(小説)白い世界を見おろす深海魚 8章(違和感のあるインタビュー)
【概要】
2000年代前半の都心の片隅での出来事。
広告代理店に勤める新卒2年目の安田(男性)は、不得意な営業で上司から叱られる毎日。一方で同期の塩崎(女性)は、ライター職として活躍している。
長時間労働・業務過多・パワハラ・一部の社員のみの優遇に不満を持ちつつ、勤務を続ける2人はグレーゾーンビジネスを展開する企業から広報誌を作成する依頼を受ける。
【前回までの話】
・序章
・1章
・2章
・3章
・4章
・5章
・6章
・7章
8
「失礼しまーす」
青田さんとは対象的に、体格のいい男性が入ってきた。紺色の細身のジャケットと金の腕時計が窮屈そうだ。角張った顔と切れ長の眼。青田さんと同様、慣れた笑みを浮かべている。半月型に開けた口から綺麗に並んだ歯を覗かせていた。
「はじめまして、斎藤と申します」
ビックリするほどの大きな声と同時に、勢いよく名刺を差し出してきた。
威勢のいいその姿に、社会人二年目のぼくでさえ照れ臭さを感じる。
「営業の安田です。こっちがライターの塩崎です」
「塩崎です。よろしくお願いします」と頭を下げている姿を見て、斎藤さんは軽く首を縦に動かした。
「手短に……ということなので、さっそく始めさせていただきますね」
塩崎さんはカバンから音声レコーダーを取り出して、テーブルの上に置いた。他のライターは取材の前に世間話をして喋りやすい雰囲気をつくるが、塩崎さんはそれを省いた。
「今回はキャスト・レオ様のPR誌の特集記事として、斎藤様の活動を通して『御社の会員であることのメリット』を伺います」
ペンと大学ノートを広げ
「これでよかったのですよね?」と相手に大きな眼を向ける。
「ハイッ、お願いします」
青田さんは唇を引き締めて、うなずいた。
「あと、『ネットワークビジネスに対するマイナスのイメージを払拭すること』を今回の記事に盛り込んでいただけませんか? あっ、それと……」
斎藤さんは前のめりになる。
「〝様〟は止めてください。ラフにいきましょう」と、長い脚を組んでリラックスしたポーズをとる。
青田さんは、ぼくに目を向けてうなずいた。
つづく
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【全章】
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リアルだけど、どこか物語のような文章。一方で経営者を中心としたインタビュー•店舗や商品紹介の記事も生業として書いています。ライター・脚本家としての経験あります。少しでも「いいな」と思ってくださったは、お声がけいただければ幸いです。