見出し画像

ぐりとぐら ぜんぶ読む!【前編】|ぐりとぐらの命題は食べること?明るさの理由は?なぜ家族は描かれないのか?いろいろ考えました



 先日『ぐりとぐら』で有名な絵本作家の中川 李枝子さんが亡くなられました。89歳だったそうです。たくさんの絵本で親しみがあったのでとても残念です。ご冥福をお祈りいたします。
 子どもの頃何度も『ぐりとぐら』を両親に読んでもらっていました。あの大きなかすてらがとても印象に残っているという人も多いと思います。中川 李枝子さんと妹の山脇百合子さんは個人的に少し身近に感じていました。なぜなら、中川さん姉妹は札幌生まれですが、私も札幌出身です。そして母と歳が近い。中川さんが昭和10年生まれで、私の母が昭和15年生まれで5歳違いです。また、お父様が北大で遺伝学を研究していたそうですが、私の祖父も北大で建築系の研究をしていたそうです。さらに、世田谷に引っ越された後ですが、保育園の保母さんをしていらっしゃったそうですが、僕も保育園育ちなので幼稚園とは違った教育環境でした。そんな思い入れのある中川さんの数ある作品の中でも今回は『ぐりとぐら』取り上げて、それもシリーズを全部読んでその感想を書いてみたいと思います。

まず今回全部の本を読んで感じた3つのことを先に言ってしまおうと思います。

1 ぐりとぐらの大命題はおいしいものをたべて誰かと仲良くなること
2 氷河期世代の親達にはまぶしいくらいの明るさと正しさの理由は?
3 ぐりとぐらはどういう関係か?そしてなぜ家族が描かれないのか?保育園、戦争との関わりは?

ではひとつづつ詳しく見ていこうと思います。

1 ぐりとぐらの大命題はおいしいものをたべて誰かと仲良くなること

 絵本というのは物語ですから何かを達成したり、乗り越えたり、成長したりするものです。ですが、ぐりとぐらはシリーズをとおして食べて誰かと仲良くなるのが大命題となっています。 

 ぐりとぐらシリーズは7作もあります。こんなにシリーズ化されていたことに驚きですが、シリーズでいろいろな食べ物が出てきます。

1.ぐりとぐら 1967 【かすてら】
2.ぐりとぐらのおきゃくさま 1967 【クリスマスケーキ】
3.ぐりとぐらのかいすいよく 1976 【無し】
4.ぐりとぐらのえんそく 1983 【えんそくのおべんとう】
5.ぐりとぐらとくるりくら 1992 【サンドイッチとサラダ 10時のおやつ】6.ぐりとぐらのおおそうじ 2002 【にんじんクッキー】
7.ぐりとぐらとすみれちゃん 2003 【かぼちゃのごちそう(かぼちゃのプリン、かぼちゃのコロッケ、かぼちゃドーナツなど)】

『かいすいよく』を除いて毎回食べ物が出てきます。シリーズの初回にでてくる歌がそれを物語っています。みんなの心に残っているセリフだと思います。きっとそれぞれのお母さんがいろいろなメロディーをつけて歌ってくれたと思います。

ぼくらのなまえはぐりとぐら 
このよでいちばんすきなのは
おりょうりをすること たべること 
ぐりぐら ぐりぐら
(『ぐりとぐら』より引用)

 毎回、誰かに出会いますが、最後には食べて仲良くなります。お菓子研究家・福田里香さんの『フード理論』を参考にすると「何かを一緒に食べるというのは、腹の中を見せる、腹を割るという言葉のように、友情や仲間として仲良くなるという行為になる」ということです。(参考文献『ゴロツキはいつも食卓を襲う フード理論とステレオタイプフード50』太田出版)
 しかし、仲良くなるためなら食べるシーンがお話しの途中にあって、それから何か目的を達成するという流れでもいいはずです。でもぐりとぐらの場合はそこがゴールなんです。出会った誰かと食べることがゴール。これがぐりとぐらのシリーズを通しての特徴とも言えます。歌にもあるように、食べることが一番にくるのはやはり戦争体験が中川さんの影響していること考えざるをえません。(戦争体験について中川さんはいろいろな媒体でお話されています。ネットでも探してみてください)

