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「傾聴」をベースに、発達障害のあなたも相手に共感を得る方法

【この記事は、約7分で読めます】

ここにたどり着いた方は、相手の話を聞くのに何かしらの不安や悩みを抱えていると思います。

注意深く相手の話を聞いてるつもりなのに、なぜかいつも聞き間違えたり意味をはき違える。
何度も確認をしているのに後からまた疑問が出てきてしまい、何度も質問に行く羽目になってしまう。
その結果、「お前は人の話を聞いているのか!」と怒られる始末に。
どうして自分はこうも話し上手になれないのか…?

こうした「日々のコミュニケーションミスで悩んでいる」というケースは誰しもあるかと思います。
ただし、こうした頻度が圧倒的に多いのが発達障害当事者の悩みの一つです。
その結果、会社は当事者に適任の仕事を与えられないし、当事者は会社から誤解された事実を否定体験と捉え生き辛さを抱える。
最悪の場合、うつなどの二次障害を発症し、休職も起こりかねません。
このようなミスマッチは、会社も当事者も起こしたくないですよね?

それを防ぐ一つの方法に「傾聴」というスキルがあります。
傾聴が身につくと、相手の意図をより正確に理解し、誤解や齟齬といった問題が改善されます。
結果、あなた自身の安定就労に貢献できるのです。

今回は僕自身、過去グループワークで当事者として傾聴ワークの講師をレクチャーした経験から当事者に向けた傾聴スキルの身に着け方を教えます。
また、傾聴の先にある2つの技術を紹介し、あなた自身の人間関係向上につなげるヒントを紹介します。

話し上手を目指す必要は、ございません。
どうぞ最後までお付き合いいただければ、嬉しいです。


1.傾聴スキルの身につけ方

傾聴とは、読んで字のごとく「傾」いて「聴」く行為です。
ここでポイントなのは「聞く」ではなく「聴く」という文字の違いです。

「聞く」(hear)は、店で流れる音楽が自然に耳に入ってくるような、音が耳に伝わる状態全般を表します。
対して、「聴く」(listen)は、注意を向けて熱心に耳を傾ける状態を言います。
傾「聴」とは、相手の話に耳と心を傾け、話の内容だけでなく、相手が伝えようとしているメッセージや、言葉の裏にある気持ちにも関心を向けて聴く態度を指します。

傾聴を身に着けるには、次に紹介する3つの所作があります。


①聴く態度

まず何より「聴く」態度が重要です。
なぜなら、聴く態度が相手に分からなければ相手は自分に興味がないと見られ、信用をなくすもとになるからです。
自分の話を聞いて欲しいのに、相手がそっぽを向いたり無言で反応されたら「この人話聞いているのか?」と不安になるでしょう。

そのため、まずは次にあげる「聴く」態度を意識します。

  • 1.相手が声をかけられたら、相手の方を向く。

  • 2.話の内容に興味を持って、体を前のめりに傾ける。


あなた自身も興味のある話題を振られたらついつい相手の方に体を向けるのと同じように、いつもこの2点を意識しましょう。
逆にこれができなければ、これから出てくる技術ができても、効果が半減します。

相手に「自分に興味を持っている」と思わせるために、聴く態度が大事になるのです。


②うなずき・つぶやき・レスポンス

相手の話を聴く時に、あいづちがあって初めて会話は進みます。
なぜなら、「へえー」「なるほど」といったあいづちがあれば、相手は自分の話に興味を持ってもらえるとあなたに好感が持てるからです。

しかし、打ち方を間違えたらあいづちも役に立ちません。
相手が話している間、話すペースや息継ぎをするタイミングも考えず2秒ごとに「はい」「はい」とロボットのように繰り返していたら、「コイツ自分の話聞いているのか」といら立つでしょう。

そこで、次の3つのスキルを繰り返します。

・うなずき

最初に、相手の話に「はい」と言ってうなずきます。
うなずくタイミングは、相手が会話を終える時です。
会話が長いな〜と感じた時は、相手が息継ぎをするタイミングであいづちをしましょう。


・つぶやき

つぶやきとは、相手の発した言葉をそのままオウム返しで答える行為です。
ここで重要なのは、自分の主張や反論は脇に置いといてただ「オウム返し」するだけです。
なぜなら、自分の意に反する内容に「それは違う」「自分はこう思います」と言ってしまうと、相手は自分の意見を受け入れてくれないと身構えてしまうからです。
その結果、次から自分に話しかける機会もなくなります。

