漆塗りお弁当箱作り体験
漆塗りのお弁当箱を漆塗り職人に指導してもらいながら作りました。
場所は越前漆器の産地である福井県鯖江市河和田地区というところで、この産地には、軒下工房という越前漆器の職人さん達の団体がありまして、
このような思いを持って2000年から活動されているわけで、すでに20年以上も続いているというのが素晴らしいところ。
そんな軒下工房の取り組みの一つに、漆器づくり体験ができる「職人塾」という知る人ぞ知る人気の講座があります。
職人塾では木工、漆塗り、蒔絵体験から一つ選んで、それぞれの職人の工房で毎年1月から4~5ヶ月かけて作品を仕上げることができます。
おそらく日本全国探しても、本格的に漆塗りの作品を作るようなところは、なかなかないと思います。
実のところ、私は漆器屋に生まれ育ち、漆器業に何十年も携わっているにもかかわらず、職人塾に通うまで漆塗りを体験するという機会もありませんでした。
自分の名刺やnoteのプロフィールなどに「漆器修理アドバイザー」と、堂々と宣言しているのに、お恥ずかしい話なのですが・・・
漆に関して、ある程度の知識はあっても、それこそ見聞きしただけの知識であり、これじゃあダメだよなぁ…と時折思う事もあり・・・
そんな中、現在私の師匠である漆塗りの職人さんに、「職人塾で一から作ってみれば?」とお声がけいただいたのをきっかけに一念発起し、一昨年の2020年から初めて、あまりの楽しさに今年で三年目を迎えました。
まさにコロナとともに歩んできたような私の漆塗り体験。
ちなみに、職人塾自体は一年区切りで、一年で満足すれば卒業ですが、もっともっと続けたいと思えば、何年も通う事もできます。
実際、漆塗りや蒔絵など漆器作りに魅了され、何年も続けて通ってらっしゃる方が8割強という根強い人気の職人塾なのです。
奥が深い作業なので、ハマれば、本当にハマってしまうわけで、モノづくりが好きな人に本当におすすめです。
一つ気をつけなくてはいけないことを挙げるとすれば、
漆にかぶれる場合がある
ということくらい。本物の漆を使って作業を進めていきますからね。
そんな私の職人塾3年目(2022年)は漆塗りのお弁当箱に挑戦しました
1年目、2年目に作った漆器は、またいずれということで、
今回は出来立てほやほや今年の漆器作り体験を振り返ってみようと思います。
まずは材料の木地を揃えるところから
今年は、ずいぶん前から作りたかった漆塗りのわっぱ弁当箱を作ろうと決めていました。
『自分が塗ったお弁当箱にお弁当を詰めて持っていく』を実現するために。
材料は自分たちで思い思いのものを用意し、漆塗りだったらどんな塗りにするのか、蒔絵体験だったらどんな絵を描くのか、など師匠と相談しながら進めていきます。
それこそ、漆が塗れれば(密着すれば)素材はなんでもいいと思うし、ご指導くださる職人さんたちは塾生それぞれの希望を出来る限り尊重してくれるのです。
準備したのは、白木のわっぱ弁当箱3種類の他、お弁当箱に付随するお箸。
この時点で、すでにワクワクなのです。
揃えた材料をどんなふうに仕上げるかを決める
◇丸と小判型は杉のわっぱ弁当箱
元々ウレタン塗装が施されたお弁当箱なので、外側は杉の木目の風合を残そうと考え、外側はそのまま触らず、内側を漆の朱色で仕上げることにしました。
◇豆型は白松の二段弁当箱
外側が溜色、内側は朱色で塗ります。質感がグンとアップする仕上げに!
◇お箸は竹製
先端何センチかを蒔地といってザラザラの仕上がりにして、あとは色違いの色漆で塗ることにしました。
お箸の先端を蒔地にすることで、滑り止めの効果を持たせることができます!
