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なんでもない夜に


べつになんてこったない、ありふれた夜だ。

だいだい色のテーブルライトだけが天井を照らしている。化粧を落とす気力無くそのままベッドに横たわっていて、足もとには猫。

聞こえるのは、おもての車道をゆくトラックの音と、扇風機が風をゆらす音。それからやっぱり、ぷすーぷすーという猫のいびきも。

いつもどおりの夜である。

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わたしは最近、なんでもない。ほんとうになんでもないのだ。

昔みたいにひどくたかぶることはないし、消えてしまいたくなるほど自棄になることもない。あったとしても、大抵はもうじぶんのごきげんをとってしまえるようになった。

そして、なんでもない夜ばかりが淡々と。

なんだか実体のない、ふわふわっとした生きものになったみたいにも思えて、ほんの少し前のイガイガとしたじぶんはどこへ行ってしまったのだろうかと寂しくも思う。


あの頃、できないことがほんとうにたくさんあった。いまはそのほとんど、なんとかやっている。

ただ、反比例するように文章を書くことだけができなくなった。じぶんの内なる文章だけがどんどん書けなくなってしまって。

あのはちきれそうになるような胸の痛みや、意味もわからず溢れつづけていた涙、何度も目にした明け方の青いろ。そういったものがあんなわたしにも文章を書かせてくれていたのだなと、今は思える。

でももうあんな日々を過ごしたくはない。


どうして今、なんてこったない夜をこんな淡々とくりかえしていられるのか、なんとなくわかってきた。

答えは、”守りたいものがたくさんあるから”。

それだけのことで、今日もちゃんと眠れる。

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きっと守りたいものなにひとつなかったんだなあ。守るべきものにも気づかずに。おろかである。


そんななかでも唯一できた”文章を書くこと”。神様がいるとすれば、あれはなにか、見計らって与えられた切符であり、そして列車のようなものだったのかもしれない。

ここまで連れてきてくれてありがとう、言葉たち。

これからもどうか、愛しい生活と猫、たいせつなお仕事をわたしと一緒に守ってほしい。


だから、なんでもない夜だって文章を書く。書きたいときに書く。いいじゃないか。これが今の、ありのままですから。


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今夜も猫のいびきが止む。

安心してお眠りよ。


- aoiasa



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青い朝
最後までありがとうございました。 〈ねむれない夜を越え、何度もむかえた青い朝〉 そんな忘れぬ朝のため、文章を書き続けています。わたしのために並べたことばが、誰かの、ちょっとした救いや、安らぎになればうれしい。 なんでもない日々の生活を、どうか愛せますように。 aoiasa