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絵本「うちのおかあちゃん」

偕成社

肝っ玉かあちゃんの絵本です。

三味線をひくのがうまくて、耳がよくて、頭もいい。
でも、それだけではありません。

ずっとまえにうけた目の手術が失敗して、
すこしずつ、目が見えなくなってきているという。

「うちのおかあちゃん」

そう、おかあちゃんは、ほとんど目が見えなくなっていて、絵本の最後では、とうとう全く見えなくなってしまうのです。

でも、ここからが肝っ玉かあちゃんの本領発揮です。
ある朝、泣いていたおかあちゃんは、

ついに、まったく見えんようになってしもうた。
まっ白じゃ。
ヘレン・ケラーになってしもうたわ。

おかあちゃんのことば

と言うのです。

それに対して、おとうちゃんの返した言葉が素敵です。

目もわるくて、
口もわるくて、
いじもわるい。
それはたしかにヘレン・ケラーじゃな。

おとうちゃんのことば

こんな愛情深い言葉があるでしょうか。

おそらく、おとうちゃんはずっと前から、この日が来ることを覚悟していて、そのときは、自分が全力で支えようと決めていたのだと思います。

その覚悟なくして、ヘレン・ケラーの目・口・耳の障害にひっかけて、こんな言葉を言うことはできないと思うのです。

それを聞いたおかあちゃんは、笑いながら、

ようし、こうなったら、
日本一のヘレン・ケラーになっちゃるで。

おかあちゃんのことば

と言うのです。
切り換えが早いというのは、肝っ玉の必須特性のひとつです。


肝っ玉がすわっているのは、おかあちゃんやおとうちゃんだけではありません。

この絵本の語り手になっている、娘のまりえちゃんもまた、肝っ玉がすわっています。

視覚障害者用の杖をもらったおかあちゃんを指して、

うちのおかあちゃんは、ももたろうになった。

まりえちゃんのことば

と言ったのです。

おかあちゃんの目が見えなくなったことを、決して悲観的にはとらえていません。まりえちゃんもまた、おとうちゃんと同じく、長い時間をかけてゆっくり覚悟を決めてきたのだと思うのです。


中学受験の日、おかあちゃんがまりえちゃんに、お守りを手渡します。

中学受験の日

「試験がおわるまでは、あけるなよ」
と言われたのに、その約束を破って、試験が始まる前にあけてしまいます。

★注:お守りの内容は、意図的に塗りつぶしています。

さて、そこには、何と書いてあったでしょうか。

ぜひ、直接絵本で確かめてみて下さい。


考えてみれば、これは肝っ玉母ちゃんの絵本というより、
肝っ玉家族のお話でしたね。

私の故郷の訛りが登場することにも親近感を覚えながら、楽しく読めた作品です。

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