大好きだったあの人⑦
2人は周りのみんなと変わらない恋人同士だったと思う。
お休みの日は一緒に出かけ、食事をして、2人ともお酒が大好きだったので一緒にお酒を飲む。
会えない日はメールをしたり。
そして恋人同士の愛を確認し合って。
そこら辺にいるカレカノと一緒。
少しみんなと違うのは、2人の年齢差がちょっとだけ大きいコト。
それ以外は何も変わらない2人。
お料理が得意だった彼は珍しいスパイスにも詳しくて。
よく2人で東急ハンズにスパイスを買いに出かけた。
彼の住んでたマンションの前が商業施設だったので、そこで食材を買って、自慢の手料理を披露してくれた。
釣り仲間から貰ったイカで塩辛を作った。
「墨袋破らず取り出せたから、コレは塩辛にしよう!」
「えー⁈塩辛っておウチで作れんのー⁈」
「作れるヨ、こうしてワタを塩漬けにして…」
「うわー!」
「出来たら熱燗で一緒に食べようネ」
「楽しみ〜!」
約束通り釣りを教えてくれた。
相変わらずアタシは全然釣れなかったケド。
ゴルフも教えてくれた。
まったくセンスなくて上手に球を前に飛ばせなかったケド。
アタシは彼と一緒に過ごす時間が本当に楽しかった。
彼の前だといつも素のままのアタシでいられた。
好きな本の話も、大好きなプレスリーの熱語りも、彼は真剣に聞いてくれた。
そんなありのままのアタシを彼は可愛いと言ってくれる。
お店の様に媚びて甘えなくても。
本当に幸せだった。
彼のコトが大好きだった。
終わりが来る未来なんて考えたコトもなかった。
でもその幸せの破滅は少しずつアタシに近づいていたんだ。
アタシが昼間の仕事があるにも関わらず夜のお店でバイトしてた理由はカネ。
正社員で働くOLがホステスのバイトする理由なんて、大概が「カネ」か「オトコ」、若しくはその両方か。
アタシには若気の至りで出来た借金があった。
昼間の年収を超えるほどに膨れ上がって、安直なアタシは「ソレなら収入を増やせばイイじゃないか」と夜の世界に飛び込む。
と言っても、夜の世界は危険な場所でもあるとの認識はあった。
どこのお店を選ぶかは大事。
アタシは高校で一緒に部活をしていた友達が夜の仕事をしていたので、彼女にどこで働いたらいいか相談した。
「そんならane、ウチに来なよ。
ウチ、女の子募集してるから。
ママに言っとくから面接においで」
そうやって面接して、一目でアタシの容姿を気に入ったママが「もうアンタ今日から仕事しな」って秒で採用が決まった。
そしてママの言う通りキャラを作って、ママの指示通り営業して、気がつくとどの団体のお客様の中にもアタシ推しのお客様が現れ、あっという間にお店のナンバーワン人気ホステスになった。
彼はお店の、それもママの上お得意様だったので、アタシは彼との交際はお店の誰にも内緒にしてた。
彼とママの関係が悪くなるのはマズイ。
そう思ったアタシが言わないでおこうよ、と言った。
週に3回ほど勤務していた。
お客様の中で、とてもアタシのコトを気に入ってくれてアタシの出勤日の全てに来店する方が現れる。
破滅の始まりだった。