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ライブ備忘録:宇多田ヒカル Hikaru Utada Laughter in the Dark Tour 2018 @さいたまスーパーアリーナ 2018.12.5

2018年12月5日、忘れられない一夜

 2020年にはドラマとCMのタイアップで「Time」「誰にも言わない」の2曲が、そして2021年3月10日には長らく公開が待ち望まれていた映画「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の主題歌「One Last Kiss」がリリースされるなど、近年も精力的に活動する歌姫・宇多田ヒカル。
 2018年に宇多田ヒカルが行ったアリーナツアー「宇多田ヒカル Hikaru Utada Laughter in the Dark Tour 2018」は

・8年ぶりのライブ。
・12年ぶりの全国ツアー。

という2つの意味で待望の公演となった。
 元々宇多田ヒカルはライブ活動を積極的に行うアーティストではなく、2010年の音楽活動休止前までで「宇多田ヒカル」として行った大規模ワンマンライブ・ツアーは、

・2000年「BOHEMIAN SUMMER 2000」22公演。
・2004年「Utada Hikaru in BudoKan 2004 「ヒカルの5」」5公演。
・2006年「UTADA UNITED 2006」22公演。
・2010年「WILD LIFE」2公演。

(1999年の「LUV LIVE」、2006年の「One Night Magic」は除く。)

のみである。
 2016年の音楽活動本格再開時もアルバム『Fantôme』のリリースとそれにともなうテレビ出演などはあったが、ライブ活動の再開はその時点では行われなかった。
 宇多田ヒカルの楽曲を学生時代から聴いてきた身としては、一度は生で宇多田ヒカルの歌を体感してみたいと常々思っていたが、海外在住や小さなお子様がいるといった状況で長期にわたるツアーを期待するのはさすがに難しいとも考えていた。
 なので2018年にツアー開催が発表されたときには、驚きと同時にこれを逃したら二度と宇多田ヒカルを生で観るチャンスはないかもしれない、という予感があった。

 2018年11月~12月で全国6会場12公演を周るツアーのなかで、自分は12月5日のさいたまスーパーアリーナ公演を観に行った。
 デビュー20周年記念ツアーと活動再開後のアルバム『Fantôme』『初恋』という2枚のアルバムリリースツアーという2つの要素があったため、新曲から大ヒット曲まで幅広く披露してくれると期待していたが、宇多田ヒカルのライブ自体がとても貴重であったため、どのようなステージになるのか(生バンドなのかそうじゃないのかさえライブ前はわからなかった。)がリアルに予想できなかった。

始まりは宇多田ヒカルの「生歌」

 会場内に入ると、そこにあったのは「無音」だった。通常開演前にはBGMが流れていることが多いが、さいたまスーパーアリーナの会場内に入ると、そこには何の音楽もかかっておらず、わずかな話し声のみが聞こえていた。
 開演時間が近づいても一切BGMは流れず、結局開演前に流れたのは注意事項のアナウンスのみであった。

 場内が暗転し、いよいよライブがスタート。だがSEが流れることもなく、ステージ横からバンドメンバーがゆっくりと登場しそれぞれの持ち場につく。
 宇多田ヒカル本人はどこかと探しているとセンタースポットにライトがあたり、なんと宇多田ヒカル本人がせり上がってきた。
 一呼吸して歌いだしたのは「あなた」だった。この日会場内で一番最初に響いた"音楽"はBGMでもSEでもバンド演奏でもなく「宇多田ヒカルの生歌」となった。
 鳥肌が立つとはこのことだった。歌がうまいとかそんな言葉では表せない圧倒的な表現力で、業火や戦争にも左右されない普遍的な愛を歌う「あなた」を力強く歌った。
 音源やテレビパフォーマンスでその歌のすごさは長年体感していたはずだったのに、実際に会場で聴いた宇多田ヒカルの生歌はそれらを遥かに凌駕していた。

 曲間を空けることなく『Fantôme』収録の「」へ繋がり、場内からは拍手や歓声が起こった。亡き母・藤圭子への想いを直接的に歌った歌詞と、ソカやカリプソの要素を取り入れたリズムが特徴のダンスナンバー。
 『Fantôme』の中でも一番好きな曲だっただけに、生で聴けることの喜びも大きかった。そして何より肉親の死という出来事を乗り越えた宇多田ヒカルがどこか楽しげにこの曲を歌っていることが、自分にとってもたまらなく嬉しいことだった。
 まだまだ曲が途切れることはなく、シームレスに次曲へ。打ち込みのサウンドが続くなか、聞き覚えのあるイントロが。ここで満を持して活動休止前・2001年の大ヒット曲「traveling」へ。

