ぐらしあすの「せんぷうき」
風速弱でプロペラはまわり続けている。
約10畳ほどのリビングの定位置で。
築約50年ほどになろう無機質な社宅の1階。
入居者も少ない。
すぐ前には小高い山。
夜は静寂に包まれる。
3LDKはぐらしあす一人にとっては広い。
家賃が安いのは、財布が喜んでいる。
この家には、しょっちゅう招いてもいない珍客が好き勝手に侵入する。
「むかで」「長い脚の大きなスパイダー」「こおろぎ」「カマキリ」等。
「むかで」「大スパイダー」は、ぐらしあすにとって超恐怖対象だった。
「だった」というのは、ある意味「慣れ」が生じ始めたから。またかと。
リビングを行進している「むかで」は、ぐらしあすが「自分で」どうにかしないと解決はない。
最大のピンチを乗り切るのはぐらしあす自身。
おそらく侵入経路は至る所にあるのだろう。
「むかで」が寄り付けない「白い粉状のくすり」。
玄関の框におもいっきりまいているので、ぐらしあすの家の扉は、外から見れば、下部は白い粉だらけ。
どう見てもこりゃ怪しいな。
効果があるのかないのかはわからない。
とにかく家の中が暑い。いつもパンツ1枚で家の中にいるけど暑い。
そりゃそうだ。ぐらしあすの家には1台も「エアコン」がない。
だからいつもプロペラがまわっている。
寝るときゃアイスノンで頸動脈を冷やす。
がまんできん時は、水風呂につかる。
会社に入って、上司が社宅入居を勧めてきた。
しかし、部屋は指定され、ぐらしあすの希望は通らず。
住み始めてわかった。
この社宅には、会社に全国から仕事をしに来る人々に滞在してもらう目的があったということを。
ぐらしあすの隣はある業者さん、真上はまた別の業者さん。
別段問題もないし、ぐらしあすは帰宅すればただの一住民。
しいて言えば…「落ち着かん」。
ある日、会社の事情で、上司がぐらしあすに「部屋変わりますか?」と言ってきた。急な話なので、HSPのぐらしあすはピンときた。
ぐらしあす:いえ、変わりません。このままでいいです。
最初にエアコンのない部屋を指定され、今更何いうとんねん(こころの声)。
このあたりの意地っ張りは、ぐらしあすの人格の中のある部分が、「パステルカラー」ではなく、「ブラックに近いカラー」から来るものだろうと思う。
脱水症状にはならないように気を付けながら、アイスノンがぐらしあすの頸動脈の血流の温度を下げてくれ、風速弱のせんぷうきが「風を…涼しい風を」と見守ってくれながら、ぷろぺらを回し続けてくれる。