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親指一本のジャッジの重み-ショウタイムセブンをみて-

阿部寛さん主演の『ショウタイム・セブン』を観た。
初日の口コミはなかなか辛辣なものが多かった。初日に観に行るぐらいだから、きっと公開を楽しみにしていた層が厚いに違いない。期待が大きめであるが故に辛口評価も多くなってしまうのだろう。
わたしもそうだ。

ここからはさっそくネタバレを書くので注意してほしい。

∽∽∽

ゴールデンタイムの人気報道番組「ショウタイム・セブン」の人気キャスターだった折本(阿部寛さん)。訳あって番組を降板し、毛色のまったく違うラジオ番組のMCを務めていた。

リスナー参加型のコーナーで折本につながったその電話は、これから火力発電所を爆破するとのテロ予告。折本はテロリストとの交渉役となり、交渉の様子を別フロアで生放送中の「ショウタイム・セブン」でそのまま電波に乗せる流れに。

番組の名物コーナーで、視聴者がリモコンを使って投票する「ザ・世論調査」を使って互いに揺さぶりをかけ、また揺さぶられ、なかなかスリリングな展開。

最後の最後に折本が視聴者に問うたのは、「折本はLIVEか、DIEか」だった。つまり、自分の生き死にを視聴者投票で決めようとしたのだ。
これがエンタテイメントだ、とでもいわんばかりに。

アンケート結果と折本の行く末は明確に描かれず、爆弾が仕組まれたイヤホンを耳に装着し、起爆リモコンを手にした折本の姿を最後に、画面はアイドルユニットの新曲紹介に切り替わる。不自然な切り替わりが、そういう結末を示唆している。

自分の生き死にを投票に委ねるなんて、と誰もが一瞬驚くだろう。折本の報道への熱意というか執着はこの映画の随所でみてとれる。
そして折本は自分の生き死にを投票で決めることをみずから決めた。

たしかに真実を明らかにした折本は、ショウタイムセブンのキャスターの座どころか局にも席はなくなるだろう。しかし自棄になったふうでもなく、追い詰められたふうでもなく、昂揚感さえたたえた顔をしていた。

この人は自由だと思ってしまった。

もちろんわたしはスクリーンのこっち側に座り、つくられた話だとわかってみているのだから、そんなふうに感じる余裕があるのだ。
そこを見透かすかのように「視聴者のあなたたちは安全なところにいるから楽しめるんだ」と、折本はその前にいっていた。
視聴者は安全なところからまるでゲームを楽しむように人の命が懸かった投票に参加し、たぶん、折本は本当に命を絶った。

おもしろ半分な気持ちで、親指一本で、生き死にが変わる。
力ある者にとって都合の悪いものはすぐに隠されて、なかったことになる。

タイムリーなことに今本当にテレビ業界が大変なことになっているけれども、我々の目に映るものは何がどこまでみえていて、何が隠されてみえないのか。目にみえているものも、真実なのか。
テレビだけじゃなく日常生活でも無意識のジャッジが誰かを追い詰めている可能性があると思うと、初日酷評のショウタイムセブンはそんなに悪くない映画に思えてならない。

…でも、この映画でなにより印象に残っているのは、折本が惚れ惚れするような達筆だったってことなんだけどね。



今日も読んでくれてありがとうございます。
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