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佐川恭一「子供部屋おじさん」

◆作品紹介

目覚めるたびにクソみたいな現実がのしかかる。人生は生まれる前から決まっている。顔面は醜悪、職場は地獄、女子高生は俺をゴミを見るみたいな目で罵り、満員電車でガキが空いた席をかっさらう。会社では係長が唾を飛ばして怒鳴り、同僚どもは嘲笑い、俺はただ震えて立ち尽くすだけ。運命は存在する。努力は何も救わない。だけどみんな本当のことは語らない。世界はほんのひと握りのやつらが、出来レースの結果を回し合うことで回っている。俺はただそれに付き合わされている。何もかもが欺瞞。何もかもがフェイク。何もかもがポーズだ。だから俺はハンマーを手に、書き割りみたいな舞台を破壊するんだ。そう、オツボネの歯を砕き、ガキのスマホを踏み潰し、イケメン野郎の顎をぶち抜いてやる! ――だが俺は何もしない。今日も沈黙し、明日もまた生き腐るだけだ。何もかもを呪いながら。何もかもに呪われたまま。
※ちなみに現代日本版「ジョーカー」かと思いきや著者によれば太宰治「女生徒」のパロディらしい。(編・樋口恭介)

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