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藤田真央【円と線で紡ぐ音①】


シフの音の制作途中ではありますが…
約3ヶ月ぶりに、藤田真央さんの音に再会してきました。
場所は越谷サンシティーホール。
このコンサート、チケットを取るのが本当に難しくて。だけど、どうしても聴きたかったので、予約当日に朝から電話200回かけて意地で取りました。
予約電話の繋がらないこと、繋がらないこと…
さすが、藤田さんの人気は凄まじいです。

そんな、久しぶりの真央サウンド。
ショパンのポロネーズ集だったのですが、一音目を聴いた瞬間「音が変わった?」と思いました。
以前も藤田さんの音について触れましたが、彼の音は柔らかくて丸っこいのに、真っ直ぐで素直。曲線と直線を兼ね備えた、最強の音色です。
そんな最強の音色が、今日は一段と丸かった。そして、響きも横長。音が左右から飛んでくる感覚。何だか、客席とステージが遠く感じました。
世界中で演奏するうちに、また違った表現を見つけたのかな?なんて思っていましたが、3曲目を弾いたところで、ご本人突然立ち上がり、客席に会釈しながら退場。再びステージに戻って来られ、照明の調整が始まりました。
手元が暗かったのでしょうか。
ステージが少しだけ明くなり、その後に演奏された4曲目は、先程よりもよく響いて、客席とステージがグッと近く感じました。照明一つでこんなにも演奏って変わるんだと、感動した瞬間でした。
だけど、やっぱりいつもと何かが違う。
それが悪いと言う訳ではないんです。
今日の演奏も素晴らしい。
ただ、本来とても高く上がるはずの藤田さんの音が、この日は行き場を失って彷徨っているようでした。もしかすると、ショパンのポロネーズに合わせて、あえてそのように演奏したのかもしれません。しかし、もしそうでないとしたら…

その理由として考えたのが、ホールの構造。

スタッフさんに許可をもらい撮影しています

ピアノを囲うようにステージがあり、ステージから客席にかけて天井がどんどん高く、客席が広くなっているんです。
照明が明るくなってから、左手の音は割と高く上がって聴こえたのですが、右手の音が上昇しない。私の脳内の、欲しいところに高音が当たらないのです。
「音が上がる」とは、言葉通り、音が空間に出現してから上昇していく様子。
音って、目に見えないと思っているかもしれませんが、そんなことありません。(正確に言うと、見える物ではないので、感じると言った方が正しいかも…)
以前聴いた、プレトニョフは顔とピアノの間の位置、シフは手元の位置で音が生まれているのを感じました。
藤田さんの場合、粒立ちの良い音が、彼の頭上の高い位置で生み出され、急上昇していくように感じています。


「藤田さんのような、音が高く上がるタイプのピアニストは、こういうホールだと音が違って聴こえるのかしら…」等色々と考えていたら、あっという間に休憩時間。
その休憩中、調律師さんがやって来て、念入りにピアノ調律をされていました。
20分の休憩時間を終え、第二部のリスト ピアノソナタ ロ短調 S178へ。
すると、弾き始めてビックリ。
さっきと音が全然違う。
この頃には私の耳も麻痺してしまい、いつも愛聴している藤田さんの音がどんな物が分からなくなっていましたが…
それでも天井いっぱいに、右手の高音が上がる上がる。そして、音が高らかに飛んでゆくたび何色にも重なって、美しくユラユラと揺れる様子が、オーロラのよう。
この時、私の脳内でやっと絵が描かれ始めました。(いや、前半の演奏も素敵でしたよ)
音の原因は、もしかしたら調律の関係だったのかも。
そこにご本人の意思があったかどうかは分かりませんが、それも生演奏を聴くことの、一つの醍醐味なのです。
と言うよりも、調律って本当に凄いですね。
ピアニスト達がそれぞれのお抱え調律師を持つ気持ち、身を持って感じました。

今回チケットが取れなかった時のために、他会場のチケットも押さえていたので、この件に関する検証はその時にしようと思います。
会場が違うので何とも言えませんがね…


さて、少し話しは変わりますが、今日のリストで聴いた色が、以前描いた藤田さんのショパン作品とよく似ていました。
私が美しいと感じる音が同じ色なのでしょうか。
演奏中、他に色を探してみたけど見つからず…
聴いた色をそのまま描くか、見えた音に合わせて色を変えるか…
公演帰りの道中から、ずっと悩んでいます。

感じた音を絵にするだけではいけないのです。それは、ただの自己満足だと思っています。描いた絵が美しくないと、私には全く意味がありません。
絵を描く時に、この音の余韻から自分を現実の世界へ引き戻すのが、非常に難しい。
そんな時は、画家の巨匠達の作品を見て、一旦冷静になるようにしています。

それにしても、音を全身に浴びた日はアドレナリン全開で全く眠れない…


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アンナ ブラック
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