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映画「沈黙のパレード」
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きっかけは、ラジオから流れてきた歌でした。
アーティストはKOH+。福山雅治さんと柴咲コウさんのユニットです。
作詞・作曲が福山さん、歌が柴咲さんのその曲は、耳馴染みがよく、スーッと体に染み込んでくる感覚がありました。
そして、偶然にもその夜、NHKの番組「SONGS」にお二人が出演しているのを観ました。
「ヒトツボシ」というその曲は、お二人も出演している映画のテーマ曲だったのです。
それが決定打になって、その映画「沈黙のパレード」を観に行くことにしました。
「ヒトツボシ」は死んだ者の視点から歌われています。その歌詞が、映画を観た後ではより深く心に刺さります。
沈黙のパレードは東野圭吾さんの小説が映画化されたものです。東野圭吾さんと言えば、極上のミステリー作家。今回も、期待を裏切りません。
ミステリーなので、敢えて、ストーリーはここには書きません。興味を持たれた方は、是非、ご自分で観ていただきたいと思います。
鑑賞後に私の心に残った心象は、人が一人亡くなるということは、途方もなくたくさんの人を苦しめ続けるものだということでした。
その苦しみは、その人が亡くなった直後の衝撃よりも、地震でいえば余震の方がより深い傷を残します。しかも、余震は基本的に止まることはないのです。
地中深く静かな振動がずっと続き、時々、想像もつかない場所で噴出して、予想だにしない形で、たまたまそこに居合わせた人たちを傷つけていくのです。
その切なさ、人間関係の複雑さをミステリーという形で表現しているところが、東野圭吾さんの本領発揮を感じさせます。
何よりも辛いのが、一人を除いて、みんな相手を思いやることのできる優しくて善良な人たちばかりであるということです。そして、善良であるが故に、重い罪を背負ってしまうことになる人が出るということです。
ミステリーの醍醐味である犯人探しを楽しめる一方で、同時に、じっと耐えて、表向きは明るく振る舞っている人たちの心の痛みやその傷の深さを客席で感じることができたのは、登場人物の感情を体現している役者さんたちの力量だと思います。
人生は切ない。
愛したからこそ、苦しみを抱え込んでしまう。
でも、その切なさに裏打ちされているからこその、泣きたくなるような幸せも確かに存在します。それはもしかしたら、ただ笑っていられるだけの幸せよりも濃度が高い幸せなのかも知れないと思うのです。
「ヒトツボシ」の最初と最後の歌詞は、
「愛さずにいられたなら こんなにも苦しくはない」
「君の旅が幸せであるように」
それがこの物語の神髄だと感じました。
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