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映画「トーク・トゥ・ミー」(ネタバレ含む)


2024年の映画初めは、A24の「トーク・トゥ・ミー」(監督/ダニー・フィリッポウ、マイケル・フィリッポウ)。新年早々ホラーなんてねー、と笑い合いながら、友人とともに池袋サンシャインシネマへ。
※このレビューはネタバレを含みます

主人公は、二年前に母親を自殺で亡くした17歳の少女・ミア。母の自殺以来、父親との関係もうまく行かず、今は親友のジェイドの家で生活している。ジェイドの母と弟も、ミアを実の家族のように受け入れている。
あるとき、ミアはウェイ系高校生の集まるパーティーに参加する。そこで行われていたのは、ネットでバズリ中だという #90秒憑依チャレンジ。呪物の手(霊媒師の腕を切断したもの)を握り、“Talk to me”と呼び掛けると、死霊が憑依するのだという。制限時間は90秒。ウェイウェイ高校生のノリにイマイチ馴染めず、ちょっとアウェイ感を感じていたミアは、「私がやる!」と名乗り出る。噂は本当だった。ミアは薬物中毒者のようにハイになり、周りの者は面白がってスマホカメラを向ける。
憑依のもたらす快感とスリルにのめり込んでいくミアたち。ある日、ジェイドの弟・ライリーに、ミアの自殺した母が憑依する。眼の前に母が現れたことにミアは激しく動揺し、あろうことか制限時間の90秒を超えてしまう。発狂したライリーは激しく暴れ出し、血塗れに。親友の弟を傷つけてしまったことに罪悪感を感じつつも、ミアは再び母に会うため、呪物の手を持ち出すのだった。

トラウマと胎内回帰


「トーク・トゥ・ミー」は表面的には憑依型ホラーだが、その内実は大人になれない少女の物語である。ミアの母は鬱病の果てに自殺した。母の自殺以来、残されたミアと父親の関係はすれ違ったままで、二人が対話することはない。ミアは母の死を未だに受け容れられず、父が真実を隠しているのではないかと疑っている。一言でいえば、ミアは「母の自殺」というトラウマに取り憑かれているのである。
ライリーを通して母の死霊を幻視したミアは、母との交信を試みる。母に会いたい。話したい。そう思いを込めて呪物の手を握る彼女の姿はあどけなく、痛々しい。ミアの眼の前に現れた母は、死の真相を告白する。
死霊の母は、ベッドで眠る娘を後ろから抱きしめる。そのときのミアの姿は、胎児を彷彿とさせる。そういえば、本作品の前半、ミアが瀕死のカンガルー(有袋類であるカンガルーは、腹部の袋で赤ちゃんを育てる)に遭遇する場面は示唆的だ。ミアは永遠に乳離れできない子どものように母の死霊に執着する。
ある日、ミアの父は母が生前に残した手紙を娘の前で読む。その内容に涙ぐむミアだったが、突如現れた母の死霊は、その手紙がデタラメであることを告白し、事態は思わぬ方向へ展開する。
彼女を狂わせ、破滅させたもの。それは孤独であり、対話の欠如であった。

現代におけるディスコミュニケーション


監督であるダニー・フィリッポウ、マイケル・フィリッポウ兄弟は、本作品について「「孤独」や「人との繋がりを強要されること」について映画です」と述べている。現代は、SNSの普及により常に人と繋がることを強いられる。しかしながら、その関係性はあまりに脆い。少し前に、「人間関係リセット症候群」という言葉が話題になったが、現代における人間関係は、LINEをブロックしたり、XやInstagramのフォローを外したりすれば、いとも簡単に切れてしまう。良い悪いといった話ではなく、そうした現実がただ存在するのだ。
タイトルにも記した通り、「トーク・トゥ・ミー」は、現代におけるディスコミュニケーションを描いた作品である。承認欲求/自己顕示欲から、自ら90秒憑依チャレンジに名乗り出てトランス状態に陥る者。心配するでもなく、面白がって撮影する者。なんて空虚で閉鎖的なコミュニティだろう。
彼ら/彼女をらに欠如していたのは双方向的なコミュニケーションである。互いを知ろうともせず、その場の麻薬的な狂騒に身を任せて。友人関係のみならず、親子関係も同様だ。母の自殺以来、父と疎遠になってしまったミア。また、弟を危険な目に遭わせたことに負い目を感じているジェイドは母の手を握ろうとするが、冷たく振り払われてしまう。呪物の手を握るのは容易なのに、生者の、しかも肉親の手を握ることが、なぜこんなにも難しいのか。

この世を去った人に会いたい、もう一度話したい、というのは、誰もが持つ欲望である。だが死者は戻らない。人が話しかけられるのは、向かいあって対話できるのは、今を生きている人間だけだ。
「Talk to me」(=私に話しかけて)と相手に言ったところで、コミュニケーションは生まれない。対話を生み出すには、まずは自分から相手に話しかける(I talk to you)ことが大切なのだと、この映画は観客に訴えかけるのである。

▼映画の公式サイトはこちら
https://gaga.ne.jp/talktome/index.html


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