 人生で何度この曲を、アルバム『DEEP RIVER』を聴いたことか。
 「ただ遊びに行きたい」という思いを歌っているだけのはずなのに、聴くたびにどこか違う世界に連れていかれてしまうところがこの曲の好きなポイントだった。
 プログラミング主体の原曲のイメージを損なうことなく、バンドメンバーによる生演奏でこの曲が歌われる。贅沢すぎないか。
 まだ3曲目だったが、生で「traveling」を聴けたことによりこの日のライブチケット代の元は取り終わっていた。
 また、この曲の冒頭で宇多田ヒカルは「お待たせ!思いっきり行け!」と初めて歌以外の言葉を発した。歌以外ではどんなステージングを行うのか未知数だったが、想像以上に観客に対してもアグレッシブであることが伝わってきた。
 「traveling」で一呼吸つくかと思ったらまだ演奏は止まらない。何とそのまま名曲「COLORS」のイントロへ。

 イントロでまたもどよめきが。やはり往年の名曲の威力は恐ろしい。
 今回は1番をカットし、サビから始まるバージョン。
 後に近年の宇多田ヒカルの制作現場にも参加している若手ミュージシャン兼プロデューサー・小袋成彬のラジオ番組「MUSIC HUB」で、小袋を中心に曲順やアレンジなどを決めていたことが明かされた。
 番組では、冒頭4曲(「あなた」「道」「traveling」「COLORS」)はBPMがほとんど同じであるため、尺調整などを行いシームレスに繋がるよう小袋を中心にアレンジを行ったことなどが話された。
 実際この4曲の流れはとても心地よく、DJがプレイしているのではないかというくらい鮮やかさだったが、言うまでもなく生歌・生演奏の凄みがこちらを圧倒していく。

さらに続く過去の名曲

 さらっと4曲も名曲が歌われ、こちらは呆然としていた。
 ここで最初のMC。
 「今日初めましての人はいますか?」と観客に語りかけるとほとんどの人が手を挙げたため、「ほとんどじゃん!」と驚き笑っていた。
 その後も砕けた雰囲気で会場のさいたまスーパーアリーナについて話し、それまでの張りつめた雰囲気が一気に和やかなムードになった。
 撮影や録画について本人による注意喚起が行われた後(このツアーは撮影などがOKとなっていた。)歌われたのは、長澤まさみ主演のドラマ「ラストフレンズ」の主題歌でもある2008年の名曲「Prisoner Of Love」。

 宇多田ヒカルの歌から始まるイントロなのだが、言うまでもなく宇多田ヒカルの楽曲のイントロはどれも圧倒的すぎる。
 どの曲かわかる、というレベルではなく一瞬で曲の世界に強制送還される。
 そして歌っている人は一緒なのにそこで歌っている宇多田ヒカルは曲によって別人になる。
 「Prisoner Of Love」では重めで時折弱さを見せる声だったのが、次曲「Kiss & Cry」(カップヌードルのCMでも有名。)では軽やかで少々強気な雰囲気を声で表現する。神業という言葉ですらうまく表現できない。

 それにしても「Kiss & Cry」は歌詞もアレンジもおもしろい。タイアップの影響か「日清CUP NOODLE」というワードが歌詞にそのまま入ってしまっているし(その影響でこの楽曲がテレビで歌われたのは日清が提供に入っていた「MUSIC STATION」のみだった、という逸話がある。)。
 他の歌詞も恋心をドラムになぞらえて歌ったり、わかりやすく韻を踏んだりととにかく聴いていて心地よい。
 さらに間奏では自身の名曲「Can You Keep A Secret?」のメロディを引用するなど遊び心溢れたパフォーマンスになっており、宇多田ヒカル自身が今回のライブを心から楽しんでいることが伝わってくる。

 名曲爆撃は終わらない。ドラムロールのイントロですぐさまわかった「SAKURAドロップス」。

 「恋が終わってもまた違う恋をし続ける」という人間の真理が、究極的に美しい日本語に乗せて淡々と歌われている。
 宇多田本人も曲中にキーボードを演奏するなど原曲とも違うライブだからこその表現に完全に酔いしれていた。
 さらにアコースティックギターの前奏が追加されて始まったのは世界的ゲーム「キングダム ハーツ」シリーズのテーマソングでもある「」。

