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真の「心理的安全性」とは ~発達障害の方が、安心した職場を得るために

【この記事は、約10分で読めます】

最近巷で耳にする「心理的安全性」。
何か、聞こえの良い言葉だなあ。
どうやら会社で「何でも自分の思いが言える」「みんなが親身に話を聞いてくれる」「自分の意見に理解を示してくれる」環境を実現するための取り組みらしいぞ。
いいなあ、自分もそんな居心地の良い会社で働きたいなー。

こう思っているあなた。
確かに何でも自分の意見や考えが通って誰しも好意的に受け入れたら、これ以上理想の職場はないですよね?

しかし、こうしたイメージは必ずしも心理的安全性に対する正しい認識とは言えません。
真の「心理的安全性」とは、たとえ相手と考えや意見が違っていたとしても偽りなく率直な発言ができる場を指します。

決して、人を甘やかす意味ではありません。

この記事では、①そもそも「心理的安全性」とは ②あなたが「心理的安全性」に貢献するための考え方 ③心理的安全性が周囲にもたらす効果 を、実際僕が職場で起こっている事例を交えながら解説します。
時には厳しい内容もお話ししますが、どうか最後まで辛抱して真の心理的安全性を理解する一助となれば幸いです。


①そもそも「心理的安全性」とは?

1.自分の意見や気持ちを安心して表現できる状態

そもそも心理的安全性(psychological safety)とは、自分の意見や気持ちを安心して表現できる状態を指します。
ハーバード大学のビジネススクールで教鞭を執るエドモンドソン氏が、提唱したものです。
彼が唱えるには、対人関係においてリスクある行動をとったとしても、チーム内が安全であるという気持ちがメンバー内で共有された状態であると定義しています。

具体的に心理的安全性を高めるには、下記の4点があります。

①話しやすさ
・知らないことや、わからないことを聞ける
・問題やリスクに気が付いたときに、声をあげられる
・反対意見を言える

②助け合い
・上司や同僚がいつでも相談に乗ってくれる
・人を責めず、建設的に相談を乗ってくれる

③挑戦
・前例や実績がないものを取り入れる
・思いついたアイデアをチームに共有しようと思える

④新奇歓迎
・役割に応じて、強みや個性を発揮することが歓迎されている
・様々な視点が歓迎されている

参考)「心理的安全性のつくりかた」石井遼介著/  日本能率協会マネジメントセンター出版

この4点を確立するのは、いかに職場で気兼ねなく話すために上司と部下の信頼関係を築けるかにかかっています。
例えば、1on1で上司と話す時間や飲み会や食事会を実施する中で、安心して雑談や対話を繰り返せる機会を作る取り組みです。
同時に、チーム全員が他者の意見に耳を傾け、誰もがプレッシャーに打ち勝って自分の意見や考えを表明する姿勢が重要になります。

忘れていけないのは、心理的安全性が職場での問題解決やイノベーションのための手段として一人ひとりの成長を高めていこうとする心がけです。


2.心理的安全性が、ぬるま湯組織とは違う点

一方、心理的安全性を「仲良しクラブ」や「居心地が良い」などのぬるま湯組織と混同してしまうと、本来の意味から逸脱してしまいます。

なぜならぬるま湯組織では、他者との対立を避けるために自分の意見を主張しない、相手の間違いを指摘しない状態が生じうるからです。
そうなれば組織は現状維持に甘える環境に慣れきってしまい、社員同士のみならず取引先からの信用を落としかねません。

あなたの職場で、緊張感がなかったり仕事への意識が低い方はいませんか?
目標もなく、現状維持で満足しきっている環境ではないですか?
「批判されるのが嫌だ」「出る杭を打たれると立場がなくなるから」と、自分の保身に走っている社員はいませんか?
そのような職場であれば、残念ながら心理的安全性は達成できないでしょう。

もし「心理的安全性」を達成したいのであれば、次のような理由と向き合う意識が肝要です。

・チームがもっと高いパフォーマンスを発揮するために必要だから
・チームの取り組みの質を上げるために必要だから
・チームが重大なミスを起こさないために必要だから

では、上記の内容を達成するには何が必要でしょう?
次の2点は、実際に僕の職場で取り組んでいるポイントです。

1.称賛を推進する文化
日ごろからお互いを認め合い、高め合い、感謝し合う気持ちを忘れない。
取り組んだ内容に見当違いが起こったり結果が伴わなくても、「次から気を付けよう」とポジティブな声かけをする。
特に上の立場から率先して行動し、部下・後輩の手本とする。

