第104回:「言葉」を味方にして、「世の中」という海を泳いでいこう
こんにちは、あみのです!
今回の本は、汐見夏衛さんのライト文芸作品『真夜中の底で君を待つ』(幻冬舎文庫)です。noteにて汐見さんの作品の感想を書くのは5冊目です。
突然ですが、あなたには身近な人との会話や何かの物語の「言葉」に救われたり、人生を変えたりした経験はありますか?私には数え切れないくらいにあります。
今作では、人々が放つ「言葉」の影響力について印象強く描かれています。前述したような経験が一度でもある人にはぜひ読んで頂きたい1冊です!
あらすじ(カバーより)
家族や友達といるより、喫茶店のアルバイトが好きな17歳の更紗。アイスコーヒーだけで閉店まで粘る常連客の「黒縁さん」。おしゃべりが苦手な二人が、店以外で偶然出会ったのは夜の公園だった。お互いの連絡先も知らないまま始まった特別な時間は、胸に秘めた過去の痛みを解きほぐしていく。愛に飢えた彼女と愛を諦めた彼が織りなす成長の物語。
感想
汐見さんが描く物語では、世の中を生きていくために大切なことをたくさん教えてくれます。
例えば『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』では戦争の恐怖と平和の大切さを学び、『だから私は、明日のきみを描く』では「努力を続けること」と「本音で話すこと」の大切さを知りました。
また『さよなら噓つき人魚姫』で描かれていた「家族以外の年上の人を頼ってもいいこと」は私としても大きな気付きとなり、この作品を読んで以来身の周りにいる年上の人に悩みを相談してみる場面が増えました。
今作は「言葉」が大きなテーマとなっていることもあり、使い方・解釈次第で凶器にもなるし、逆に心の薬になる可能性もあることを改めて知りました。その中でも「黒縁さん」こと仁科さんが、主人公・更紗に話したこのような言葉たちが印象に残っています。
「言葉は鎧です」
「自分を傷つけたり苦しめたりするものから、自分の心を守るための鎧です。言葉の鎧を身につけると、人は強くなれます」
「言葉は人を傷つける凶器にもなる」ことは昔から何度も聞いてきましたが、「言葉で自分の心を守る」って意外と言われたことがなかったなと今作の中でも大きな気付きとなりました。
では「言葉の鎧」ってどうしたら身につけることができるのか?
日々のやりとりを通して更紗と仁科さんが仲を深めたように、誰かと会話をする場面を増やすことはもちろん、いろんな小説や映像作品に触れて、幅広い世界の見方を知ることも会話と同じくらいに必要だと仁科さんは教えてくれました。
私も知らない世界を知るためにたくさんの人と会話をしてみたり、小説以外のエンターテインメントにももっと触れたりしていろんな言葉・表現と出会い、自分の感情をスムーズに「言語化」できる人になりたいと思いました。
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仁科さんは、持ち前の優しさや温かな言葉によって更紗の心を救いました。しかし彼には自分が放った言葉によって、他人を傷つけてしまった過去があり、本業である小説家の仕事に前向きになれない一面もありました。
小説というと不特定多数の人が読むため、仁科さんが物語に込めた思いをいまいち理解できない人だっているかと思います。でも一方で少数派かもしれないけど、仁科さんが批判を浴びた言葉に救われた読者もいました。
「物語」の力で、「言葉」の力で、誰かの人生を変えたい。これこそが今作最大のメッセージではないのでしょうか。
この思いは仁科さんのものであると同時に、汐見さん自身が小説に込めている思いでもあるんじゃないのかなと私は思いました。
汐見さん、私はこれまでに何度もあなたの物語に心を救われ、自分の悩みとも向き合うことができました。
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更紗が仁科さんと出会い「言葉」の大切さを知ったことは、彼女にとって大きな経験になったと思います。仁科さんも更紗と知り合ったことで、自身の「物語」や「言葉」に対する思いを見直すことができました。
この物語の先で更紗は、これからもたくさんの物語と出会い、いろんな人とも関わり合いながら少しずつ「言葉の鎧」を強化して、作中では気付けなかった感情への「答え」にも辿りつくのではないかと予感しました。
また仁科さんも、小説家として売れる売れない関係なく誰かの心に響く物語を再び書き始めていくのだと思います。
また今作には、今の私が欲しかった言葉もいっぱい詰まっていました。
特にアルバイトのシーンでは、更紗が普段の仕事に自信が持てなくなる展開があって、自分自身の最近の経験と重なって見えました。
更紗はバイト仲間に悩みを打ち明けますが、「役立っていない」と思っていたのは彼女の思い込みで、他のみんなは更紗がいることで助かっていたことに気が付きます。何気ない仕事でも充分誇りを持っていい。こういったところも非常に私にとって救いになりました。
今作を読んでいたら、世の中って広い海の中にいるみたいだなとふと思いました。この広い海を泳いでいくため、自分の暗い感情に溺れてしまわないために身近な人や作品から刺激を受けて、「言葉の鎧」を更紗と一緒に強くしていきたいです。
世の中に溢れている素敵な「言葉」を味方につけて、生きづらい海の中を上手に泳ぐことができたらいいな。