好きなことと職業の結びつけは簡単でない
映画『ルックバック』を鑑賞した。
漫画を描くことが好きな少女が、漫画を描くことにどんどん没頭していく話だ。
主人公の藤野は小学校4年生。
最近よく「好きなことを仕事に」という。
そこで必ずといっていいほど出てくる問いが、「あなたが幼少期に好きだったことはなんですか?」だ。
この問いは確実にヒントにはなる。
でも「正解」を導き出すには、多くの人にとって足りないヒントだろう。
サッカーをプレーすることが好きで、サッカー選手を目指す。
漫画を描くことが好きで、漫画家を目指す。
それは小学生の頃にはそうなのだけれど、実際にサッカー選手や漫画家になる人はごくごく稀だ。
好きなことと、なりたい職業は一致しない。
第一「好きなこと」というのがざっくりしすぎている。
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「好きなこと」とは名詞と動詞の掛け合わせで考えるべきだ。
そして、小学生の頃なりたかった職業にとらわれてはいけない。
ひと言で「漫画が好き」といっても、いろんな「好き」がある。
漫画を「描く」のが好き
漫画を「読む」のが好き
漫画の「ストーリーを考える」のが好き
漫画を描くのに「リサーチする」のが好き
漫画を「批評する」のが好き
漫画の「コスプレする」のが好き
漫画を「広める」のが好き
…ぱっと浮かぶだけでも、これだけ出てくる。
でも、漫画に関する職業で小学生が知っているものといえば「漫画家」ぐらいだ。
さらに漫画を描くことが好きで漫画家を目指したとしても、「描く」作業以外にやらなければいけないことが山ほどある。
市場調査、文献の読み込み、取材、関係各所とのやりとり、締切の遵守…。
アシスタントやマネージャーを雇えるような漫画家になれば別だけれど、最初のうちはそういった「描く以外」のことも全部自分でしなければならない。
だから「漫画」という名詞はひとつ軸になったとしても、動詞がひとつしかなければ詰みやすいと思う。
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あまり漫画の世界にはくわしくないので、ここからはわたしの話をする。
わたしは小学校の頃、将来の夢として小説家を掲げていた。
しかし、小説家は(なれないし)向いていない。
文章を書くことが好きで、文章を書く職業といえば小説家しか知らなかったから卒業文集に小説家と書いただけだ。
でもその「文章」は「物語」ではない。
「書く」のほかにも、なにかを企てる、解く、カスタマイズする、整理するのが好きだ。
なぜ「好き」に気づけたか?といえば、小学生のころの経験だけじゃない。
そもそも小学生の記憶などほとんどない。
高校の文化祭の出しものなどアイデアを出すのが苦じゃなかったし、意外と採用率も高かった。
ゲームといえば数独とかピクロスなどパズル系が好きだし、公式や補助線を駆使して明確な答えを導き出せる理系科目のほうが楽しかった。
PCやスマホの壁紙はぜったいデフォルトのまま使わないし、音楽は必ず自分だけのプレイリストをつくりたい。好きな曲を好きな順番で。
今はライターとして働いているわけだが、別にライターじゃなくてもわたしの「好き」を満たせる仕事はあるはずだ。
でも、将来の夢に小説家と書いた小学生のわたしのように、ライター以外の仕事を知らないから仕方がない。
転勤族かつ上から指示されることが嫌いなため、雇われて働く選択肢を除外していることも関係している。
でも転勤族じゃなくて、上から指示されるのも別に苦でなければ、企業のなかでそうした仕事もあるかもしれない。
出版社や編集社といった、わかりやすく「文章」に関わる企業だけじゃない。
一見、文章とは関係なさそうな企業でも、よく文章を書く部署や担当者は存在するはずだ。
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だから「好きなことを仕事にしましょう」といっても、まず「好き」を要素分解する必要があると思う。
ここを細かく考えず短絡的に結びつけようとするから難しい。
さらに仕事を職業名で考えようとするからまた難しくなる。
◯◯家、◯◯士、◯◯er…
職業以上に仕事はたくさんあるのだから。
好きなことを仕事にしたいなら、「好き」を名詞と動詞で因数分解しまくってほしい。
わたしもまだまだだけどね。
今日も読んでくれてありがとうございます。
あなたの「好きなこと」はなんですか?
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