自分の感想は述べず、ただただつぶやきましょう。


・レスポンス

レスポンスとは、相手の発した言葉をそのままオウム返しで答えた後で「~なんですね」と同意する行為です。
ここでも重要なのは、自分の主張や反論は脇に置いといてただ「オウム返し」するだけです。

例えば、こういう会話であなたはオウム返しをします。

Aさん(定型)「今朝さー、嫌なことがあってさー」
Bさん(当事者)「嫌なこと

Aさん「うん、俺が早起きして嫁さんの分も含めて弁当を作ったのよ。でも嫁さんは昨日の残り物が弁当に入れられたのが気に入らなかったのよ」
Bさん「気に入らなかったんですね

Aさん「そうだよ、だって起きてから家を出るまで時間がないわけじゃん?こっちも身支度しなきゃいけないし」
Bさん「時間がないんですね

Aさん「なのに嫁さんは「レンチンの冷凍食品でもいいから残り物なんて入れないでよ」とグチるわけさ。だったら前の日にそう言えよ!って」
Bさん「グチってしまったんですね

Aさん「Bも分かるだろ?こっちは良かれと思ってやったのに、本当にまいったなあー」

この会話で定型のAさんは、話し相手のBさんに自分の嫌な悩みを相手に分かって欲しくて話を切り出したのが分かります。
その会話に対し、当事者のBさんはAさんの言葉を「気に入らなかったんですね」「グチってしまったんですね」と、ただオウム返ししているだけです。

これなら、言われた内容を聴く「だけ」に専念できますよね?
そう、ここに傾聴のミソが含まれているのです。

相手の発言にオウム返しし、相手に「話を聴いてもらえた」という安心感を与える。
つぶやき・うなずき・レスポンスによって、あなたの会話力が上がってくるのです。


③感情の言葉を拾う

さて、先ほどの「②うなずき・つぶやき・レスポンス」で何かお気づきになりませんでしたしょうか?
そうです、Aさんが「気に入らなかったんですね」「グチってしまったんですね」と相手の感情の言葉を拾ってオウム返ししています。

このように「感情の言葉を拾う」のが、相手に共感する上での重要な要素です。
なぜなら、自分が発した相手の感情を言葉に返せば、相手は自分の意見が聞き入れられたと安心するからです。
更に、自分の言葉がそのまま返ってくるので、自分の感情を再確認できます。

これを実践できるには、あなたが常日頃「相手の感情の言葉を拾う」に意識を向けます。
そして、聴く態度とつぶやき・うなずき・レスポンスを組み合わせる。
これだけでも、相手は「この人は障害を持っていても自分の言うことを分かってくれようとしている」と評価されるようになります。

感情の言葉に着目して、相手が言った後でオウム返しし、共感力が上がるのです。


2.傾聴の先に必要なもの

①チャンキング

ところが、現実は傾聴だけでコミュニケーションが改善できるほど、甘い世界ではありません。
なぜなら、人は会話によって「共感」が欲しくて、共感がなければ表面的なコミュニケーションスキルで終わるからです。

傾聴スキルだけでは、コミュニケーションのミスは減りません。
傾聴だけで会話を乗り切ろうとするあなたの姿を、相手は自分が考えている以上に見抜いています。

実はコミュニケーションのミスを減らすためには、チャンキングという考え方のスキルを同時に身につけておく必要があります。
チャンキングとは、様々な言葉のかたまりが行き来する状態をいいます。

言葉には、大きさや広さといった「サイズ」があります。
例えば「あいまい」や「抽象的」といわれる表現は「サイズが大きい言葉」になります。
逆にサイズが小さい言葉は、「具体的」と言われる限定的な意味や要素の言葉を指します。

こういうシチュエーションを想像してみましょう。
あなたは会社の同僚から「はあ〜嫌、しんどい」と声をかけられます。
この時、何が「しんどい」の対象として考えられるでしょうか?
職場なので「仕事内容」や「上司との関係」なのかもしれませんし、「給料」「今日早く帰れるかどうか」「会社が未来永劫続いてくれるかどうか」といったものかもしれません。

このように「しんどい」という言葉は様々な対象が考えられる「サイズの大きい言葉」です。
この段階で「分かるよ、不安だよな」という共感をしてしまうと何について不安なのかが不明瞭の中、話し合う結末になってしまいます。
このままでは、あなたも相手も分かり合えないままの関係が続いてしまいます。

