Unity 産業DXカンファレンス 2024 イベントレポート
皆さん、こんにちは、ANDPAD ZEROの木村です。
前回、私が初めて執筆した記事「「Leica BLK360 G1」で、3Dスキャンを検証してみた(2/2)」では、Leica BLK360というレーザースキャナーについて、屋外での撮影方法や注意点についてご紹介しました。実際に屋外をスキャンしてみた結果なども掲載しているのでまだの方はぜひご覧ください。
さて、今回のnoteでは、私が7月19日に参加した「Unity 産業DXカンファレンス 2024」というイベントについてご紹介したいと思います。私が所属しているANDPAD ZEROでは業界の最先端技術について日々情報収集をおこなっております。3Dデータを活用する方なら必ず見聞きするゲームエンジンについて、皆さんに一歩先の未来を感じて頂けたら嬉しいです。
Unityについて
イベントのご紹介の前に、まずはUnityというゲームエンジンについて少し触れておきたいと思います。皆さんは、ゲームエンジンと聞いて、一番最初に何を思い浮かべますか?
ゲームエンジンという言葉の通り、ゲームを作るための何か、例えば、ソフトウェア、サービス、開発環境だと考えている方が多いかと思います。
決まった定義はありませんが、ゲームエンジンはビデオゲームを作るために必要な機能が含まれたソフトウェアのことを指します。この「必要な機能」には、2D/3Dレンダリング、物理演算、メモリ最適化、アニメーションなど、記載しきれないほど様々な機能が含まれています。
Unityは、代表的なゲームエンジンの一つとして、多くの有名なゲームの開発に用いられてきました(例えば、FallguysやPokemon GOはUnityで開発されていると言われています)。
Unity 産業DXカンファレンス 2024について
「Unity 産業DXカンファレンス 2024」は、産業領域でのUnityの先進的な活用事例を業界全体で共有することを目的として、Unityの販売会社であるユニティ・テクノロジーズ・ジャパン株式会社(以下ユニティ)によって開催されました。
今回のカンファレンスのタイトル「Unity 産業DXカンファレンス 2024」には、「産業DX」という文言が含まれています。ユニティの基調講演によれば、このカンファレンスが開催された背景には、産業領域において、Unityの利活用により、確かな費用対効果が得られているDXの取り組みが数々生まれているという実態があるとのこと。
実際にカンファレンスに参加してみて、ゲームエンジンとしてのUnityがゲーム市場のみならず、産業領域においても活用がされてきていることを、カンファレンスを通して感じることができました。ゲームエンジンを主に扱うユニティが掲げる「産業DX」とはどういうことなのか。実際に出席した私からご紹介していきたいと思います。
基調講演「POCから実用段階に入ったデジタルツイン」
本カンファレンス冒頭のユニティによる基調講演では、Unityが産業領域においてどのように貢献できるのか、また、実際に市場から期待されているユースケースについて紹介がありました。まず、Unityのユースケースのベースとなる、デジタルツインの構築について解説されました。
ひとえにデジタルツインと言っても、ユニティによると上記写真のようにデジタルツインの成熟度を定義できるといいます。機械や設備の設計データといったバーチャル空間の情報が統合されたモデル(Level 1)上に、現実世界でのセンサー等から収集したデータを更に付与したモデル(Level 2)を構築することで、現実世界の動きを予測できるモデル(Level 3)や、その予測結果に基づいた最適な行動選択ができるモデル(Level 4)のような、より成熟したモデルの構築が可能になるといいます。Level 5では、これら全ての流れが自動化されたモデルが想定されています。
デジタルツインの精度・仕上がりが成熟すればするほど、フィードバックの精度やシミュレーション・学習の効果も高まり、実運用へとつなげていくことができるようです。
さらに、成熟したデジタルツインを用いた産業領域での先駆け事例とも呼べるような取り組みが紹介されました。
例えば、BMW社による車両の自律走行ためのテストでは、すでに95%のテスト走行をバーチャル車両で行い、省力化を遂げているとのこと、また、アメリカのファーストフードチェーンのCarl's Jr.では、社員のトレーニングにUnityを活用することで、43%の顧客満足度の向上・73%のトレーニング費用の削減を実現したといいます。
そして、こうしたUnityを活用した取り組みは、4つのユースケース、「没入型トレーニング」「3Dコラボレーション」「顧客体験」「組込みシステム」に分類することができ、これらのユースケースに対して市場の期待感が高まっているとのことでした。
参加企業によるUnityを活用した取り組み・ユースケース
今回参加企業により行われた数々の講演では、各企業の先進的なUnityの開発・活用事例が紹介されました。本記事では、各企業の取り組みを上記4つのユースケースの分類と紐づけながらご紹介していきたいと思います。
没入型トレーニング
没入型トレーニングとは、Unity内で構築したより現実に近い仮想空間内で行うトレーニング体験のことです。没入型トレーニングを通じて、従業員のスキルや知識の定着を強化することで、顧客満足度の向上や事故の防止を試みるUnityの活用方法です。
没入型トレーニングの事例として、株式会社積木製作による安全体感VRトレーニングが紹介されました。