2.挑戦する組織風土の醸成
経営層から企業理念を浸透させ、定期的に部内会議でも振り返りを行う。
お互いの仕事は違くても「同じ理念の下で働いている」と認識することで、一体感を創出する。

こうした取り組みを、1on1の時でも上司から伝えるように取り組んでいます。
僕からも提案や意見を出しますが、アドバイスを受けたら「教えていただきありがとうございます」と返答しています。
時には手厳しい意見でも、「心理的安全性」を達成するためには批評から避けられません。

重要なのは、心理的安全性を仕事や人の好き嫌い・わがままに振る舞えるといった自分に都合の良い解釈をしない心がけです
たとえ相手と考えや意見が違っていたとしても、偽りなく率直な発言ができる場が、心理的安全性を確立できるのです。


②あなたが「心理的安全性」に貢献するための考え方

1.全員で作り上げる

①で解説したように、真の心理的安全性とは「上司や同僚に異なる意見を言ったとしても、人間関係が破綻したり相手から拒絶されたりしないと感じる状態」を指します。
言い換えるなら「たとえ批評を言われても、自信を持って建設的な意見を交わし合い、お互いが歩み寄る」という状態です。
そして心理的安全性を確立されるためには、次の2つが重要なファクターとなります。

・心理的に安全な場は全員で作る
・心理的安全性の必要性を全員で同意する

そうです、心理的安全性は全員で作り上げます。
なぜなら上司や管理職だけが心理的安全性を実践しても、部下も彼らにならって歩み寄りをしない限り、職場での問題解決につながらないからです。

とは言っても、発達障害の方にとって自分自身で「問題解決」できる自信がないのも理解できます。
全員で作り上げるまではレベルが高いと感じたらここを最終ゴールとし、まずは下記のポイントから取り組んでみましょう。


2.可能性は何通りもある

物事に対して一つの方向性に固執するのではなく、何通りかの答えを想像するのは円滑なコミュニケーションに必要な考え方です。
なぜなら一つの手順に拘ってしまうと、かえって周囲に迷惑を被るケースがあるからです。

発達障害を抱えた方は、一つ経験したものを他の場面で応用するのが苦手な傾向にあります。
例えていうなら、Aという場面でイレギュラーな対応をされた時「以前は1〜5という手順でやっていたから」と過去の手順に拘るケースです。
これは経験から学ぶという観点では決して悪くはないですが、時には的違いな行動と人から判断される場合があります。

数年前、職場で親会社の役員が僕の会社の会議室で打ち合わせをする機会がありました。
親会社の役員は会社のICカードを所有しているのですが、運用上限られた部屋しか入室できないように設定していました。
そしていざ会議室へ入室する際、本人がICカードをタッチしたところ弾かれてしまったのです。

これを社長が気にして、僕の部署に連絡しました。
その後、上司は僕になぜ役員に会議室の入室権限を与えなかったのかと質問しました。
僕はきっぱりとこう答えました。
「すみません、役員さんが入室できずご不便をおかけし申し訳ありません。一方、親会社の方は特定の部屋しか付与しないというルールに従い、登録したままです」
しかし上司の言い分は「それならば、事前に相談するべきだった」でした。

結局役員には会議室に入室権限を与えて解決したのですが、この時僕に欠けていたのは「重役の場合はどう設定するか?」という点でした。

後で調べたところ、親会社の社員でも所属する部署や役職によって入室権限が異なっていたのが分かりました。
その内容は誰からも引き継がれた経緯がありませんでしたが、僕もICカードの入室管理を担当している立場上「知らなかった」では済まされません。
同僚は「登録しなかった時に指示しなかった上司に責任がある」となだめましたが、僕は様々な可能性を考えなかった我が身を反省した限りです。

