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色にあふれた長い一日

お昼間に星の連弾を観たような気がした。
人に宿る想いがカタチになって生まれ落ちる瞬間は
とても美しくて尊い。
その時出てくることばはどこまで想いを尽くしても
どことなくチープで少し歯痒い気持ちになった。



当日の朝になっても迷っていた。
行きたいと思う気持ちは強くありながら
拭えない緊張や怖さのようなものがあった。
人見知りというよくわからない気質は
大人になっても変わることがなくて
仕事の局面でもたびたび私を困らせる。

けれど、さりげない優しさで声をかけて頂いて
「よし、行こう」と思うことができた。
それでも大層緊張をしていて電車の乗り換えを
するたびに一段階ずつ上がっていくような
気がした。



趣きのある古い建物のご不浄は趣きがありすぎて
些か使うことに躊躇ったけれど、
歴史の分だけ色を濃くした扉の向こうは
いろの子たちのように素敵なクリエイターさん
たちの笑顔があふれていて素晴らしい時間を
過ごすことができた。



とはいえ、先天性かつ慢性的な人見知りである。
極度の緊張が心身を強張らせていて
まるで最終面接みたいに膝小僧の上で
ギュッと握りこぶしをつくって曖昧に笑っていた、
と思う。
それを察しておられたのか、
『羊毛フェルト体験をやってみる?』
と声をかけていただいて、泳ぐ目線と迷い子の
ような挙動不審ぶりは、下を向いてチクチクと
針をさすことで緩和されることとなった。
そして、はじめての羊毛フェルト体験に
大いにハマりそうな予感を感じたのであった。



少しずつ平静を装っていられるようになると
周囲は素晴らしいもので溢れていることに
気づくことになる。
優しいお声かけと出していただいたコーヒーは
とても気持ちが和らいで
おりがみや寄り添って描かれた色えんぴつ画
聴こえてくる楽しい創作についての会話
それらを包み込む素敵なピアノの調べ
みんなみんなちゃんと自分を持っていて
得意をお持ちで、世に出ると出ないとによらず
素晴らしいクリエイターの方々なのだ
と、感じた。(私は違うよ)

そういえば、
ひと色展@金沢でお会いしたはずなのに
私に気づかずに自己紹介をしながら
お土産を渡してくださったのも面白くて
緊張がほぐれるきっかけになりました。
嫌味じゃなくて、ふふふと楽しくなれました。



楽しい時間はあっという間、と言うけれど
3時間はまるで1時間みたいに過ぎていった。
子どもの頃もそう、親戚のおうちに行って
少し話せるかなと思う頃に親に『帰るよー』
と、言われたのと同じ。
おひとりおひとりともっとちゃんとお話しして
みたかったなあという後悔と、終わってしまう
ことが少し寂しい、と思いながらひと色カフェは
幕を閉じた。



帰り道、その日いちばんの大役を仰せつかる。
無事に新幹線に乗せること。
いや、改札に入った時は、たかが上野駅まで
送り届けること、とたかを括っていた。

一度反対ホームに行ってしまったのは
ただのドジではなく、野性の勘だったのかも
しれない。
異変に気づいたのは、横浜で京浜東北線ホームに
着いた時だった。
まさかの人身事故で電車が止まっており、
復旧の目処がたっていない、とのこと。

外国人が線路に入って駅員の追跡を張り切って逃走
してた、なんていう特異なニュースを知るのは
帰ってからのこと。

予約していた新幹線の時間には
間に合いそうにない。
だが、この状況で時間変更を確定させるのは危険。
迂回すべきか、待つべきか。
なのに、スマートファンの充電は20%を切る。
よし、振替輸送に切り替えよう。
京急線に乗り換える。
京浜東北線の影響を受けてやや遅延。
話しながらふと上を見上げると蜘蛛が一匹。
『蜘蛛も休むんだねえ』と会話しつつ
私は虫が苦手だからこちらに来やしないか
と、ハラハラ。
まるで台風の進路みたいに少しずつ進路を変えて
どうやら逸れたみたいな、という頃に品川着。
ここまで来れば安心。
新幹線の座席を確定させる。
もうここまで来たら新幹線が発車するまで
見届けよう。入場券を買ってホームに向かう。
何だかイレギュラーがありすぎて発車するまで
全然安心できなくて、手を振り合って見届けた時は
不思議な達成感を得た。

でも前向きに捉えると一番長くお話しできた
のだからすごいラッキーなんじゃないかと
思えた。
お見送りをした後すぐにスマートフォンの電源は
0%になり、1日をぼんやり思い返しながら帰った。
(ほとんどの人が電車でスマートフォンを
触っているから何もしていないと少し変に見える
ようだ。)



大袈裟に聞こえるかもしれないけれど
アリスがうさぎの穴に落ちたみたいな一日だった。
勇気を出して飛び込んだ非日常には
キラキラとした素晴らしいひとと
もので溢れていた。
このような催しをもうけてくださったこと、
人見知りをさりげなくいざなってくださったこと
お会いできた皆さんに感謝の気持ちで
いっぱいです。本当にありがとうございました。

おしまい


会話と色鉛筆から生まれたことば

ひとりで出かけた道の途中で生まれたことば

考えて書いたり、推敲することができない
瞼の裏側に見えたものを見て書き留めるだけ
クリエイトではなくレコード(記録)なのだと思う

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りよう
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