 「光」が生で聴けるとは。中高生のときの自分に教えてあげたい。
 ストリングスが入っていることもあり、原曲よりもさらに壮大な音像に仕上がっていた。
 活動休止前の楽曲はプログラミングや歌声の多重録音なども多いため。ライブでの再現はほぼ不可能なものばかりだった。だが海外のミュージシャンを多数起用した豪華ツアーバンドによる演奏は、楽曲が元々持っている良さと生演奏による再構成されたアレンジが同化され(特にドラムの音が聴いていてとても心地よかった。)、楽曲の新たな面を生み出すことに成功していた。
 特に「光」は後半のストリングスアレンジなどは生で聴いて鳥肌が立つレベルの完成度だった。

意欲的な新曲群

 ここで雰囲気が変わり、活動再開後の新曲ゾーンへ。
 最初は「ともだち」。『Fantôme』に収録されている原曲では小袋成彬がコーラスに参加している。
 ここまでの過去曲とはやはり違う。曲全体がアコースティックギターやキーボードの音色なども含めて大人の余裕が感じられる。
 またダンサー・高瀬譜希子(「Forevermore」のMVでの振付を担当した。)が新たにパフォーマンスに加わり、よりスポーティな面が強くなった。
 そしてヒップホップの要素が強い最新アルバム『初恋』収録の「Too Proud」。
 原曲ではイギリスのラッパー・Jevonをフィーチャーしているが、このラップパートをこの日は宇多田ヒカルが1人で歌った。(原曲の英語リリックではなく、日本語で新たに書き下ろされたリリック)。
 ラップを聴き終わって出てくるのはやはり「宇多田ヒカル、ラップも上手すぎる」というシンプルな感想だった。

又吉ラフターインザダーク

 一度場内が暗転し始まった映像はなんと宇多田ヒカルと又吉直樹(ピース)による対談の模様。アルバム『初恋』発売時の2018年6月には「SONGSスペシャル」にて対談を行った両者だが、この映像はその延長なのだろうか。
 ツアータイトルの「Laughter in the Dark」について会話を交わす2人。この言葉は宇多田が敬愛するロシアの作家「ウラジーミル・ナボコフ」の小説のタイトルから引用されたもので、宇多田はツアーコンセプトとして「希望と絶望」という要素があることや「ユーモア」の大切さを又吉に語った。
 2人の真剣な会話をじっと見ていたのだが、突然宇多田が又吉を瓶で殴りつけた。
 「え、どういうこと?」となった。うん、意味は分からなかった。でもたしかに場内で笑いが起こっていた。
 「こういうことですよね?笑いって。」と真顔で又吉に語り掛ける宇多田。笑いがこみ上げてしょうがなかった。
 もっとすごいのはこのくだりがあと3回ほど続くことだ。

新名曲の数々

 計15分ほどの映像が終わり、サブステージの宇多田ヒカルにスポットが当たる。「キングダム ハーツIII」のテーマソングでもある新曲「誓い」を披露。

 アルバム『初恋』収録のラブソングで、おそらく「結婚」について歌っていると思うのだが、歌い方やメロディ・アレンジなどからもっと違う意味があるのではないかと深掘りをしたくなる。
 さらに2016年の再始動後1発目に届けられた、和の雰囲気がとても強い2曲「真夏の通り雨」「花束を君に」を歌唱。

 「真夏の通り雨」(「NEWS ZERO」テーマソング)は曲全体でピアノとストリングス主体、最後は生のバスドラム演奏が入るなど、原曲を忠実にライブで再現するアレンジだった。(音源ではバスドラムの演奏のためだけに日本トップクラスのドラマー・玉田豊夢が参加した。)
 「花束を君に」(朝ドラ「とと姉ちゃん」主題歌)は「道」と同じく亡き母・藤圭子(タイトルの「君」は藤圭子のことであると公言している。)への想い、そして母となった自身の心境など様々な要素が詰め込まれている。
 この日のライブではサウンドやオレンジの照明も相まって、楽曲が持つ温かみがダイレクトに伝わってきた。
 メインステージに戻り、シリアスなストリングスイントロが印象的な『初恋』収録の「Forevermore」。クラシックだけでなくジャズの要素もあり、リズムが大きく変わるこの楽曲。歌唱もどう考えても難しそうなのだが(全曲そうか。)、楽に歌いこなす宇多田ヒカル。14曲目なのに声量に衰えはまったくない。天才はここまで違うのか。

