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『コーヒーが冷めないうちに』|読書感想文

川口俊和さんの『コーヒーが冷めないうちに』を読んだので感想を書きます。私はコーヒーが大好きなので、読んでみました。ちなみに、2018年の本屋大賞ノミネート作品で、有村架純さん主演の映画もあるそうです。

あらすじ

とある街の、とある喫茶店の、とある席に座ると、望んだとおりの時間に戻れるという。ただし、そこにはめんどくさいルールがあった。

あなたの戻りたい過去は、いつですか?
「過去に戻れるのはカップがコーヒーで満たされてから冷めてしまうまでのあいだだけです。」

この物語はそんな不思議な喫茶店で起こった心温まる四つの奇跡
第1話「恋人」結婚を考えていた彼氏と別れた女の話
第2話「夫婦」記憶が消えていく男と看護師の話
第3話「姉妹」家出した姉とよく食べる妹の話
第4話「親子」この喫茶店で働く妊婦の話

Amazonの紹介文より引用

面倒くさいルール

プロローグに書いてある通り、ルールが多いし、非常に面倒くさいものだなあ…と思いました。それだけ時の流れに逆らうのには、制約が必要なんだな…と思わされる内容です。プラスで幽霊や呪いまで出てきましたからね。とにかくへんてこな話です。

過去に戻りたいと願う人がその喫茶店に押し寄せていた時期があったそうです。でも、いざ改めて話を聞くとあまりにも条件が多すぎるし、喫茶店の中だけでしか、それも数分間くらいしか過去に戻れないならいいや…とほとんど諦めて帰っていくそうです。興ざめというやつでしょうか。

設定からして、喫茶店の常連じゃないと使えないし、使う意味もないようなタイムスリップです。でも、喫茶店で働く店員さんもこのタイムスリップを利用していたので、意外に感じました。店員さんの名前が「ながれ」「けい」「かず」だったので、名前もこの世界観に合わせているのかなあ…と感じました。仕組みはよくわかりませんが、ルールや構想が徹底されていて、本当の都市伝説みたいで不思議な面白さがありました。

不釣り合いな恋人

恋人の話では、バリバリのキャリアウーマンの才色兼備な女性が、仕事のためにアメリカに発つ彼氏に別れ話をされた1週間前に戻りたい、と喫茶店の店員に頼みます。「私と仕事、どっちが大事なの?」という心の声には、いかにも女って感じがするなあ…と思いました。妹や弟に結婚を先に越されて焦っている感じ、両親から結婚を急かされている感じがリアルないやらしさを表していました。

その女性が過去に戻ってからは、相手の男性が「僕は君にふさわしくない男だ」「好きになっちゃいけない」と思っていたことがわかります。カップルの釣り合いというのは、大事なんだなあ…と思いました。そりゃあ綺麗な人と付き合えたら嬉しいだろうけど、自分に自信がないと、相手が何で自分のことが好きなのかわからなくなったり、コンプレックスを感じたりして、辛そうです…。きっと話し合いが足りていなかったんだなあ…って、思いました。

記憶を失っても夫婦でありたい

夫婦の話では、常連客の若年性アルツハイマーのおじさんと看護師の女性をめぐって、話が展開されていきます。看護師の女性はそのおじさんの妻であるようでしたが、どうやらそのことも忘れられているようでした。夫婦だから姓は同じなのに夫を混乱させないために、自分の名前を旧姓で呼ばせ、忘れられても看護はできると自分に言い聞かせているのが切なかったです。

そんな看護師の女性は過去に戻って、まだ記憶が残っている夫から手紙を受け取ることになります。そこに書かれていた「おれの前では看護師でなくていい。夫婦だから。」というような内容がとても感動的でした。それからというものの、彼らが夫婦として喫茶店で会話を楽しむ様子が微笑ましく思えました。たとえ、相手が自分のことを覚えていなくても、「私はあなたの妻です」って何度も言うのには、温かい夫婦愛を感じました。

夢は姉妹で一緒に旅館で働くこと

姉妹の話では、実家の旅館を継ぐことを拒否して家出して、何年も一人でお店を営んでいる女性が3日前の過去に戻って、自分に会いに来てくれた妹と話をします。自分に会いに来た帰りで妹が事故死してしまったから、会いにいったんです。何度も実家に戻るように説得しにきてくれた妹に対して、「自由に生きている私のことを責めている」「自分にはどこにも居場所がない」とその女性は思い込んでいたようでしたが、実際は全然違っていたようでした。

逃げ続けていた妹と向き合って話をして、妹の夢は「お姉ちゃんと旅館で一緒に働くこと」だったと知ってからは、その女性は実家に戻って働くことになります。一人で実家を継いだ妹の苦労もそのときに強く身に染みたようでした。妹がいなくても、一緒に働くという夢を叶えてあげようと心変わりして、険悪な仲になった両親の元に帰るなんて、すごいなあ…と思いました。

時空を超えて会いに行く母娘

親子の話では、妊娠している体の弱い喫茶店の店員が未来に行って生まれた娘に会いに行きます。過去だけでなくて、未来にも行けるんだ…とちょっとびっくりしました。でも、その娘さんは実は過去の自分に会いに来てくれた女の子だったんですよね。まさかとは思っていましたが、やっぱりそうだったんだな…となるくらいにわかりやすい伏線があったので、母娘両思いでいいなあ…と思いました。

現実は変わらないけど、人の心は変わる

ルールにもありますが、タイムスリップして過去に戻っても、現実は何も変わりません。彼氏はアメリカに行ったし、夫の記憶は失われていくし、死んだ妹は戻ってこないし、生まれた娘を見守り続けることはできないんです。でも、過去のひと時を取り戻しただけで、人の心が変わり、行動が変わっていました。それだけで大きな意味があると言えそうですね。


喫茶店のお客さんや店員が過去や未来に行くという、現実離れした話でしたが、心温まる話の数々でした。まるでホットコーヒーを飲んだときみたいなほろ苦さとしんみりとした温かさが感じられました。ファンタジーな要素があって心地よい気分になれる作品です。

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