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『すべて真夜中の恋人たち』|読書感想文

川上未映子さんの『すべて真夜中の恋人たち』を読んだので、その感想を書きます。タイトルに惹かれたので、なんとなくで選んでみました。

あらすじ

<真夜中は、なぜこんなにもきれいなんだろうと思う。それは、きっと、真夜中には世界が半分になるからですよと、いつか三束さんが言ったことを、わたしはこの真夜中を歩きながら思い出している。>

入江冬子(フユコ)、34歳のフリー校閲者。人づきあいが苦手な彼女の唯一の趣味は、誕生日に真夜中の街を散歩すること。友人といえるのは、仕事で付き合いのある出版社の校閲社員、石川聖(ヒジリ)のみ。ひっそりと静かに生きていた彼女は、ある日カルチャーセンターで58歳の男性、三束(ミツツカ)さんと出会う・・・。

あまりにも純粋な言葉が、光とともに降り注ぐ。
いま、ここにしか存在しない恋愛の究極を問う衝撃作。

Amazonの紹介文から引用

不器用な主人公

主人公の冬子さんは、とにかく口数が少なくて、自己主張ができない不器用な人物だなと感じました。職場では人間関係に悩まされていたそうですが、友人の聖さんにフリーランスを提案されて、冬子さんは自宅で一人、校閲の仕事をするようになりました。ビールや焼酎などを朝から飲んで、アルコールに頼らないと、知り合った三束さんともまとも話すことができなかったらしく、そんな姿を見ていると少し胸が痛みました。与えられたものにはひたむきに向き合って、仕事ではよい成果を出しているようでしたが、家でゲラ(校正・校閲のための試し刷り)を読み続けて終わる彼女の一日には、少し寂しさを感じました。

対照的な二人

冬子さんと友人の聖さんは、とても対照的でした。聖さんは、自分のお意見をしっかり持っていて、口論にも強いタイプで男性関係を結構持っている?ような人物でした。冬子さんは自分の話をしたがらないし、話を聞くのが好きなようなので、いつも聖さんの話を聞いている様子が見受けられました。私は冬子さんが聖さんに少し振り回されているようにも感じましたが、友人関係ってそんなものなのかなあ…とも思いました。対照的だからこそ、凹凸がうまく組み合わさって、関係が長く続くという一面もあるのかもしれませんね。

誤植のない本はない

何人かの校閲者がいくら校正・校閲を重ねても、本が世に出回るまでに気づけない誤植があるらしいです。そして、本が出回ってから数年後に気づかれる誤植もあるとか…。私もつい最近、本の誤植に気づいたことがあります。人間の手によって、生み出されるものにはどうしても間違いが付き物なんですよね。AIに任せてしまえば、本の誤植もなくなるのかもしれませんが、完璧なものでなくても十分かなあ…とも思います。私も自分のnoteを読み返してみると、誤字脱字が思ったよりもあるということによく気づきますしね。

繰り返される喫茶店でのひと時

冬子さんと三束さんが同じ喫茶店で、繰り返し会って、紅茶とコーヒーを頼んでぎこちない会話をしている場面が素敵でした。度重なって訪れる沈黙の時間に、二人とも言葉を探している感じでしたが、言葉選びって難しいよなあ…と共感できました。友達とか恋人とか、ありきたりな言葉では表現できないような二人の関係性がなんかいいな…とも思いました。喫茶店って、一人で静かに飲み物を飲んで過ごすのも良さそうだけど、誰かと会話して時間を共有するのもなかなか良さそうですね。

感情が引用に思える

「自分の感情がわからなくなる。うれしい、悲しい、不安などといった感情はまるで他人から引用されたもののような感覚に陥る。」というような聖さんのセリフが印象に残っています。そのとき自分が抱いている感情にそぐう言葉って、よくわからないものだと思います。なんなとなく、「うれしい」「悲しい」って、わかりやすい言葉に自分の感情を当てはめているだけ…?みたいに感じることも私はあります。感情は理解するのも、言葉で表現するのも難しいと思います。

誰かを好きになる切なさ

お互いに好きな気持ちはあるとわかってはいるけど、うまく親密になれない様子から、恋愛の難しさを感じました。人を好きになったときの切なさや苦しさもとても伝わってきました。恋愛なんて、人生を彩る一つの要素にしか過ぎないのでは…と私は思うのですが、感情面で大きく揺さぶられるという点では、人は成長できるのかもしれませんね。冬子さんを見ていると、わかりやすく恋に魅せられているようにも感じられたので、恋は盲目という言葉を思い出しました。


全体を通して、冬子さんの細やかな心情が描写されていましたが、登場人物の女性陣にリアリティがあって、いい意味で気持ち悪さのようなものも感じました。三束さんが冬子さんにした光に関する説明も印象的でした。正直、よくわからなかった部分もありましたが、独特な表現もあって読んでいて不思議な感じがしました。恋愛小説というよりは、冬子という一人の人物を取り巻く人間ドラマを見ているような感覚でしたね。

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