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社会人6年目にして「ビジネス」が理解できて衝撃を受けた話

「ビジネス」というものが、長いこと、よく分からなかった。

小さい頃から本ばかり読んで、受験戦争に明け暮れて、大学で文学まで専攻して卒業し、全く経済やビジネスに触れる機会がなかったから、という部分を差し引いても、ここまでしても分からないか?と思うくらい、私には、どうしても、どれだけ頑張っても、「会社が何らかのサービスや商品を提供して、その対価として利益を得る」というその概念が、頭に入ってこなかった。

インターンもしていた。バイトもしていた。それでも、目の前の作業をこなすことはできても、その大元の会社とか経営とか経済とか、そういうことが全く分からなかった。

それは社会人になっても同じだった。ひょんなことから資本主義の権化みたいな場所で働くことになり、毎日真夜中を越すまで働き続けるようになっても、しかもその中身がビジネスについての仕事だったのにも関わらず、それでも、ビジネスの意義とか、資本主義の原理とか、経済的なものがいまいち分からなかった。しかも周りはみんな「そんなのが分かってるのは当然っしょ」という感じだったので(いい人ばかりの職場で、誰も明確にそんなことは言っていなかったけど、勝手に私がびびっていた)困惑を隠さないといけなくて、仕事で成果が出ても、褒められても「いつ私が訳が分からないまま働いていることがバレるんだろう」という恐怖が募った。

もちろん本を読んで勉強したりもした。でも一章目の出だしのところでいきなり「経済活動は〜」「効率的な生産は〜」とか言われると、意味が分からず、つまづいてしまう。無理やり読破してみたり、オンライン授業をとってみたり、本当に頑張ったんだけど、そしてパーツごとに言っていることは分かるような気はするんだけど、でも全体像が何だか理解できない。

もう自分にはビジネスは向いてないんだ、会社員も向いていないのかもしれない、ごまかし続けて分かっているふりをし続けて生きていかないといけないのかもしれない、なんて思って諦めかけていたのだが、それが、なんと、今週、いきなり分かるようになった

あまりのことに、自分でも衝撃を受けて、しばらく椅子に座ってぼーっとしてしまった。なんだ。こんな簡単なことだったのか。

きっかけは「ビジネスが分からないまま、あの死に物狂いで働いた時間が無のままなのはもったいない。とにかく向いてなくてもいいから、一応理解はしてますと言えるくらいに、どうしてもなりたい。やっぱり諦められない」と思ったことだった。

もう一回、ダメ元で、基礎の基礎から始めよう、と思った私は、まず、YouTubeで「business basic」とググった。(基礎の解説みたいな動画は、たいてい英語の方がバリエーションが多いので、何かを知りたい時は一旦まずは英語で探すことにしている)

そしたらこの動画が出てきた。

これは、韓国の大学でこれからビジネスを学ぼうという学生向けに、ベテラン教授が「ビジネスを勉強するとはどういうことか」を、ビジネスという分野の全体像を体系化して話した動画で、めちゃくちゃ分かりやすい。韓国人の学生向けに英語で話しているため(そういう国際プログラムなのかな?)英語も話し方もゆっくりで頭に入ってきやすい。

その話によると、ビジネスを理解するためには、まずは事前の前提知識として、1. 簡単な数学 2. 経済の知識 が必要とのことだった。

ふむふむ、と思った私は、数学は一旦置いておいて、経済について調べることにした。今度はYouTubeで「economics basic」と調べる。

出てきた検索結果の中から、一番面白くて分かりやすそうな動画を選んで見てみた。706万回再生されている、初心者向けの経済学の解説動画だ。

そしたら、こんなことを言っていた。

「経済は、人と選択についての学問です。とある高校生が大学に進学するべきか、仕事に就くべきか。暇な時間を、子犬の動画を見て過ごすか、この動画を見て過ごすか。コストとメリットを比べて、どんな選択肢を取るか、という日々の行動すべてに関わるのが経済です」

「経済について学ぶ時に大事な二つの前提があります。1. 希少性。人の欲望は無限だけれど、それを得るリソースには限りがある 2. コスト。全てのものにはコストがかかる」

「これらの前提を踏まえると、何かを得たいと思った時、私たちは目の前にある選択肢を分析して、限りあるリソースの中でできるだけ多くのものを手に入れる必要があります。それが経済です」

これだ!!と思った。ここ。この、全ての基礎、ビジネスの前段階の、経済のそのまた前段階の、「人の欲望は無限だけれど」の部分。

ここが、私にはピンときていなかった部分だった。何年も、何年も。

ここからおそらくちょっと意外な方向に話が進むので、もしかしたら逆に読んでいてピンとこない方も多いかもしれないのだけど、私には、長いこと、「何かを欲しがる」ということが実感として湧かなかった。

