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言えなかった、美容院でのひと言

今日は2度目の美容院だった。

転勤族の地味な大変さのひとつに、美容院探しがある。
コンビニの4倍あるといわれている美容院。
選ぶのが面倒くさい。
どうせ行ってみなければわからないのだから。

煩わしさを排除したいわたしは
「自宅から近い順に行ってみる」戦略を立てた。
幸いにも自宅からいちばん近い美容院がまずまずだったため、今日は2度目のご来店となった。


わたしの場合はカット・ブリーチ・カラーの長丁場になる。
しかし施術中は基本的に雑誌を読まないし、スマホもいじらない。

切り落とされた髪がふぁさふぁさ落ちてくるのが気になって雑誌やスマホに集中できないし、なにより開いているページ(画面)を背後から見られているんじゃないかと思うと、なんか気持ち悪いのだ。

自意識過剰だろうか。
いやそうでもないだろう。

事実、以前通っていた美容室では
「その女優さん、最近よく出てますよね~」と会話を振られた。
ちょっと、なに見てんのよ。

雑誌もスマホも見ないとなると
スタイリストさんとしては「話しかけたほうがいいのかな?」センサーが発動するのだろうか。
あたり障りのないお話を振ってくれる。

「今日はお休みなんですか?」
無難だ。
平日の昼間に美容院に行く人は少ないだろう。
「いや、帰ったら仕事します」
「どんなお仕事されているんですか?」
仕事柄、聞いておいたほうが良いのだろう。
派手な髪色・髪型にしても良いのか、保険なのだ。
「ライターしてます」
「へぇー、ライターさんですか。文章を書く?」
「そうです」


まあ、そうなりますわね。
食いつかれたこと、ほぼないよこの話題。

「何か趣味とかあるんです?お休みの日とか」
次の無難な質問である。
「ボディビルが好きなんですよね」
「ボディビルって、筋肉ですか?」
「はい」
「じゃあ筋トレとかするんですか?」
「以前はジム通ってたんですが、引っ越してきてからはまだ…」
「あっ、まだこっち来たばかりですもんね…」


ほーれ言わんこっちゃない。
だから趣味の話したくないのよ。

鉄板質問2連続で気まずくなると、こちらが申し訳ない気持ちになる。
お客さんと話すのも仕事のうちなんだろうけど、意表をついた答えですみません。

「◯◯さんは、最近はまってることとかあるんですか?」
申し訳なさから、つい話を振ってしまう。
結局わたしから話を振って、答えてもらうやりとりが続く。

どうしてここまで気を遣っているのだろう。
まあでも、美容師さんのお仕事って基本的には施術だものね。


カットを終えると、ブリーチに入る。
「しみませんか?」
これは次のカラーが終わるまで、何度も聞かれることになる。

幸いわたしは頭皮が強いのか鈍いのか、ほとんどしみない体質だ。
「しみません」

薬剤を洗い流すときにはこう聞かれる
「お湯加減、熱くないですか~?」
「だいじょぶでーす」

あまりの間抜けな「だいじょぶでーす」に、自分でツッコミをいれたくなる。日頃人と話さないのでこうなる。

ドライヤーで髪を乾かしながらまた、美容師さんが話しかけてくれる。
「1人で飲食店に入れるかどうか」で、彼はとても盛り上がっていた。

このときこそ聞いてほしかった。
「熱くないですか~?」と。

熱いです。

話が盛り上がるのは良いけれど、ドライヤー、高さが下がってます。
そして動かしていただけますか。
頭皮の一点に熱風が直撃してます。熱いです。
本当に熱いです。


歯医者さんに行くと
「痛かったら左手挙げてくださいね」と言われる。
多少痛いけど、別にがまんできる程度なので今まで挙げたことは一度もない。

もし今日
「熱かったら左手挙げてくださいね」と言われていたら
間違いなく左手を挙げていただろう。

もうちょっと短くしたいです、とか
早く帰りたいのでトリートメントは結構です、までは言える。
お金を払うのはわたしだから。
美容師さんの仕事の範疇だとも思うから。

でもなぜ「熱いです」のひと言が言えなかった。
ドライヤーも美容師さんの仕事の範疇なのに…。


お金を払うから言いやすいこと、お金を払っても言いにくいこと。

お金を払うって、とても分かりやすいと思うの。
お店に対価を払うように、相手が友人であろうが時間やスキルをわたしに使ってくれたのなら、わたしはお金を払いたい。

「貸し借り」の意識を長引かせたくないからだ。

人に何かをお願いするなら、
(いつか)自分も返さないと、と思う。

その気持ちが蓄積すると、頼みづらいのだ。

その場できちんと対価を払うほうが、
よほど次も頼みやすい。


だから、偉そうにするお客さんにはなりたくないものだが、対価を払うことでお願いはしやすくなると思う。

お金を払うからこそ、言いやすくなること。
スッキリとやりとりできること。
お金のやりとりを毛嫌いする人もいるけれども、貸し借りの蓄積よりもよほど軽快で、分かりやすい。


それでもたぶん、気まずかったら気遣いしちゃうし、
「熱いです」も言えないんだろうけどね。
コミュニケーションって難しいね。

そんなことを考えた美容院の帰りである。

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