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藤井風 「Workin' Hard」 から始まるscrap and build(破壊と再生)の物語
極限まで削ぎ落した「J-popさ」
「Workin' Hard」は、実に洋楽っぽい。
楽曲構成は「まつり」以上にシンプルでHIPHOP味が強い。重めのビートとマイナーコードが印象的だ。短調で始まり、短調で終わる。始終、曲調や雰囲気を大きく変えることもない。
これまでジャジーなコードや転調を多用する藤井風の楽曲は、色彩豊かな絵画のイメージだった。しかし「Workin' Hard」は、あえて深紅一色で描かれているような雰囲気。
「何なんw」を筆頭に「青春病」「きらり」「grace」は、起伏に富んだ楽曲構成や展開、がらりと雰囲気を変える転調が印象的だった。
比べて「Workin' Hard」はシンプルなコードとフレーズのループで展開される。メロディックな「J-popらしさ」を極限まで削ぎ落しているともいえる。
藤井風サウンドの特徴”だった”アレとコレ
これまでの藤井風サウンドの主たる特徴である
・ジャジーなテンションコード
・クリシェ(半音階進行)
・ペンタトニックスケール
・転調に伴う浮遊感
は「Workin' Hard」では抑制されている。
つまり藤井風らしさが前面に出過ぎることがない。
例えば「何なんw」や「きらり」のように極彩色的なテンションコードの多用、浮遊感のある転調、グルーヴ感でうねるピアノバッキングは抑え気味だ。
だが、よく聴くとピアノのバッキングや散りばめられたフレーズの端々には本来の藤井風ならではのエッセンスが染み出ている。実は「ひそかに何かと努める」サウンドなのだ。
藤井風からfujiikazeへ
「Workin' Hard」のMVは、冒頭からFujiiKazeと描かれた車がスクラップされる。(トップ画像を参照)
この場面は、これまでの藤井風を打ち壊して、新しいfujiikazeへと再生する物語のはじまりを予感させる。スクラップ&ビルド(破壊と構築)の象徴に、あえて車を持ってくるところが憎いではないか。
外見のスタイリングも大きく変化を遂げる。アジアツアーを皮切りに、より軽やかでカジュアルな方向へと、大きく舵を切った。
黒髪ロン毛から金髪へカラーを入れたカジュアルなヘアスタイルに。衣装もフリルやドレープをあしらった貴公子風や、アジアを意識した袈裟ウェアも多かったが、いわゆる「B系」といわれるHIPHOPを意識したファッションへとイメージチェンジしたようだ。
これまでの応援歌には「ない」ものが「ある」ことの意味
「Workin' Hard」は「心を燃やせ」でも「負けないで」でもない。
みんなほんまよーやるわ
めっちゃがんばっとるわ
と静かにねぎらう。
高鳴る鼓動もなければ、リスナーを鼓舞するように声を張り上げて歌いあげることもない。
そこに”ある”のは平凡な毎日を淡々と、流れるようにこなす市井(しせい)の人々の姿。決して華やかな表舞台だけではない日常のルーチンワークだ。
見えぬけれどもあるんだよ、見えぬものでもあるんだよ
スポーツは芸術に比べると、誰の目にも勝敗がはっきりとわかりやすい。得点は数字で評価され、とてつもなくシビアな「勝ち負け(結果)が全て」な世界でもある。
だがもし、結果に繋がらなかったとしても……
勝ち負けだけでは語ることのできない、目には見えないけれど「得る」ことのできるものも確かに「ある」。
表面には見えてこない物事のプロセスや側面、価値観、多面性。
日々のルーチンワークをこなすことの尊さ。
目立たず見えない部分にも、そっと目を向ける。それこそが「Workin' Hard」であり、藤井風の音楽なのではないだろうか。
いちばんたいせつなことは、目に見えない
筆者は文筆業を生業としているが、働く姿はとても地味で悲しいほど絵にならない。しかも最近Workin' Hardで仕事の資料以外、あまりネットも見ていない。
でも余計なノイズを吸収する時間がないぶん、自分の好きな物事だけに集中できる環境も悪くないと思っている。
藤井風のscrap and build(破壊と再生)。
人はいつまでも同じところに留まり続けることはできないもの。彼の音楽が時代とともに変容する様子を、しっかり見届けていきたい。
この記事「Workin' Hard」で54本目。約半年ぶりに藤井風の単独記事を書いた。
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