「First Love」と「初恋」

 この後のMCで活動休止やライブに対しての姿勢について語った後、歌われたのは1st Album『First Love』のタイトル曲「First Love」。

 日本で一番有名なラブソングと言っても過言ではないこの曲。あらためて生で聴いても、この楽曲を14歳か15歳で創るってどんな感性なのだろうと思った。
 思えば「Wait & See 〜リスク〜 」は17歳、「Can You Keep A Secert?」「FINAL DISTANCE」「traveling」は18歳、「光」「SAKURAドロップス」は19歳でリリースしており、アルバム『First Love』も14歳から15歳の時期に制作、発売から1週間で約200万枚、累計で約870万枚を売り上げた(ギネス記録)のでもう何がなんやらなのだが。

最後のキスはタバコの flavor がした
ニガくてせつない香り

明日の今頃には あなたはどこにいるんだろう
誰を思ってるんだろう

You are always gonna be my love
いつか誰かとまた恋に落ちても
I'll remember to love
You taught me how
You are always gonna be the one
今はまだ悲しい love song
新しい歌 歌えるまで

「First Love」

 「First Love」に続いて、最新アルバム『初恋』のタイトル曲「初恋」。

 嫌が応にも両曲の関連性を見つけたくなるタイトルである。
 宇多田ヒカルは楽曲「初恋」についてインタビューで以下のように語っている。

宇多田「たとえば「初恋」という曲も、恋の始まりとも終わりともとれるように書いています。初恋というのは、それを自覚した瞬間から、それ以前の自分の終わりでもあるので。」

宇多田ヒカルが語る、“二度目の初恋” 「すべての物事は始まりでもあり終わりでもある」
取材・文=内田正樹

 これもまた人間の真理をついているような気もする。ある意味「初恋」「始まりと終わり」とは宇多田ヒカルの楽曲にとって永遠のテーマなのかもしれない。
 歌詞を見ると「First Love」は歌詞で現在形や未来形を、「初恋」は過去形を多用している。
 15歳では現在や未来への希望・願望でいっぱいで(ある意味無自覚でもある)、35歳では今までの経験があるからこそ「初恋」の自覚をより客観的にも捉えることができたのではないだろうか。
 アルバム単位ではまた別の機会に書きたい。『First Love』と『初恋』は交互に聴くと音楽性の変化や歌い方、歌詞の違いなどおもしろい要素がたくさんある。やっぱり宇多田ヒカルは聴いていて飽きない。何度でも聴きたくなってしまう。

 この日歌われた「初恋」は35歳の宇多田ヒカルだからこその包容力や重みが感じられ、表現力の高さや経験の深さなど様々なものを感じられた。

気持ちよく終わろう

 最後の曲として歌われたのはアルバム『初恋』の1曲目に収録されている「Play A Love Song」。

 映像化されている幕張メッセ公演のライブ映像では「気持ちよくなりたいと思って創った曲」と本人が話していたが、ダンサブルなリズムで観客も各々体を揺らし、宇多田ヒカルの美しい歌唱に全力で応えた。
 宇多田ヒカルの幸せそうな表情がこの日のライブの成功を一番よく表していた。

アンコール

 アンコールが叫ばれる中、バンドメンバーが先に登場。照明が暗いままベース、ギター、ピアノがセッションを行った。
 Tシャツ姿の宇多田ヒカルが登場して歌いだしたのは『Fantôme』収録の「俺の彼女」。
 宇多田ヒカルの歌詞に出てくる一人称は基本的に

・「僕」(「ぼくはくま」「Beautiful World」「Play A Love Song」etc.)
・「私」(「Letters」「HEART STATION」「道」「初恋」etc.)
・「僕と私両方」(「Passion」「大空で抱きしめて」「誓い」etc.)

といった3つに分かれることが多いが、この曲の一人称は「俺」である。
 一人称が「俺」の曲は他にないと思う。(あったら教えてください。)
 演奏も相まって、おしゃれで少々アダルトな空気が場内に充満した。
 そして打ち込みによるリズムが響くなかでバンド紹介が行われた。紹介に合わせてメンバーが音を重ねていき、そのまま歌われたのは伝説の始まりともいえるデビュー曲「Automatic」。

 20年前の音源とは声質も変化しているが、歌の力強さや重厚さは音源よりも増している。
 20年間で宇多田ヒカルやその周りにも様々な出来事があり音楽活動休止も経験しているが、そのうえで今回歌われた「Automatic」は、20年間の活動の重みや音楽性の変遷、デビュー時と変わらない音楽・歌への愛情など様々な要素が積み重なっていた。
 1st Album『First Love』は今聴いてもビックリするくらいのクオリティで、当時の宇多田ヒカルのアーティストとしてのレベルの異常な高さを示しているわけだが、20年経って歌われる「Automatic」は古臭さなど微塵も感じさせず「2018年の音楽」としてプレイされていた。
 そして歌詞について、「First Love」と言いたいことは同じなのだが、

