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#2 魔除けの呪文だった? Lullaby -ララバイ- の語源の話② 

こもりうたを <赤ちゃんを寝かしつける時に愛情たっぷりに歌われてきた癒しの歌]だと思ってきた1児の母が、現実の寝かしつけを知り「世界の寝かしつけがそんなに穏やかなはずがない」と疑いながら、研究家としてこもりうたの面白い小話を発信しているnoteです。

前回は、こもりうたの英語"Lullaby"の由来Lulla(なだめる)+by(そばにいる)である説についてご紹介しました。「ラララ」と歌う音から来ているのかも?という、ほのぼのしたお話でした。
今回は、一変して悪霊が登場する、別の説をご紹介します。


悪霊リリスから子どもを守る

「リリスよ、去れ」

あくまで民間語源(ある語の由来について、言語学的な根拠がないもの)という前提ではありますが、さまざまな文献でこのような由来が支持されています。

A folk etymology derives lullaby from "Lilith-Abi" (Hebrew for "Lilith, begone"). In the Jewishtradition, Lilith was a demon who was believed to steal children's souls in the night. To guard against Lilith, Jewish mothers would hang four amulets on nursery walls with the inscription "Lilith – abei" ["Lilith – begone"].

民間語源では、子守唄は "Lilith-Abi"(ヘブライ語で "リリスよ、去れ")に由来する。ユダヤ教の伝承では、リリスは夜に子供の魂を盗むと信じられていた悪魔である。リリスから身を守るために、ユダヤ人の母親たちは「Lilith - abei」[リリスよ、去れ]と書かれた4つのお守りを子供部屋の壁にかけた。

Wikipedia contributors. (2024, March 2). Lullaby. In Wikipedia, The Free Encyclopedia. Retrieved 13:10, March 7, 2024, from https://en.wikipedia.org/w/index.php?title=Lullaby&oldid=1211420125
Translated by Deep L

リリスはアダム最初の妻とされ、アダムとリリスの交わりから悪霊たちが生まれたとも言われるほどの悪魔。
夜の子供の魂を盗む悪魔リリスから…身を守るために…身震いがします。
語源としては、"lull"が「リリス」で、"aby"が「去れ」になります。

さらに、「リリス」の"LYL"の部分は「夜」の女性形、「嵐の妖怪」など見解が様々あります。この説に従えば、前編で取り上げた「なだめる」等の語源とはまた異なる趣を纏いますね。

「by」の扱いも、「そばにいる」と「去れ」と、真逆のようにすら捉えられます。

レディ・リリス、1867年 · ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ

魔除けの意味が込められた子守唄

この説が強く支持されているためか、多くの子守唄は、神の加護を求めたり、子供たちを見守るために天使を呼び寄せたりしていると言います。

例えば、All Through the Night という子守唄では、「我が子よ 眠りなさい そして平安があなたを守ります 一晩中守護天使があなたを遣わします」(意訳)と歌われております。

昔は赤ちゃんの死亡率が高く、かつ現代のような医学的な知見のない時代は、悪霊をはじめとした目に見えないものへの畏れは想像以上だったのでしょう。

こもりうたは「おまもり」

2つの語源説で感じたこと

1つ目の説は「なだめ、そばにいる」、
2つ目の説は「リリスよ、去れ」。

どちらも仮説であり、正しさを争うものではありませんが、今回調査をして気づいたことが一つ。

生きる時代も宗教も違う私の親心が、何度も何度もうずき「うん、うん」と頷きながら調べ進めていたこと。
そばにいるからね、よしよし
 そしてどうかこの長い夜も守られ、何事もなく朝を迎えられますように。

言われてみれば、そんな祈りの気持ちが心にずっとある気がします。

祈りがお守りに、歌に

低月齢期は親も睡眠との戦いで記憶がありませんが(笑)、まとまって眠れるようになればそれはそれで、自分が寝ている間に何かに気づかずSIDS(乳幼児突然死症候群)が起きたらどうしよう、窒息していたらどうしよう。

眠るというのは、少なからずその場から意識が離れる怖さとも隣り合わせ。
ユダヤ人の母たちがお守りを掛けていたように、不安な気持ちが祈りに、祈りがお守りにと、形を成してきた気持ちは痛いほどわかります。

こもりうたの根っこは、お守りの音楽なのだなと。そう感じました。

語源はまだまだ入り口

2回に分け、語源からこもりうたの世界を覗いてみました。
言葉は表象の一部、まだまだ入り口です。
時代・世界共通の愛情は感じられましたが、実態は暴れん坊との格闘や泣き声シャワーの洗礼など、もう少し過酷な色が見えてもいいのでは?と感じています。

次回は、視点を日本に。
こもりうたの本音の部分がもう少しリアルに見えてきたのでご紹介します。


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