とはいっても、竹のお箸なのでそのままでも滑りやすいということはないような気もしますが。
作業工程をざっと振り返ります
【下地】
木地固めといって、生漆を木に吸い込ませます。
いわゆる木地に免疫を作る作業
これから漆を塗っていきますよ~、という最初の段階ですね。
これで初日は終わり。
漆風呂で乾かすのですが、漆の作業は、塗って数日~1週間ほど乾かす→乾いたら研ぐ→研いだら塗る、といった作業を何度か繰り返し行います。
研ぎの工程は地味な作業ですが、仕上がりに影響してくるので丁寧かつ綺麗に仕上げることが大事なんです。
2日目(といっても一週間後)は、お弁当の内側に漆の錆付け作業をしました。
なぜこのような工程をするのか?というと、お弁当の枠と底板の接着面をしっかりガードするためです。
ここまでのことをしなくてもいいのかもしれませんが、お弁当箱の耐久性を考えると、錆を埋めるという工程をしっかり入れたほうが良いという我が師匠のお考えなので。なるほど、見えないところにひと手間もふた手間もかかるわけです。
木のへらで錆付けしていくのですが、師匠がお手本を見せてくれたときは、さも簡単そう(←当たり前か)に見えたのに、いざ素人の私がやり始めると、へら使いがなかなか難しくて予想以上に大変でした。ちょっと慣れてきたかなぁという頃には終了という・・・笑
お箸の方は木地固めをした後、先端に漆を塗って「地の粉」を蒔きました。
写真は、地の粉を蒔いて漆風呂に入れた状態です。
一つの作業をしたら乾かす この繰り返しです。
【中塗り】
ようやく、漆塗りの刷毛で漆を塗っていきます。
まずは内側を朱の漆で塗りました。
お弁当箱一つ塗るにも、今回3種類の塗り刷毛を使いました。
最初は幅の広い刷毛を使って、その後、内側の角の部分に溜まった漆を漉くために細い刷毛を使ったりと、狭い場所なのに3本も使うんです。刷毛の他にも外側にはみ出した漆を木べらでとったり紙で拭いたりと、とにかく丁寧に丁寧に・・・
朱の色は最初とても鮮やかな色ですが、乾かしていくうちにかなり濃いいろに変化します。
↑ 同じ朱とは思えないような黒っぽい赤色に変化!?
ここからまた徐々に明るく変化していくんですよ。
というのも、朱の漆の場合、『透き漆』に『赤の色粉』を混ぜて作られています。
漆は、徐々にゆっくりと透明化することで色粉の色が明るく出てくるので、黒っぽかった赤も、徐々に明るい赤に変化するのです。
内側の中塗りを2回したら、豆型のお弁当箱の外側の中塗りを2回、合計4日(1週間、または2週間空けて)通って中塗りを終え、最終工程の上塗りです。
【上塗り】
上塗りは、「つく」という木の棒に粘土みたいな粘着物を4隅に付けて塗ります。
この粘着物は何度でも使えるそうです。
↓
中塗りでも上塗りでも、塗る前に必ず漉し紙で漆を漉します。
漆を漉さないと、塗った時にゴミや埃がたくさん付くそうです。
上塗りの場合は、なんと3回も漆を漉すそうです!(前日に2回、当日塗る直前に1回)
ほんの少し塗るだけなのに、手間と時間がかかり、なんか申し訳ないなぁといつも思ってました。
ちなみに、中塗りと上塗りでは、塗る厚みも意識します。
上塗りの方が厚めに塗ることを意識して作業を進めましたが、あまり厚く塗ると漆が縮る恐れもあるので、充分に注意が必要です。
そして何より、塗った後の『ふしあげ』作業がこれまた私みたいな素人には大変!!!
『ふしあげ』とは上塗りした漆の上に付着した埃やゴミを一つ一つ丁寧に取り除いていく作業のことです。
鳥の羽の先を尖らせたものを使って、一つ一つ優しく突っつくような感じで取るのですが、これもまた慣れてないので時間がかかるかかる・・・
上塗り作業は人を入れないと職人は言います。通常は見学もNG。
確かに、少しでも埃が立たないところで一気に塗りたいですもんね。
一つでも目立ったゴミがあると、また最初から全部塗り直しということもあるそうです。
今回のお弁当箱は、10回通って仕上がりました。
仕上がった時は本当に感慨深いものがあります。
仕上がったお弁当箱がこちら
漆塗りは、塗ってすぐには使いません。
漆はゆっくり乾いて、より堅く丈夫になっていくので、このまま使わず半年から一年は寝かして(そのまま置いて)おきます。
天然素材の漆は、塗ってから育っていくのだと教えられました。
すぐ使えないのは残念だけど、しっかり乾かすことで、変色とか傷の原因をなるべく防ぐことができます。
漆塗りは、作るのも、作った後も気を長くもつことが大事
一年目の一昨年は、漆かぶれを恐れて、どの作業も常に薄いビニールの手袋をはめて作業をしました。
二年目の昨年は、漆にやや慣れて、塗る作業のみ手袋をはめました。
そして、三年目の今年は、めったなことでは漆にかぶれないことを認識し、最初の下地の作業以外、すべて素手で作業しました。
多少手に漆が付いても、全然平気だった・・・
漆器屋に生まれ育っているので、漆の免疫はしっかりできているみたい(笑)
そんなわけで、漆塗りの体験(修行?)はまた来年のお楽しみです。