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式日

 彼は実験などしないのに、いつも決まって白衣を着ている。幾日も幾日も帰っていないから、ところどころが黄なりのようになっている。というよりも、変える場所などないかのようにいつもここにいる。

 「実験は成功した。いくつかの証明理論に照らして、推量は推定になり、現在は確証になった。」
 白衣のポケットに手を入れて、少し背をそらせて、そう言い放った。

 向かう理由も方向もないのに、二歩三歩と歩きながら続ける。
 「見えないものは全て見える必要などなかったし、ある一定の斥力が発動されれば、もはやそこに引力が生じることはない。」

 助手の女は打って変わっていつもきちんと糊の効いた白衣を着ていた。少し癖のある黒髪は研究におけるモットーのように白衣とコントラストをなしている。だが、しかし彼女もまた薬品を扱うような実験はしてなどはいなかった。より実践的な実証を行なっている、とでも言おうか。

 「では次はどうされるのですか。対象を消し去ることなど不可能です」最もらしい問いを投げかける。何とありきたりな問いだろうと思っていることは眼鏡の黒いテンプルに潜ませて。

 「それは簡単なことです。対象が対象としているものを消し去れば良いのです。対象そのものがどうかについては大した問題ではないのです。」

 「大切なものを守る絶対的な方法ーそれは自らの手で壊すことなのだよ」
 そう言って手にしたボタンを強く押した。

〈了〉

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