もう、上書き保存はできないの。
夜10時。自分の部屋。ベットの中。
いきなりかかってきた電話の発信者を見て、心臓が飛び出た。驚きすぎて一度は無視してしまった。
初恋の人だった。
"ごめん出れなかった!なんかあった?"
"ごめん話したいなって"
あなたはいつも変わらない。話したかったなんてどうせ、思ってもないくせに。でも久しぶりに話してみたら面白いかも、彼氏も好きな人もいないしね。いまは。
"ぜんぜん話せるよー"
またかかってきた電話。発信者はやっぱり初恋の人。
覚悟を決めてボタンを押した。
"もしもし、、?"
最後に声を聞いたのは、高3、受験生の夏。今でも覚えてる。たしか嬉しいことがあったから伝えたい!って。勉強中にごめんね、また暇な時あったら電話しようね、って言ったっきり。
受験生が終わって高校を卒業して、わたしは浪人して、、大学一年生の秋にも電話がかかってきた。でも、わたしには新しい好きな人がいたから、無視した。
そしたら、冬には彼に彼女がいた。すぐに別れたみたいだけど悲しかった。あの時の電話、出ていたらどうなっていただろう。それ以降、連絡はずっとなかった。もう今後、彼と関わることはないだろうなと思った。
3年ぶりに聞いた声。
お互いの近況報告をした。どうやらその日は大学祭最終日だったらしい。彼は今もまだ軽音を続けてた、わたしはもうやめちゃったけど。いつもそう、なにかイベントがあるとその日の夜、電話できる?って。
変わってないね。
昔話したことも、顔も、声も、もうほとんど覚えていな
いはずだったのに。上書きされたわたしの恋から、彼との思い出を無理やり引っ張り出していた。甘酸っぱい、懐かしい思い出。またあの時に戻ってやり直せたら、わたしは彼と付き合っていたのかな。
でも、変わったね。
馴れ馴れしくなんの躊躇いもなく、わたしの名前をちゃん付けで呼んでくるところ。名前を呼んでくれるまで、2年ぐらいかかったのに。わたしがあなたを大好きだった時、名前を呼んでもらえなくて寂しかったよ、わたしばっかり〜くん!って。でもそういうところも好きだった。
"これは、今度話すわ"
"え、今度??もう遅いしね。"
わたしをキープのうちのひとりにしないで。
どうせわたしじゃなくてもいいんでしょ?
わたしを選ぶ理由なんて、
都合がいいからでしょ?
あなたには、どんなに好きだと
言われても信用できないの。
もうよくない?好きが辛いよ。
わたしのこと見てないじゃん。
"また電話してもいい?"
"全然いいよ。待ってるね!"
そうやって、3年ぶりの電話を切った。
何年もずーっと友達でも恋人でもない。
寂しさを埋めるためだけ、お互い都合のいい存在、
傷つきたくない傷つかれたくないエゴの塊。
わたしが関係切らない限り、永遠にお互いのキープ。
せめてわたしがあなたしか見えないぐらい、
複数人分のイチでもいいって思えるほど、あなたのことを好きだったらよかったのに。
わたしは、5年前のわたしじゃないの。
あなたには好きだと言えない。
電話したいとも話したいとも言えない。
人生で一番大好きだったけど、絶対に言えない。
彼には振り向かない。
今後、もし、万が一、彼と何かあったとしても、
彼とは付き合えない。
もう上書き保存できない。
あなたのことは嫌いになりたくない。ずっと好きでいたい。人生で一番キラキラした思い出として、大切にしまっておきたい。
ずっと綺麗なままがいい。
綺麗なままじゃなきゃいけないの。
次の電話はいつかかってくるんだろう。
期待させておいて逃げるなんてずるいね。
もう好きじゃないし。
そう言い切れない自分が、
今晩もあなたの電話を待ってる。
2021.11.3
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