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「生きている温度」を感じたい。 〜大人になってからの初めての読書感想文〜

子供のころから、文字だけが綴られた物語や小説を読むのが苦手だった。

それよりもコミックやアニメやドラマのほうが好きだったので、いわゆる「本が読めない」タイプの子供だったのかなぁと考えてみたけれど、どうもそういうわけでもないようだ。

文字であれ絵であれ映像であれ、そこに登場する人々の生活の風景が見えてこないと、抽象的に言えば「生きている温度」が感じられないと、最後まで読み進められない(観終えられない)ようである。

たとえ、それが非現実的な世界(ファンタジー)でもあっても、登場人物の生活、それは朝起きてまず最初にする洗顔の仕方、使っている歯磨き粉、お気に入りの器、部屋の窓の方角・・・といったリアルな生活風景が想像できるストーリーを好んでいる。

そんな想像をしやすいのは、冊子に限れば文字よりも絵、絵よりも写真であり、それで写真が多く載っている「インテリア雑誌」や「生活系雑誌」にハマってしまったように思う。反対に(それがベストセラーであれ)小説は、大人になってからでもほとんど手にしたことが無い。

という自分が、書店で単行本を買って(文庫版のほうは図書館で借りて)読んでみた小説がある。バー「Bar Bossa」を営む林伸次さんの『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』だ。Bar Bossaには10数年前から通っているので、著者である林さんには何度も会っており、ご本人を知っているから読もうと思ったのが正直なところ。(でなければ、恋愛小説はまず読まない。)

その林さんがエビスビールとのコラボレーションで書いたという小説がオンラインで読めるようになった。「電子媒体で物語を読むのはちょっと(苦手だ)なぁ。」と興味はあるものの尻込みしていたところに、Bar Bossaのカウンター席で「冊子になって配布される」という話を聞き、それならばと早速エビスバーに行って頂戴した。

そして、読書感想文である。林さんが、読書感想文を募集するという記事を投稿されたのだ。大人になるまで、そしてなってからも小説や物語をほとんど読んでいないのだから、きっと小学校の宿題で出されて以来のことだろう。順番は逆だが、久しぶりに読書感想文を書いてみようと思って、冊子のページをめくってみた。

1ページ目を読む。最初に出てくるバーテンダー、うん?これは林さん自身が登場人物なのだろうか?という始まりかた。過去と現在の渋谷の情景が描かれており、エッセイのような形で進んでいくように思えたが、2ページ目で描写されるバーの風景は、実際のBar Bossaとは異なっていた。

有名な女性小説家がインタビューの中で、「小説の主人公(女性)は、私であって私ではない。私の要素を持っていたとしても、リアルの私ではない。」というようなことを答えていたけれど、なるほど、このバーテンダーは林さんであり、林さんではないのだな、と理解する。

そのあとは、バーのお客さんとしてやってきた女性との会話へと続くのだが、どうも台詞が頭に入ってこない。二人のやり取りが少し不自然に(演技でいえば「棒読み」のように)感じられてしまうのである。

もちろん実際の会話をそのまま文字に起こすことには無理があるとしても、なんていうのだろう、そう、それは人間がそこで暮らしていたとわかる家を壊し、ピカピカで人間味のないビルに建て替えたような感じ。整いすぎたような感じ。

小説を改めて読み込むと、会話と会話の間に、その時の登場人物の動きとか背景のことなどがあまり描かれておらず、やり取りだけが続くというスタイルだから、そう感じてしまうように思えた。それはそれでひとつのスタイルなのであり、文章の上手い下手でもなく、ストーリーの良し悪しでもなく、自分がただそう感じるだけのこと。

林さんのnoteを連載当初から購読して、毎日楽しく読んでいる。前半の読み物はテーマにもよるが、後半の日記部分は内容が単調であれ複雑であれ、どれもが面白い。特にご夫婦でのやり取り(会話)に「生きている温度」を感じる。

自分としては、そんなnoteで綴られている、林さんならではのエッセンスを取り入れた小説を読んでみたい。


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