解剖記録 心臓 2024/08/08
昨年夏は、ラットの解剖。冬に恒例のタヌキ解剖実習。ずっと昔に解剖して取り出した鶏の頭骨で型を取ったキャンドルを作り、今年に入ってからは春先にドジョウの透明骨格標本を作る。そして、いよいよ今夏。心臓の解剖を行うことになった。時は、8月8日。もともと6日まで夏合宿に参加、1日インターバルを設けて万全の体調で挑む予定であったが、何とは言わないが3日にアクシデントが発生、5日間の安静を告知されて合宿は解散となった。一応それについての文章も書いたが、投稿するのはある程度自制することにしよう。
さて。この日教室に向かう途中の電車の中で、急に腹痛が始まった。それだけではなく、若干の吐き気もある。まさかとは思うが、「あれ」の再発か?それとも、またなにかあやしいものを食べてしまったのだろうか。そんなはずはないだろうと思うと同時に、けれども自分の行状に信用が置けていない。非常に困った。なんとか目的地に到着して実習用の白衣に着替えていると、もう顔見知りとなった先生に声をかけられた。曰く、今回の参加者3名は小6、中学生はお前だけだぞ、と。再び胃腸が痛くなる。同学年というのが、一番良い。とくに遠慮する必要がないというのがその原因か。年長者に対する敬意や年少の者に対する心配りなども一切必要ないのだから、気楽なものだ。この前のラットの解剖の時などは同学年の者しかいなかったためとても居心地が良かった(しかしながらときたま同じ学校の同級生と鉢合わせしてしまう危険性があるのがこの欠点である。まあ、別に顔を合わせたところで問題があるわけでもなし。学校周辺ですれ違った時など、おそらく顔を忘れていた)のだ。
さて。全く必要がない相手でも年少と言われればそれとなく心配りをし、結果としてストレスで腹痛を引き起こした。どうにもこの習慣は抜けないようだ。しかしながら、その影響を受け続けるのはよくない。眼を閉じ、精神統一。息を吸って、ゆっくりと吐く。この繰り返しをして、教室へと入る。
さて。今回解剖する対象はブタの心臓及び鶏の心臓。ブタの心臓は個数が足りないために二人一組で解剖することに。なんとなしに同性同士で組むことになる。
さて。まずは心臓の働きについて軽くさらった後、机にどんと置かれた豚の心臓に手を伸ばす。とりあえず、心室の仕切りを見るために最下部から両側に向けて解剖ばさみをはしらせる。しかしながら、見ていると僕も隣の子も何やら手つきが危なっかしい。他の面子に解剖経験があるかはわからないが、少なくとも想定以上に小型であることが執刀者の足を引っ張っている様子。一歩間違えれば自分の指を切ってしまう可能性があるわけで、実際に傷がつかなくともゴム手袋が切れてしまえば皮膚に古い血がこびり付くこととなる。衛生上、とてもマズい事態になるであろう。ただでさえ例の3日の事件があったそのたった5日後なのだ。怖くてやっていられない。
これらの理由により、僕たちの解剖は想定の2倍以上の時間をかけて進むことになる。10分以上かかって、ようやく心臓を2つに割ることができた。幸い時間をかけたおかげか主要な筋などにはほとんど傷がない。おかげで、スケッチの際には非常に写しやすい。
そんなこんなで気が付けば2時間が経つ。どうやら今回は無口なものばかりが集まったようで、休憩時間が来ても誰も声を上げない。そんな状況であるからか教室の外からやけに大きな音が聞こえる。水槽から久しぶりの外出を果たした亀が、遁走しようとバリケードにぶつかっている音のようだ。この亀、過去に一度逃走を果たし1週間も行方不明であったというから、油断ならない。
休憩時間が終わり、再び教室へと入る。この後は、簡単だ。さきほどやったことを鶏の心臓を使って行えばよい。よって、特筆することもなかった。ただ、大動脈を縦に切ったところ別の血管が4本伸びていることが判明した。肺へとつながっているわけでもないのだろうから、これらはいったいどこへと血液を送り出しているのだろうか。いつか、動物を解剖するときは消化器系ではなく心臓周辺を目標とするのも良いかもしれぬ。