見出し画像

FUDO-KI

今は古代。何かが起きる時代。国が起こる時代。


〈前回までのあらすじ〉
黍国では前国王の浦島鳴(うらしまなり)の死去が発表され、副王だった賈智陽(かじやん)が新国王に就いた。賈国王は国防に力を注ぎ、体制を整えていく。
そんな中、ヒヌカ連合あらため『ヤハト国』は黍国へ第二次侵攻を開始する。主要4拠点に一斉総攻撃を仕掛けたのである。
その混乱に乗じて、佐々孟利や八女天主らが賈体制へのクーデターを画策する。その先鋒としてコードネーム「団子」が動き始める。「団子」は『ヤハト国』軍より先に賈国王の首を獲るために結成された、若いメンバーだけの少数部隊である。
「団子」は新山城へたどり着き…。


~第28話 侵入~

まだ反逆がバレていないとはいえ、戦闘になってしまったら多勢に無勢。必然的に「団子」は新山城の裏手に回った。新しい城であるが故に城内を熟知できていない。より慎重に行動する必要があった。

ここからは佐田阿是彦(さたあぜひこ)が手引きをしてくれる約束になっている。「団子」の面々が物陰に隠れて待っていると、門が開いて男が1人出てきた。阿是彦である。

「団子」は静かに近寄って合流し、列になり門に向かった。その時である。
「誰だー!おい誰かいるぞー!」
物見櫓に登ったばかりの監視兵にみつかってしまった。
「オレだ!佐田だ!」
阿是彦が敵ではないことをアピールする。しかし「団子」は武器を構えた状態で移動していた。監視兵からすれば敵が侵入しているようにしか見えない。
「おーい!敵だ!敵だ!」
監視兵が大声を出すと、数人が現れ門を閉め始めた。

とっさに「団子」が走り寄るが間に合いそうにない。佐々仍利(ささじょうり)は俊敏に門によじ登った。大きな門ではないが3メートルくらいはあるだろう。その姿は野猿のようである。そのまま門の裏側に降り立ち、集まった兵に飛びかかった。鵜照(うでり)と鷹照(たかでり)が後を追う。

更に富田真臣(とみたまおみ)も門によじ登る。門の上から仍利らを確認すると、そのまま物見櫓に飛び移り駆け上がって、監視兵に襲いかかった。その姿は雉の様に華麗である。

佐々仍利が中から門を開け放つと、百千武主実(ももちむすみ)、片岡太練(かたおかたねる)、佐田阿是彦も中に入り様子を伺った。しかし、それ以上の敵の襲来はなかった。あっという間に裏門を制圧した。

阿是彦が低い声で言った。
「城内のヤツらには酒を振る舞った。今頃は大宴会のはずだ。すぐに大勢が来ることはねーが、今からはスピード勝負だ。分かってるな。」
城内でみつかれば、瞬く間に兵が集まり殲滅されてしまうだろう。「団子」たちは阿是彦に導かれ、静かにそして全速力で賈国王の間を目指した。


途中、数人には出くわしてしまったが、常日頃から戦場を駆け巡る「団子」にとっては赤子を捻るようなものだ。素早く倒し国王の間までたどり着いた。文官の阿是彦ですら息を切らしていないのは流石である。

後ろ向きに椅子に座っている男がいる。しかし、賈国王とは雰囲気が違う。男が振り返る。
「お待ちしておりマシタ。見たコトがある人たちデスネ。」
賈国王の腹心の文官 尚小(しゃんしゃお)である。

「佐田様が加担してマシタか。マサカあなたの様なヒトが。ソレカラ片岡太練。」
太練の名前が出たことで武主実や仍利は警戒した。途中加入したものの全幅の信頼を置けている訳ではない。
「長話はいらん。尚小よー。賈智陽はどこ行った?」
阿是彦が詰め寄る。
「ここには居ませんデス。どこかは言いませんデス。」

隊長 武主実、判断の刻である。尚小を倒したとしても目的は賈国王の暗殺。このままでは失敗となる。どうしても賈国王の居場所を特定する必要がある。どうするか。

結論が出る前に尚小が号令をかけた。
「1人も逃がスナ。行け!」
奥に潜んでいた20名程の兵が囲んだ。と思った瞬間、阿是彦が刀で薙ぎ払った。武官以上の手の早さ、これぞ阿是彦である。武主実は少しニヤけた。まだ考えが纏まっていなかったが、まずは面前の敵を倒すことが先決である。

尚小も手練れを集めていただろうが、ここでも「団子」の強さは圧倒的だった。それぞれが相手を手玉にとり、3倍程の差をものともせず打ち負かす。
「さあ尚小。賈智陽はどこだ?」
やはり居場所を言いそうにない。覚悟は出来ていると言わんばかりに、椅子に座り直し目を閉じた。それを察したように阿是彦は尚小を斬った。

尚小は祖国を同じとする、牟羅(もうら)や崔泰烏(つぁいたいう)と共に賈智陽体制の構築に尽力してきた。この中では腕力に欠けるが随一の頭脳を誇り、国力充実のキーマンとなった。特に鉄の生産強化と流通は中核的な役割を担った。黍国の豊満な経済は尚小の手によるものと言っても過言ではない。

名臣 尚小がここに散った。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集