勝手に会議をねじ込むな!──スケジュールの“空白”に承諾なく入れられるストレス
「この時間、会議入れておきますのでよろしくお願いします。」
──ある日、そんなメッセージがTeamsに届いた。カレンダーを確認すると確かに予定は入っていない。
Teamsのようにスケジュールが丸見えになっていると、こちらの事情を聞く前に当然のように予定が送り込まれる。
問題は、見た目上“空白”に見える時間が本当に余っているとは限らないことだ。資料作成やペーパーワーク、読書や学習など、ミーティング以外の仕事やプライベートの用事はカレンダーには載りにくい。
にもかかわらずいざ入れられると断りにくく、結局無駄な会議に時間を費やしてしまう。会議よりも優先したいことはたくさんあるのに。
本記事では、空いている時間を奪われるストレスの正体に迫りつつ、自分の時間をどう守るかを一緒に考えてみたい。
1. “形”がないと尊重されない
わたしたちが仕事をするうえでは、ミーティングやアポイントといった“形”のある予定はカレンダーに表示しやすい。会議室を確保して日時をセットし、チーム内で認識を共有しやすいからだ。
一方で、業務上必要なタスクやプライベートの用事でも、「いつやるか自分で決められる」類のものはわざわざカレンダーに書き込まないケースが多い。
たとえば資料を読んだり、データを整理したり、メールやチャットに返事をする時間などは、あえて“予定”として見える化していないことも多いだろう。
しかし、“形”がないと他者はそれを「忙しい時間帯」だと認識できない。結果として、「空いているじゃん? じゃあ会議できるね」と判断されやすいのだ。
それらのタスクは、まとまった時間や集中力を必要とすることが多い。いわゆる「クリエイティブな思考」が求められる作業や、ちょっとした事務作業でも一度腰を据えて集中して取り組むほうが断然効率がよい。
にもかかわらず、カレンダー上で“会議”としてブロックされていないというだけで、その時間を他者に奪われる可能性が生まれる。
この「形がないタスクは尊重されない」という現象こそが、わたしたちのストレスを引き起こす大きな要因だ。
いつでもできる仕事ほど後回しにされがちであり、後回しにされた結果、焦ってこなしたり、結局クオリティが下がったりする。そして、実際にはそちらの仕事の方が会議よりも遥かに重要だったりする。
2. Teamsがもたらす“カレンダー透視”問題
Teamsのようなツールは共同作業を円滑に進めるには便利だ。複数人のスケジュールを瞬時に確認できるおかげで、会議時間の調整がスムーズになるというメリットもある。しかし、その分「自分の空き時間を無防備にさらしてしまう」リスクがあることは見逃せない。
他人のカレンダーが透けるように見えると、「ここは会議が入っていないから予定を入れよう」と考えがちだ。
もちろん、スケジュールの共有自体は仕事を進めるうえで必要なことかもしれない。だが、共有されているカレンダー上に載っているのは、あくまでミーティングや自分で登録した予定のみ。実際には非公開の作業があったり、集中しなければ終わらないタスクが山積みになっているかもしれないし、プライベートでちょっと外せない用事が割り込んでいるかもしれない。
それなのに「この時間帯は何も入っていないなら余裕だろう」と判断され、会議が“ねじ込まれる”のだ。
そして、このTeamsの良くないところは、会議を設定する側が時間を自由に決められ、入れられた側はそれを断れないことだ。
たとえば、午前中は自分の声の調子が良くないからできればミーティングは避けたい、あるいは昼休みの時間が曖昧な長引く会議はできれば敬遠したいと思うことがある。
だが、Teamsによって丸見えのスケジュールが「空いているように見える」となれば、その思いを汲んでもらうのは難しくなる。しかも会議が強引に挟まるせいで、自分のペースで進めようと思っていた業務や休憩が崩れる。
これは入れられる側からすると、非常にストレスが溜まる。そして、会議をいくつやったとしても実態として何も進んでいないため、「1日何をやっていたんだろう…。」という虚無感だけが残ることになる。
3. 断りにくさが生むストレス
さらに大きな問題は、「断りにくさ」だ。空白だとみなされて会議を入れられても、本当は断りたい用事だったり、「その時間は集中して資料を作りたい」「家庭の都合で早めに退勤したい」などの事情を抱えていたりする場合がある。