株式会社積木製作の主要事業として展開されている安全体感VRトレーニングは、臨場感溢れる体験を再現したVR環境内で社員のトレーニングを行うことができる安全教育システムとのことで、既に700社を超える企業が導入しているそうです。例えば、安全体感VRトレーニングのひとつである「発電所内における危険予知トレーニング」では、点群撮影した現実の発電所(写真左)をVR環境内で再現し、「柵がない」や「柵の高さが低い」というような、社員の安全意識の向上や危険感受性を高めるトレーニングを行うことができるそうです。
現実に近い環境でトレーニングを受けることができれば、より当事者意識をもってトレーニングに励むことができますし、初めての現場でも迷ったり時間がかかったりしてしまうことが減りそうだと感じました。
他にも「玉掛けメタバーストレーニング」や「足場組立・解体メタバーストレーニング」など、建設現場にも応用ができそうな事例も紹介されていました。複数人で役割分担をしながらトレーニングを行うことが可能であったり、遠隔からの参加が可能であったりと、社員教育の幅を広げる取り組みだと思いました。
3Dコラボレーション
3Dコラボレーションとは、様々なソフトウェアで作成される3Dデータを統合する環境としてUnityを使用し、設計〜販売に関わる様々な業務へのデータの活用や、3Dビジュアライゼーションを軸とした情報共有による意思決定の高速化を試みるUnity活用方法です。
3Dコラボレーションの事例として、株式会社デンソーウェーブにより工場の生産性向上を目指すUnity活用事例が紹介されました。
人手不足がますます深刻化する今後の産業領域では、これまで以上に生産活動に対して適切にロボットを活用していく必要性が高くなっていくといいます。工場での生産活動は、様々なロボットが協調しあい、止めどなく製品を製造していく必要があります。
そのためには、デバイス・メーカーを問わず、複数機のロボットや工場ライン全体のシミュレーションを行うことができる統合プラットフォームが必要だということで、Unityが活用されているとのことでした。実際にUnity上で複数のロボットが協調しながら製品を運んだり、組み立てたりする様子が紹介されており、現実世界での挙動を一度試すことができることは大きなメリットだと思いました。
顧客体験+組込みシステム
「顧客体験」とは、顧客との接点にUnityを活用し、よりリアリスティックな製品の描画やVR体験、カスタマイゼーション機能を提供することで、よりよい顧客体験を創出する試みです。また、「組込みシステム」とは、Unity上で作成された3Dコンテンツを、のちほどご紹介するHMIに組み込むことで、次世代の3D体験を創出する試みだといいます。
「顧客体験」と「組込みシステム」の掛け合わせの事例として、キャップジェミニ株式会社により車載HMI開発に関する取り組みが紹介されました。
HMI(Human Machine Interface)とは、人間と機械が相互にやり取りできる仕組みのことで、人間から機械へのインプット(例:キーボード、マウス、マイク、タッチパネル)と、機械から人間へのアウトプット(例:ディスプレイ、スピーカー、VR)に大別できます。HMIは、近年、多機能化や3Dグラフィックの導入などにより、品質の向上が進んでいるといいます。
キャップジェミニ株式会社の車載HMI開発では、車両に搭載されたHMI機器に3Dデータを組み込むためにUnityを活用しているとのことでした。具体的には、Unityの開発環境であるUnity EditorによるHMIのデザインの実装、また、Apple Vision Proを活用した、車体内での視認性や操作性の確認(下記写真左)を行っているということです。また、このような開発プロセスのメリットとして、開発時に作成されたデータをマーケティングにも活用できる(顧客体験)という点も言及されていました(下記写真右)。
どの取り組みも、よりリアリスティックな表現方法や3Dデータの編集・統合環境といったUnityの強みが存分に生きた事例であると感じました。
カンファレンスでは、具体的な事例紹介に主な焦点が当てられていたほか開発者向けの少しニッチな内容もしっかりと紹介されていました。今後、Unityの開発環境では、プログラミングが苦手な方でも簡単に開発ができるように、ビジュアルスクリプティング機能や、AIを活用したより直感的な開発機能・AIモデルのインポートや学習機能が拡充されていくそうです。事例の蓄積と開発環境の整備により、今後ますます仕事や日常生活でUnityによって開発された3Dデータの活用事例を目にする機会が多くなるかもしれませんね。
まとめ
今回は、「Unity 産業DXカンファレンス 2024」についてご紹介しました。Unityをはじめとしたゲームエンジンの活用による、3D技術・XR技術のビジネスへの応用が少しずつ、また、確実に進んできていることが感じられるイベントでした。
イベント会場では、ご紹介したような各企業による講演とは別に展示会場も設けられ、各取り組みを実際に体験することもできました。私自身、キャップジェミニ株式会社の展示で実際にApple Vision Proを試用させていただくことができ、イベントに出席したからこそ経験できたワクワクした体験でした。皆さんも、もし来年同イベントが開催されましたら、参加することを検討してみてはいかがでしょうか?
ANDPAD ZEROではこのように関連領域における最先端技術の情報収集を行っており、本noteで部分的にご紹介しております。今後の記事も乞うご期待ください。
最後までお読み頂きありがとうございました!