もちろん欲しい服とかコスメとか、食べたいものとか行きたい場所とか細々した欲望はあったけれど、それらは目の前の狭い世界の中で私がとりうる現実的な選択肢として差し出された、本当に幅の狭い世界のことで、それらを超えて、たとえば好きな仕事がしたいとか、こういう未来を実現したいとか、そういう大きいスケールでの、欲しがる自由みたいなものが、あまりなかった。

それは、大金持ちになりたいとかそういう欲望の話ではなくて、「こうできたら嬉しいな」「こういうことができたらいいな」という自由の話であり、早い話が私は長いこと社会やら周囲の期待やらに応えることで精一杯で、あまりに長いことそういうことをし続けた結果、それが人生なのだ、とにかく要求されたことを100点で返すのが人生だ、それが世界の有様だ、と思っていた節があった。だからこそ人生に疲れ果てていたし、何もかもの訳が分からなくなっていたし、次に何をしたらいいのかも分からなくて立ち止まることも多かった。世界は灰色で、すでに出来上がった物事やルールで動いており、傍観者の私にはそれを変える力も、その一部としてそれに働きかける力も、全くないと思っていた。

どうしてそうなったのか、は長い話になるのでおいておくけれど、この「みんな何かを欲している、その欲しいという思いをもとに国も会社も個人も動いている」という前提が、私個人の人生には当てはまっていなかった。

だから、経済が分からなかった。だから、ビジネスも分からなかった。

数年前、がむしゃらにビジネス本を読んでいた時期に手に取った名著「イシューからはじめよ」に、こんなことが書いてあった。

脳は脳自身が「意味がある」と思うことしか認知できない。そしてその「意味がある」と思うかどうかは、「そのようなことが意味を持つ場面にどれくらい遭遇してきたか」によって決まる。

「イシューから始めよ」 安宅和人著 p.40

完全に迷子状態だったその頃は「確かに、経済の授業を取ったこともないし、実家が商売をしていたわけでもなかったし、だから理解できないのかも」と思ったけれど、今なら分かる。私にとって、「何かを欲しがってそれを得たいと思い、そのために行動する」という場面が、経験として少なすぎたのだ。受験も就職も、とりあえずやったことばかりだった。だから、欲したものを得るために皆が動き、その動きが束ねられた大きなうねりとしての経済というものがピンとこなかった。

なぜ今になってその自由がピンとくるようになったか、も、長い話になってしまうので一旦脇におくけれど、去年ニューヨークで自分を大切にしてみたり、憧れを実現してみた話も、その一環だ。

ゆっくりと時間をかけて、私は、自分で選択し、自分でその喜びを享受する練習をしていた。そうやって自分と世界の認識が変わっていった結果、時を経て、いきなり経済の根本の前提が理解できるようになっていた。

なんだ。こういうことだったのか。だから理解できなかったのか。

そう思った瞬間、目の前の道がさぁーっと開けるのを感じた。

あれ?ということは、ビジネスも、もしかして、そういうこと?何かのサービスや商品を提供したい!その対価としてお金を儲けたい!みたいなことを思った人が、それをする仕組みを作って、組織化したのが会社ってこと?

根本の「人の欲望」から組み立てた瞬間、ビジネスの意味が、すっと頭に入るようになっていた。

もしかして、と思って経済のYouTube動画の続きを見たら、めちゃくちゃすんなり内容が頭の中に入ってきた。

そうか。国も、持っている資源をできるだけ有効活用して何かを作り出したい!そうやって豊かになって発展したい!と思っているのか。会社も、いろんな工夫をしてより良いサービスを作って、それを人に効率的に届けたい!と思っているのか。もちろん現実世界はもっと複雑で、そういう単純な欲望だけで物事が動かないことも承知の上で、経済を理解するにあたっては、それが前提になっているのか。

もしかしたら、と思って、本棚の一番下の、ほぼ見えない場所に追いやっていたビジネス書を適当に手にとって開いてみたら、こちらもいきなり意味が分かるようになっていた。

会計の意義も、損益分岐点も、キャッシュフローも、分かる。全部、ビジネスをよりよく運用したいと思って人が考え出したツールだ。YouTubeのビジネスの解説動画で体系が頭に入っていたからかもしれないが、長年訳が分からないまましていた仕事の点と点が、急につながった感触があった。

なんだこれは、と思った。私、この本、何度も挫折してきたのに。でも、この一瞬のアハモーメントのために、何年もかけて頑張ってきたのだ。

本を閉じて、放心状態でしばらくぼーっとした。

ここまで来るのに、本当に長い時間がかかった。苦しみながら出社していた数年前の私に、お疲れ様と声をかけてあげたい。いつか分かるようになるよ、と。諦めなくてよかった。

今は自由な時間を使って、上に紹介した経済学の入門のYouTubeビデオのコースを見たり、積読してあったビジネス書を読んだりして、遅ればせながら自分の抜けていた知識を埋めようとしている。

点と点が繋がる瞬間は、嬉しい。でもそこまですごく長い時間がかかることもある。それでも、それが可能なんだ、諦めなければいつか、苦しみの数年先に分かることもある、と身をもって体験できたことが、すごく嬉しかった。

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