しかし、「他に見える予定もないなら、どうして来られないんだろう?」と思われると気まずいし、業務上の関係もあるから簡単には拒否できない。
結局、無理をして出席してしまい、自分のタスクがあとまわしになり、精神的に追い込まれる……という流れがありがちだ。
この断りにくさは、周囲との関係性や日本の職場文化も影響しているだろう。「会議に参加しない=やる気がない」「職務態度が悪い」と受け取られることを恐れて、出席してしまうケースがある。
また、Teamsで予定がすぐ可視化されるという特性上、「本当に無理なら断るだろう」という空気ができやすい。誰も悪意を持って会議をねじ込んでいるわけではなくとも、「断ることが想定されていない環境」になってしまっていることが、多くの人にとって大きなストレスに感じられるのだ。
4. 自分の時間を守るための対策
では、どうやって自分の時間を守ればよいのだろうか。いくつかの対策を考えてみたい。
1. 理由を説明する努力と、相手を尊重する姿勢
「この時間帯は他のタスクを優先したい」という意志を、自分なりにわかりやすく説明するように心がけよう。相手にしてみれば「なぜ断られるのか」がわからないと不満が残る場合がある。
もし「午後は集中したいので、午前中に会議はできるだけ避けたい」「昼食をしっかり取りたいので、昼休みの前後はミーティングを入れたくない」などがあれば、事前にきちんと伝えておくとよい。
私があるSIerにいた頃は、午前中は眠いから声がおかしいからやりたくない。14時以降にして欲しい、といつも伝えていた。また、やりたくない日に入れられたら、「3時にフレックスで退社した後にやることがある」と理由を付けて別の日に変更をお願いしていた。
2. カレンダーに“形”を与えておく
1はほとんど綺麗事なので、私としては2と3が本命の方法だ。資料作成やペーパーワーク、読書・学習、さらにはちょっとした移動時間や休憩時間なども、カレンダー上に“形”として入れておくことをおすすめする。
たとえば「準備作業中」「ペーパーワーク」「クライアント資料確認」など、具体的な名前をつけて予定をブロックしておけば、外部から見たときに「ここは埋まっている時間帯なんだな」と判断しやすくなる。
実際の作業内容をすべて開示する必要はないが、「不在」「作業中」などのひと言でブロックするだけでも変わるだろう。
今は相手に「お時間ある時を教えてください」と聞かれたり選択肢を頂くものの、当時は無理に入れられて本当に嫌だったなぁ…。
3. 前々日までに連絡がなければ断る・“気づかない”スタンス
無理やりだが、唐突なミーティング依頼は断固拒否する、あるいは「気づかないキャラ」として押し通すというやり方もある。
急にねじ込まれる会議にほとほと疲れているなら、あえて「メールは1日1回しか開かない」「即レスしなくてもよい権利を持っている」という姿勢をとるのも手だ。
周囲に対して「自分はいつでも即対応できるわけではない」と周知すれば、それなりに理解を得られる可能性がある。
もちろん業務上まったく連絡を見ないわけにはいかないが、「何日も前から連絡しないと予定を取れない人なんだ」という印象を持たせることで、突然の会議要請を減らせるケースがある。
おわりに
「予定が入っていないというのは、入れても良いという意味ではない。そもそも暇ではない。」──この言葉は、わたしたちが抱えるスケジュール管理のジレンマを端的に表している。
Teamsのような便利なツールのおかげでカレンダーの共有が進み、確かに仕事の効率化が図れる場面も多い。しかし、「空白は予定OKのサイン」と早合点されてしまい、本人の意図を無視して会議が勝手に差し込まれる弊害は無視できない。
すべてを個人の判断だけでコントロールするのは難しい場合もある。しかし、自分の時間を奪われないようにする工夫を重ねれば、少なくとも「空白=好き勝手に使っていい時間ではない」という意思表示はできるはずだ。
「予定が見えない仕事やプライベートはカレンダーに書きにくい」という悩みを抱えている人こそ、自分だけのやり方で“形”をつくり、周囲にアピールしていこう。
そうすることで、Teamsに覗かれるカレンダーのストレスから少しずつ解放され、自分が本当に優先したいことに時間を割くことができるだろう。
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