七回目のベルで受話器を取った君
名前を言わなくても声ですぐ分かってくれる
唇から自然とこぼれ落ちるメロディー
でも言葉を失った瞬間が 一番幸せ

「Automatic」

どうやったらこのような歌詞が思いつくのだろう。
 すぐに受話器を取るのではなく少し焦らす女心(のようなもの)の表現としての「七回目のベル」。
 その表現力を1%でいいから分けてほしい・・・。

最後が「Goodbye Happiness」なのはなぜか

 アンコールラストで歌われたのは活動休止直前リリースのベストアルバムに収録されていた「Goodbye Happiness」。

 再始動後の2枚のアルバムそれぞれでラストを飾る「桜流し」「嫉妬されるべき人生」ではなく、活動休止のイメージが強いこの曲がアンコールラストに歌われたのは少々意外だったが、ライブの締めとして楽しい気分のまま終わってほしいという計らいだろうか。

何も知らずにはしゃいでた
あの頃へ戻りたいね baby
そしてもう一度 kiss me

「Goodbye Happiness」

 「Goodbye Happiness」は最後このような歌詞で終わる。
 こういったアニバーサリーライブの場合、「アニバーサリーイヤーを超えてさらにその先を進んでいこう」というメッセージをアーティスト側が発することがある。
 だが宇多田ヒカルは20周年ツアーのラストで、あえて「過去へは戻れないけど、振り返るくらいいいよね?」とでも言ってくれているような歌詞であるこの曲を歌った。
 これは宇多田自身に、自らが歩んできた道程への強い肯定があったからなのではないだろうか。
 実際宇多田ヒカルはこの日のMCでデビュー時のこと、両親についてなどを話していた。
 両親との関係などはゴシップ的に語られることも多かったためよくわからないこともあるのだが、活動再開後のアルバム『Fantôme』『初恋』やこの日のライブのMCなどから家族への愛情がとても多く見えた。
 だからこそ、最後に「Goodbye Happiness」を歌うことが過去から今までの自らの全肯定に繋がるのではないだろうか。
 本当に素晴らしいパフォーマンスだった。

終わりに

 20周年だからかこの日歌われた楽曲の数は20曲だった。
 20年間を彩った名曲の多くがセットリストに並んだが、これでも「Movin'on without you」「Wait & See 〜リスク〜」「Can You Keep A Secret?」「FINAL DISTANCE」「Letters」「誰かの願いが叶うころ」「Keep Tryin'」「Flavor Of Life -Ballad Version-」「Beautiful World」など多くの名曲が歌われていない。(名曲名曲しつこいかもしれないが、名曲が多すぎるのだ。)
 あらためて宇多田ヒカルのこれまでのディスコグラフィの凄さがわかる。
 そして活動休止前の楽曲群にまったく引けを取らないくらいこの日は新アルバムの楽曲が輝いていた。
 アルバム『初恋』以降にもタイアップ曲として「Face My Fears」「Time」「誰にも言わない」「One Last Kiss」「PINK BLOOD」と5曲の新曲が発表されている。前アルバムから約3年が経過しており、新アルバムの発売も待ち遠しい。
 アルバムが発売されてもツアーが行われるかは未知数だが、これだけすごいライブを観てしまったからこそ、もう1回生で宇多田ヒカルの歌を聴きたいと思ってしまうことくらいバチは当たらない気がする。
 なのでコロナが明けたらなんとか宇多田ヒカルにもライブを開催してほしい。

 この日のライブ終わりに赤羽で飲んだお酒は特別に美味しかった。


セットリスト

1.あなた
2.道
3.traveling
4.COLORS
5.Prisoner Of Love
6.Kiss & Cry
7.SAKURAドロップス
8.光
9.ともだち
10.Too Proud
11.誓い
12.真夏の通り雨
13.花束を君に
14.Forevermore
15.First Love
16.初恋
17.Play A Love Song

18.俺の彼女
19.Automatic
20.Goodbye Happiness

内訳

・7th Album『初恋』6曲。
・6th Album『Fantôme』5曲。
・5th Album『HEART STATION』2曲。
・4th Album『ULTRA BLUE』1曲。
・3rd Album『DEEP RIVER』3曲。
・1st Album『First Love』2曲。
・2nd Best Album『Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.2』1曲。

※2021年3月現在、Netflixでこのツアーの映像作品が配信されています。

https://www.netflix.com/title/81092491?s=i&trkid=13747225



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