと回りだす。肩を寄せたすぐ近くの部品から、とおくの歯車までも、この微々たる運動が届くだろうか。届いてほしい。 ◯ わたし、今日は、ひさしぶりに空をみたんだ。眼に刺さる青が気持ちよくて、この世に、この色があったことを初めて知るみたいにおもう。
20190716 最近のうれしいこと。 たくさん本を読めるようになったこと。 ◯ 小説は、ふわふわと映像になる。本の、その一文、そのひとことをなぞりながら、頭のなかで絵を映していくのがたのしい。こまやかな表現であればあるほど、頭のなかの絵も輪郭がくっきりとしたものになる。 今日は、露天風呂のまわりの岩に、お湯をかける描写がよかった。これだけで、なんの小説かわかったらすごい。 ◯ 小説じゃない本も、いろいろ読めるようになった。興味のある本を少しずつ。 週に一回、駅
20190715 なにもしてないはずなのに疲れてしまう日がある。小さな頭痛がずっとつづいている。青山からの帰り道、スマートフォンの電源を切った。 ○ 傘をさすほどでもない雨が降っていて、冷たい線路のうえにはうすく水が張っていた。水面がホームの白い蛍光灯に反射して、落ちる雨の、一滴一滴の存在がわかる。 不規則に光る一瞬の連続が、なにかに似てると思った。あ、線香花火。線香花火の、「ちっちっ」という間隔の、光に似ている。線路のうえぜんぶ、線香花火のように瞬いていた。すこし愉
20190714 7月なのに、やや肌寒さも感じるほどの風を 寄せあつめながらはしるはしる。夜の住宅街はきもちがいい。 最近、鼻や目、口腔すべて、もそがゆくなるのが猫アレルギーかもしれないと心配していたけれど、よく考えれば7月の花粉かもしれない。猫との生活はわたしの人生だから、どうかこれは花粉のせいであってほしい。 大切なものはなにかを考える。それから、大切なものを大切にすることを考える。どうやって大切にしたらいいんだろう。わたしは、大切にし足りてないんだろうか。これじゃ