このように、過去がこれで成功したからすぐに判断する・自分の考えが間違いないと確信して物事を進めると、後で取り返しのつかない事態に発展する場合があります。

時間をかけて判断し、自分の考えが間違っているかもしれないと疑う。

もし間違っていたら認識合わせをしようと意識すれば、相手にも心理的安全性を与えられるでしょう。


3.ダメ出し前提で意見・提案する

自分が何か効率的なアイデアを思いついた時、上司に提案する場面を想像してみます。
この際、「どこかで突っ込まれるかもしれない」と身構えて提案した方が、あなたの心理的不安が和らぎます。
なぜなら仮に耳の痛い指摘をされたとしても、事前に身構えればゆとりを持って素直に相手の意見を受け入れられるからです。
それによりあなた自身も他人から学ぶ姿勢につながり、成長も期待できます。

本人が我がままで嫌われ者でない限り、上司は部下に対してマウントをとりたいとか、部下に嫌がらせしようと考えていません。
実際僕の会社の上司は、事ある度誰に対しても注意する時は毎回「決して責めてる意味で言ってない」と前置きをしています。

ほとんどの上司は、自身の役割や部下・他部署・取引先に配慮しながら仕事を行っています。
なぜなら管理職というのは、組織の目標達成に向け上の役員から使命を受け、部署をコントロールすることで組織の統制を図る役割を担っているからです。
収入が多い分受け持つ責任も重い他、社内外の交際費やら家族の養育費やら、何かと支出も多い立場にあります。
面倒くさくても・嫌われても・疲れていても、上司は仕事の1つとして部下にダメ出しをしているのです。

一方、部下は自分なりに頑張っていても・それなりに勉強しても・自信をもってうまくやったと思っても、ダメ出しされるときはダメ出しされるものです。
あなたより上司の方がずっと知識も経験も豊富で、トラブルが起こっても回避方法を何通りも知っています。
部下に自分と同じ苦い経験はさせたくない、とも考えています。

つまり、上司もあなたに気を遣ってダメ出ししているのです。
なので、ダメ出しをされても決してその人を責めるのは控えましょう。
見方を変えれば、仕事が思い通りにならなくてもたまに上手くいったら「よっしゃあ!」くらいに思えば良いのです。

ちなみに僕は何かを相談する時、「ダメ出し前提で聞いてOKなんですが」と前置きをしています。
前置きを言えば相手も言いにくい内容を吐露できる他、自分も「何か突っ込まれるかもしれない」と意識が向き、心理的な不安や負担が軽減されるからです。

お互い胸の内が言語化できるため、信頼感も生まれます。

結果、自分の意見や気持ちを安心して表現できるため、心理的安全性にもつながってきます。


4.「こう起こるかもしれない」と想像する

「1.可能性は何通りでもある」に関連しますが、必ずしも自分が担当している仕事がいつも手順通りにいくとは限りません。
なぜなら、会社は社員の好き嫌いや忖度によって方針が変わるケースもあるからです。
むしろそうしなければ役員の機嫌を損ね、人間関係にヒビを生じさせる可能性もあります。

いくら会社が「坂巻にはルールを明確にして、手順通りに仕事を進めさせよう」と配慮したとしても、時には本人の感覚や思いつきでイレギュラーな対応をせざるを得ない場合もあります。
それでも指示した上司にも立場があるし、僕も頭ごなしに反論するわけにはいきません。

先日、会社で社内スマートフォンの機種変更について打ち合わせがありました。
スマートフォンは全社員に貸与しているのですが、機種変更に伴いスマホの管理番号が変わる運用になったのです。
これまで機種変更は何度かありましたが、所有者は同じという理由で管理番号は変更せず行っていました。

しかし「いつまでも古い資産管理番号で管理して、実体に即しているのか」と、経営層から一言物申されました。
そして社内調整の上、新しい管理番号の採番が決定されたのです。

この事例から言えるのは、状況に応じて手順は変わるという事実です。昨日まで左向いて動いていたのが、今日から右というのも働く上では避けられません。
「もしかしたら、今やってるプロセスが変わるかもしれない」。
僕はいつも、そうした姿勢で仕事に臨んでいます。
たとえそれが定例業務であっても、同じ繰り返しが続くとは限らないと身構えれば、突発的対応が起こった時にパニックになるのを防げます。

