(小説)白い世界を見おろす深海魚 18章(憂鬱な朝)
【概要】
2000年代前半の都内での出来事。
広告代理店に勤める新卒2年目の安田は、不得意な営業で上司から叱られる毎日。一方で同期の塩崎は、ライター職として活躍している。
長時間労働・業務過多・パワハラ・一部の社員のみの優遇に不満を持ちつつ、勤務を続ける2人はグレーゾーンビジネスを展開する企業から広報誌を作成する依頼を受ける。
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18
目が覚めると緩い日差しが窓から差し込んできた。アパートの前にある公園から、子どものはしゃぎ声が聞こえる。枕元に置いてある携帯電話のディスプレイは、九時半を表示していた。土曜日の朝であることに気づき、それから月曜日の朝までにやらなければならない仕事が残っているのを思い出す。
会社に行かなきゃ……
頭の中は発泡スチロールを詰め込まれたように軽く、思考するのが億劫になっている。
切迫した平日とは明らかに違う朝。布団から起き上がり、部屋を占めている冷たい空気に身体をさらす。習慣的にラジオのスイッチを入れるとオフスプリングの曲が流れていた。『ホワット・ハプンド・トゥ・ユー?』。はじめて聴いたのは学生時代の頃だろうか。汗ばんだティーシャツと深夜の車のニオイ。
当時の嗅覚と視覚はよみがえっても、誰と聴いたのか思い出せない。冬の朝とは不釣り合いの激しいビートに単純な歌詞が載せられている。その曲に胸の奥が一回、微かに揺れたような気がした。
つづく
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