 戦時中、そして戦後もとにかく食べ物が無かったという話はよく母から聞きました。お米がないので、オイモをふかしたものが主食だったとか、おかずがあまり無かったりしたそうです。中川さんも同じ時期を札幌で過ごされているので似たような体験をしていたはずです。また、誰かと一緒に食べ物を食べる。このことも安心であり平和や安らぎだったと思います。一人で食べるのではなく誰かと分け合う。そのことも貧しい時代を生きた経験があるからこそ、誰もが貧しいから分け合うということが身にしみているのだと思います。食べ物を分け合って、仲良くする。この行為は人間にとっては本能的に大切で楽しいことなので、ちょうど幼年期の子どもの成長時期と重なって、時代を超えて子ども達に共感される理由の一つなんだと思います。
では2つ目の感想について考えたいと思います。

2 氷河期世代の親達にはまぶしいくらいの明るさと正しさはどこからくるのか?

 妹の百合子さんの絵は白い面積が多くて、軽やかなペンのタッチと鮮やかな色使いもあって、ぐりとぐらはとても正しくて明るい感じがします。
 ただ、大人になって子どものために読み聞かせをして再読してみると、自分がやさぐれてしまったのかもしれませんが、素直に読めないところもありました。僕のような就職氷河期世代で、バブルも終わり経済的な成長も期待できない時代を生きてきた世代にとっては、あまりにもそれが眩しすぎるというか、清らかすぎると感じました。もちろん、純真な子どもにとっては、この明るさ正しさがとてもワクワクするんだと思いますが、それに引っかかってしまう自分がやさぐれた大人になっちまったな~と思うのです。
 でもよく考えると中川さんや母の世代はどん底の戦争を経験してるのです。ゼロから日本全体が成長していくというのは、例えば家に何も無かった時代から、三種の神器と言われた、冷蔵庫、洗濯機、掃除機が家庭に入ったり、その後3Cと言われたカラーテレビ、クーラー、カー(車)が導入されたりすることです。映画『三丁目の夕日』でもその時代の雰囲気は描かれていますし、現在放送中の軍艦島が舞台の『海に眠るダイヤモンド』でも昭和の高度経済成長が描かれています。生活がどんどん豊かになっていくのを実感できた時代。上を向くしかないというか、後ろには戦争しかないわけで、悲しさを振り切るためのポジティブさだったのかもしれません。そして、様々な時代の流れを経験しても中川さんは、その純真さ素直さを大人になっても持ち続けることができたというのが、素敵だと思いました。

 またこのシリーズは必ず、誰かと出会って仲良くなることも大事な要素です。

1.ぐりとぐら 1967 【もりじゅうのどうぶつたち】
2.ぐりとぐらのおきゃくさま 1967 【ひげのおじいさん】
3.ぐりとぐらのかいすいよく 1976 【うみぼうず】
4.ぐりとぐらのえんそく 1983 【くま】
5.ぐりとぐらとくるりくら 1992 【くるりくら うさぎ】
6.ぐりとぐらのおおそうじ 2002 【うさぎ】
7.ぐりとぐらとすみれちゃん 2003 【女の子】

 やさぐれた私のような大人はみんな簡単に仲良くなっているように思いますがそうではないんです。中川さん達は戦争で疎開を経験した世代です。疎開というのは、都会に住んでいると戦闘機の攻撃で危険なので、田舎に子ども達だけ一時的に避難のために別居するということです。その疎開先では、都会の子ども達と田舎の子ども達の間でたびたび衝突がおこっていたそうです。中川さんも疎開をされていたとインタビューでお話しされていますが、知らない土地に親元を離れて子ども達だけで移住することのなんて心細いことか。
 そんな経験で、当時の子ども達の不安や心細さをわかっているから、知らない誰かと出会って仲良くすることの大切さを毎回表現されたのではないでしょうか。戦争を知らない私のような人間が読むと、友達と仲良くなっているだけ、なんて表面だけを見てしまったことに反省です。この楽観的だったり、明るくて正しい感じは、幼少期の物が無かったり、疎開先での苦しい体験の裏返しだったのだと思います。そして先が明るいと信じている好奇心は、ぐりとぐらに影響をあたえていると感じました。

そして最後ですが 

3 ぐりとぐらはどういう関係か?そしてなぜ家族が描かれないのか?保育園、戦争との関係?

こちらはちょっと長くなってきたので後編にしたいと思います。
後編はこちらです。


いいなと思ったら応援しよう!