第41回:あのときの感情を取り戻した新作に感謝したい
おはようございます!あみのです。
今回の本は、沖田円さんのライト文芸作品『雲雀坂の魔法使い』(実業之日本社文庫GROW)です。
私は高校生のとき、沖田さんの『僕は何度でも、きみに初めての恋をする。』という作品を読み、初めて「本を読んで泣く」という経験をしました。
よくキャッチコピーでも使われがちな「泣ける本」の実在を知った瞬間は、今でもよく覚えています。
「記憶」の残酷さや恋する「美しさ」を味わえるこの物語は、何度も読み直し、何度も同じ場面で泣きました。それくらい私にとって大切な物語のひとつです。
その経験以来、沖田さんの作品は新作が出ると必ず読んでいましたが、途中から売れ筋を意識したような作品が多くなり、「私が好きな沖田さんとは違う」と思ったことからここ最近の作品は読まなくなってしまいました。
そんなとき、ふと実業之日本社のホームページを見ていると、ライト文芸の新レーベルが創刊されることと、創刊ラインナップに沖田さんの新作が含まれていることを知ります。
今回の物語は、悩みを抱える幅広い世代の人々と「魔法使い」と呼ばれる人物とのつながりを描いたハートフルストーリーっぽい。
これまでとは少しテイストが違う印象ながらも、「これはもしかして私が求めていた沖田さんの作品なのでは?」と察し、久しぶりに作品に手を伸ばしました。
前フリが長くなりましたが、今作を読もうとした経緯はこんな感じです。
気軽に温かな気持ちになれる物語を求めている人はもちろん、村山早紀さんの作風が好きな人にも全力でおすすめできる1冊です。
あらすじ(カバーからの引用)
人生で大切な全てがここに。心に沁みる、涙と希望の物語!
ある町の片隅に、少女のような風貌の魔法使い・翠が営む『雲雀坂魔法店』がある。その店を訪れるのは、人知れぬ悲しみや孤独、後悔を抱えた人々。幼馴染との関係に苦しむ女子中学生、余命わずかの画家、物語が書けない小説家……。翠は、彼女らの心の奥底に眠る「真実」を感じ取り、希望へと繋ごうとするが――。読むたびに涙あふれる珠玉のストーリー。
感想
物語の後半になるにつれて、感動が増すような作品でした。今作を手にした際は、最低でもぜひ4話までは読んで頂きたいです。感情を失った兄とオルゴールに込められた「魔法」のお話、今作の中で1番好きでした。
今作には様々な世代の人物が翠のもとに訪れます。家族を元気づけたい、人気作家になりたい、過去に負った傷を治してほしいなど、雲雀坂魔法店に訪れるお客さんたちの願いは人それぞれです。
確かにこれらの願いは、翠の魔法であればすぐに解決できることかもしれません。しかし、翠は簡単に願いを叶えるような魔法は絶対に使いません。
翠はお客さんの願いを簡単に叶えることではなく、「どうしてこの願いを選んだのか」を深く考えてもらう時間を大切にしていました。
翠との出会いによって、自分がした願いを見つめ直す登場人物たち。その結果、彼らに訪れた「希望」たちこそが翠が使う本当の「魔法」なんだと思いました。魔法が生み出す些細な出来事や、将来への希望に勇気づけられました。
また、今作の最終話ではある魔法使いの「誕生」と「死」が描かれました。翠をはじめとする雲雀坂の魔法使いたちは、願いごとのある人間に対して何を思ってきたのかがよくわかる箇所でもありました。
「師匠」のもとで魔法使いになるための修行を重ね、「師匠」との別れを経て更なる成長を見せていく少年の姿に心が震えました。儚さと美しさを兼ね備えた感動の演出がとても沖田さんらしかったです。
このエピソードを経て、これまでの物語を回想すると、また違った今作の魅力が見えてきました。
各話で主人公となる人物が違うので、シリーズ化にも向いていそうな作品だと思いました。「願い」を通じて人生に希望を与えてくれる優しい魔法使いにまた会いたいです。
「泣く」ほどではないですが、心に沁みる物語なのは確かな1冊。沖田さんの新作が出るたびにわくわくしていたあのときの感情が蘇る、「読んで良かった」作品でした!
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