そのため、より具体的な小さい言葉にしていくために、「何が不安なの?」という質問をし、何について話し合いたいのかを明確にするのです。

何が不安かという質問に対して「ちょっと周りに振り回されてさ〜」という返答をしたとします。
しかし、「周り」という言葉もサイズが大きい言葉です。
同じ部内の「上司」が対象かもしれません。
あるいは別の部署の「上司」かもしれないし「部下」かもしれません。
はたまた、同じ部内の上司や別の部署の上司部下ひっくるめての可能性もあります。

そのため、ここでももう一歩踏み込んで「周りに…?」と質問し、何について話し合うのかを明確にしていく行動が大切になります。

こうして様々な質問をして言葉のサイズを小さくしていき、話し合いたい対象を明確にした上で相談に乗り、相手との共感が可能になります。

チャンキングの例として「しんどい」という話題から入りました。
しかし実際の仕事では「ちょっと悪いんだけど、お偉いさんに報告しなきゃいけないから○○をまとめてくれない?」といった期限や求めるレベルもない、あいまいな指示や依頼があります。

大切なのはそうした相手がいるのに腹を立てたり、ミスコミュニケーションに対して自分を責めたり悲観するのではありません。
「ミスをなくすためにどのような情報を補完するか?」を意識し、サイズが大きい言葉は小さくして明確にし、それによってお互いの認識をすり合わせる心がけが大切になります。


②リフレーミング

リフレーミングとは、心理学用語で、物事を見る枠組み (frame) を変えて、同じ物事を別の枠組みで見直してみる (re-frame)」状態をいいます。

ここで重要なのは、物事は中立で、その物事に意味づけをするのがその人の心理的枠組み (frame) だということです。
つまり、心理的枠組み (frame) によって人や物事への印象や意味を変化させ、理想に向かえる有効な状態にしていくのがリフレーミングになります。

リフレーミングには次の二種類の方法があります。

1.「他に役立つ状況を考える」(状況のリフレーミング)

例えば、普段はおしゃべり好きで明るい先輩が、大事な会議の場で緊張し、思った内容が言えず落ち込んでいるとしましょう。
そこで「おしゃべり好きで明るい」性格が、他に役立つ状況を考えてみます。

・お客さんと商談をするとき、すごく盛り上がりそうでいいな
・一緒にお酒を飲みに行ったら楽しいだろうな

という具合です。

2.「他にどんなプラスの意味や価値があるかを考える」(内容のリフレーミング)

先ほど例に挙げた落ち込んだ先輩の場合だと、こういう例があるでしょう。

・それだけ聴いている人に一生懸命伝えようとした証拠だ
・聴いている人に熱意は伝わったはずだ
・今回の失敗を糧にすれば、次のプレゼンは成功するだろう

という具合です。

事例は何でも良いので、Chat GPTを使ってリフレーミングを行ってみましょう。
例えば「思ったことが言葉に出ない リフレーミング」 「コンディションが低い 辛い リフレーミング」といった具合に検索してみます。
そうすれば自分だけでは思いつかなかったアイディアが思いつくでしょう。


まとめ

最後までお読みいただき、ありがとうございます。
以上で、傾聴をベースにチャンキング・リフレーミングを取り入れ会話力の向上が図れる事例を紹介しました。

ASDのある方の中には特性上、「相手の視点に立つこと」に対して難しさがある方がいらっしゃいます。
定型なら当たり前のようにこなしていますが、当事者は相手の話す言葉や表情等の状況を読み取って相手の話の意図を推測するのが苦手です。
また、関係性や状況によって表情や話し方を柔軟に変える臨機応変な対応がうまくできません。

そのため、相手の話を受けて自分の思いを返すように「考えながら聞く」ことを強く意識するのが必要です。
その方法として、「傾聴」がベースにあるのです。

とはいっても、当事者が体調の良しあしで傾聴スキルのふり幅が大きく変わるのは、僕も承知しています。
僕ですら体調の良いときでも、「何か言葉を返さないと」と申し訳なさや焦りを感じると、何も思い浮かばなくなりますから。

まずは話しやすい相手や信頼できる友達の目の前で、ボイスレコーダー等で録音して15分セッショントークをしてみましょう。
録音した声を振り返った時、いかに自分が相手の話を聴いていないか痛感しますから(笑)

しかし、それはあなたの話し方に問題があるわけではありません。
この記事で紹介した「聴く」力を鍛えれば、話し上手を目指さなくても相手への共感が得られる可能性が高まります。
そうなれば、あなたの人間関係が充実して安定したパフォーマンスを発揮できませんか?

この記事をきっかけに、あなたが相手の話に耳を傾け、正確な理解が得られるヒントが得られますように。


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坂巻菱生 | 発達障害(ASD)正社員当事者
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