変化が起こっても感情に動じず、一歩引いて静観する。

そのような言動は、あなたを障害があっても安定感を持っている人と評価し、信頼にもつながります。
結果、心理的安全性に貢献できるのです。


③心理的安全性が周囲にもたらす効果

1.建設的対話が増える

組織で心理的安全性が習慣化されると、メンバーとの間で議論が増えます。
議論の内容も傷のなめ合いや誰かの悪口ではなく、お互いの立場や状況を考慮し、段階を踏んで伝える内容を分けるといった建設的な対話です。

建設的な対話が実現できる理由は①で述べたように、職場で気兼ねなく話すために上司と部下の信頼関係の実現にあります。
その具体的な高め方として、①話しやすさ・②助け合い・③挑戦・④新奇歓迎が大切とも解説しました。

僕の場合、週に1回直属の上司と30分〜1時間かけて1on1の打ち合わせを設けています。
1on1では進捗報告の他、問い合わせ対応で困った内容、仕事をこう進めたいという提案の言語化がメインです。
中身によっては「これはちょっと時期尚早だから、〇〇が終わってからにしよう」と段階的な指示を仰ぐケースもあります。

また上司自身も△△の対応で困っていると胸の内を明かす場合もあり、お互いの感情を共有し合っています。
結果、「この人ならここまで言っても大丈夫」と信頼関係が確立され、「話しやすさ」にもつながってきます。

建設的対話が確立できれば、開放的なコミュニケーションが可能になるのです。


2.離職率が減る

開放的なコミュニケーションが可能になれば、人間関係の質も良くなります。
理由は他人から拒絶される不安が生じないため、それぞれの個性や意見が尊重されるからです。

個人の尊重は直接的な離職防止につながり、イノベーションや新しいアイデアも生まれやすくなります。

例えば僕は、週単位で自分の作業スケジュールを上司と共有しています。
スケジュールには予定している作業と、実際にかかった時間を記入しています。
他の人と比べ作業時間は長めですが、上司も僕の障害特性を考慮して逐一細かい指摘を述べません。
気になった問題は、1on1でまとめて話し合っています。

これにより、僕自身も「何か指摘されて責められるんじゃないか」という不安に駆られず仕事ができます。
この他にも様々な配慮事項も手伝って ーツライ経験もしてきましたがー  一度も辞めようと思わず6年間現在の会社で働き続けています。


3.長期的な安定就労につながる

そして、個人が尊重されるため長期的な安定就労につながります。
その理由は、自分が周囲に認められれば自信につながるからです

個々の濃淡や強弱はあれど、結局人間は他人から認められたいという「承認欲求」がベースで生きています。
自分が認められたら嬉しいですし、仕事のパフォーマンス維持にも貢献できるのです。

僕はまさに、定例業務メインで携わっているおかげで不安要素が少ない環境で勤務しております。
具体的には社員へのメールアカウント発行や名刺作成など、初めからゴールまでの手順が決まっている仕事です。

これもひとえに会社が僕の障害特性を理解し、対人関係での調整や折衝を避けるよう配慮をいただいている成果だと考えます。
もちろん僕も相手を尊重できるよう、事ある度に「僕のためにいつも色々調整いただき、ありがとうございます」と伝えています。
僕は今後も、自分や家族親戚の身によほどの出来事がない限りは60歳定年まで、会社に骨を埋める所存です。


まとめ

最後までお読みいただき、ありがとうございます。
以上、心理的安全性について本当の意味と達成までの具体的手法、職場への影響について解説しました。

以前こちらの記事でも述べましたが、会社は利益と生産性を得ることで、会社と従業員の成長を得る場所です。
そして成長のためには、「責任」と「信用」が伴います。

組織には感情を持つ人間が集まっている以上、その特性を意識した上でマネジメントする必要があります。

しかし、心理的安全性を高めるのは、決してリーダーやマネージャーなど、チームをまとめる人だけの仕事ではありません。

メンバー一人一人がこの心理的安全性の重要性や有用性を理解し、少しずつ働きかけ、初めてチームの心理的安全性が構築されます。

必ずしもいつも出来ている必要はないですが、一つでも意識すればあなたは会社に貢献し、役に立てるのです。

この記事があなたにとって焦りや不安・恐怖に怯えず自信を持って働き、お互いを尊重できる人間関係が築けますように。


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坂巻菱生 | 発達障害(ASD)成人当事者
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