色にあふれた長い一日
お昼間に星の連弾を観たような気がした。
人に宿る想いがカタチになって生まれ落ちる瞬間は
とても美しくて尊い。
その時出てくることばはどこまで想いを尽くしても
どことなくチープで少し歯痒い気持ちになった。
◇
当日の朝になっても迷っていた。
行きたいと思う気持ちは強くありながら
拭えない緊張や怖さのようなものがあった。
人見知りというよくわからない気質は
大人になっても変わることがなくて
仕事の局面でもたびたび私を困らせる。
けれど、さりげない優しさで声をかけて頂いて
「よし、行こう」と思うことができた。
それでも大層緊張をしていて電車の乗り換えを
するたびに一段階ずつ上がっていくような
気がした。
◇
趣きのある古い建物のご不浄は趣きがありすぎて
些か使うことに躊躇ったけれど、
歴史の分だけ色を濃くした扉の向こうは
いろの子たちのように素敵なクリエイターさん
たちの笑顔があふれていて素晴らしい時間を
過ごすことができた。
◇
とはいえ、先天性かつ慢性的な人見知りである。
極度の緊張が心身を強張らせていて
まるで最終面接みたいに膝小僧の上で
ギュッと握りこぶしをつくって曖昧に笑っていた、
と思う。
それを察しておられたのか、
『羊毛フェルト体験をやってみる?』
と声をかけていただいて、泳ぐ目線と迷い子の
ような挙動不審ぶりは、下を向いてチクチクと
針をさすことで緩和されることとなった。
そして、はじめての羊毛フェルト体験に
大いにハマりそうな予感を感じたのであった。
◇
少しずつ平静を装っていられるようになると
周囲は素晴らしいもので溢れていることに
気づくことになる。
優しいお声かけと出していただいたコーヒーは
とても気持ちが和らいで
おりがみや寄り添って描かれた色えんぴつ画
聴こえてくる楽しい創作についての会話
それらを包み込む素敵なピアノの調べ
みんなみんなちゃんと自分を持っていて
得意をお持ちで、世に出ると出ないとによらず
素晴らしいクリエイターの方々なのだ
と、感じた。(私は違うよ)
そういえば、
ひと色展@金沢でお会いしたはずなのに
私に気づかずに自己紹介をしながら
お土産を渡してくださったのも面白くて
緊張がほぐれるきっかけになりました。
嫌味じゃなくて、ふふふと楽しくなれました。
◇
楽しい時間はあっという間、と言うけれど
3時間はまるで1時間みたいに過ぎていった。
子どもの頃もそう、親戚のおうちに行って
少し話せるかなと思う頃に親に『帰るよー』
と、言われたのと同じ。
おひとりおひとりともっとちゃんとお話しして
みたかったなあという後悔と、終わってしまう
ことが少し寂しい、と思いながらひと色カフェは
幕を閉じた。
◇
帰り道、その日いちばんの大役を仰せつかる。
無事に新幹線に乗せること。
いや、改札に入った時は、たかが上野駅まで
送り届けること、とたかを括っていた。
一度反対ホームに行ってしまったのは
ただのドジではなく、野性の勘だったのかも
しれない。
異変に気づいたのは、横浜で京浜東北線ホームに
着いた時だった。
まさかの人身事故で電車が止まっており、
復旧の目処がたっていない、とのこと。
外国人が線路に入って駅員の追跡を張り切って逃走
してた、なんていう特異なニュースを知るのは
帰ってからのこと。
予約していた新幹線の時間には
間に合いそうにない。
だが、この状況で時間変更を確定させるのは危険。
迂回すべきか、待つべきか。
なのに、スマートファンの充電は20%を切る。
よし、振替輸送に切り替えよう。
京急線に乗り換える。
京浜東北線の影響を受けてやや遅延。
話しながらふと上を見上げると蜘蛛が一匹。
『蜘蛛も休むんだねえ』と会話しつつ
私は虫が苦手だからこちらに来やしないか
と、ハラハラ。
まるで台風の進路みたいに少しずつ進路を変えて
どうやら逸れたみたいな、という頃に品川着。
ここまで来れば安心。
新幹線の座席を確定させる。
もうここまで来たら新幹線が発車するまで
見届けよう。入場券を買ってホームに向かう。
何だかイレギュラーがありすぎて発車するまで
全然安心できなくて、手を振り合って見届けた時は
不思議な達成感を得た。
でも前向きに捉えると一番長くお話しできた
のだからすごいラッキーなんじゃないかと
思えた。
お見送りをした後すぐにスマートフォンの電源は
0%になり、1日をぼんやり思い返しながら帰った。
(ほとんどの人が電車でスマートフォンを
触っているから何もしていないと少し変に見える
ようだ。)
◇
大袈裟に聞こえるかもしれないけれど
アリスがうさぎの穴に落ちたみたいな一日だった。
勇気を出して飛び込んだ非日常には
キラキラとした素晴らしいひとと
もので溢れていた。
このような催しをもうけてくださったこと、
人見知りをさりげなくいざなってくださったこと
お会いできた皆さんに感謝の気持ちで
いっぱいです。本当にありがとうございました。
おしまい
会話と色鉛筆から生まれたことば
ひとりで出かけた道の途中で生まれたことば
考えて書いたり、推敲することができない
瞼の裏側に見えたものを見て書き留めるだけ
クリエイトではなくレコード(記録)なのだと思う