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ニューギニアの海を渡った、祖父のごぼう剣
この話は太平洋戦争中、パプアニューギニアに送り込まれた、祖父の体験談。
その刀が入った革袋には、穴がいくつも開いていた。船の中でネズミにかじられたそう。通称、ごぼう剣と呼ばれる軍刀で、見た目がごぼうのように黒い。
今から20年くらい前、親戚の家に訪問した際、祖父は突然、ごぼう剣を見せてくれた。同居している伯父、伯母、いとこたちも初めて見たそうで、とても驚いていた。その時、なぜ私にだけ急に見せてくれたのだろうと思っていた。
最近、朝起きがけにあの剣のことを思い出す。祖父の戦争の話と一緒に。
パプアニューギニアでの戦争体験
戦争といっても、ニューギニアでは、ほとんど戦っていないそうだ。戦地はどこか、作戦は何か、どうやって戦うのか、いつまでいるのか、武器は何か、とにかく前もって何も知らされていないまま、船に乗っていた。
上陸し、地名だけ教えられ、いざ戦う場面となる。「撃て!」と上官が指示。「えっっっっ?」っとなる。皆で顔を見合わせる。「・・・・・」という、沈黙の瞬間。とまどい、咄嗟には動けないらしい。
「領土を広げろ」以外、知らされなかった。戦地に赴くことは誉れ高いことだが、で、どうするの?という流れだった。
船で運ばれた食料はすぐに底をつく。蛇やカエル、雑草を採り、生のままかじって食べる。持参した銃は、先住民に奪われ、飲料水用の水辺で待ち伏せして撃たれてしまう。そのうち銃も銃弾も錆びて使えなくなる。さらに、空から、連合軍の雨のような銃弾が降ってくる。
持っているのは、ごぼう剣だけ。これでどうやって何をするのか。右往左往しているうち、銃で撃たれ足を負傷。何も、できなくなったと。
みんなが寝静まった夜中、壕の暗闇から独り言のような声が漏れ聞こる。自分たちは、消耗品、使い捨てだと。
追加の食料や武器を積んだ補給用大型船は、連合軍に沈められ、届かない。餓死するか、先住民もしくは連合軍に撃たれるか、狂って自決するか。そうして、彼らのほとんどが、餓死してしまう。
指揮官が自決し、司令系統が無くなる。撤退して自分で生きろ状態になった祖父は、歩いて海を渡る。岩の見えるところが浅瀬と判断して。月夜に照らされた海に、黒いスイカのような頭が幾つも見えた。移動してるのは、自分だけじゃないと分かる。
そこでまた、空から銃弾の嵐。撃たれた仲間が波にのまれていく。ほうほうのていで上陸後、日本の船に乗せてもらう。そこで見た。ほかの兵士たちの、狂気の表情。目はすわり、鬼のようだったと。自身も、狂ったサルみたいだったと。人のものでも、何でも出されたものを貪るように食べたと。皆次第に、正気を失ってしまうと。
興味深いのは、海でなく、ジャングルのほうに去っていった者たちもかなりいたと言う話。「あのまま、あそこにずっといたんじゃないかなぁ」と祖父は語る。横井さんのように、原地で生き延びた人もいるかもしれない。土壇場で、考える事は人それぞれだ。
戦争映画の演出とちがうところ
祖父の話を聞いて、今まで観た戦争映画と、ちょっと違うなと思った。聞いた話では、映画のように、勇ましくて、血気盛んで、キビキビしていない。亡くなる直前の兵士は全員「おかあさん!」と叫ぶ。情けなくて、惨めで、惨めで、惨めだ。それが戦争だ。そこをもっと演出や演技、セリフでも、ピックアップしたらいいのに。
ちなみに終戦後しばらくすると、祖父のもとに新聞社などのマスコミが取材させてほしいと尋ねてくるようになる。が、彼はしばらくの間、断り続ける。細かいニュアンスが伝わらないだろうと、今の若い人たちに話しても、分からないだろうと。
仮に私が今の言葉で表現するならば、「戦争のグダグダ感が、ダサくて情けなくてみっともなくて格好悪くて、腹が減って臭くて気持ち悪くて、身動きできなくて、どうしようもなくて、アホくさっ!もうホント無理っっ!!頭おかしなる!!!」だ。
ニューギニアから帰国後はかん口令が敷かれ、「何もできなかったし、実際は負けてる」、「戦術や軍隊の規模は相手がはるかに上」等、一切喋れなかったそう。ここに、現代社会日本にも通ずる弱さが、ある。面子と名誉を守りたい、おのれの利益を守りたい、恥部をさらけ出したくないという、弱さ。それを、同調圧力で黙って見過ごせ、という弱さ。
人間の強さと弱さ
強さとは、弱さをさらけだすことだ。すべてありのままをあぶり出して、まずはじっくり冷静に眺める。そして、本来の姿を正確に把握する。おのれの小ささを実感し、次の手を打つのだ。みじめで、みっともなくても、ゆっくりでいいから進んでいく。
天国のおじいちゃん、こんな感じで伝えたよ。実際聞いたのは、もっともっと残酷な、心をえぐられるような地獄体験だったけれど。戦争を知らない、興味ない人にも伝わるといいね。
そして、おかあさん!と叫んで亡くなった大勢の兵士たちのことも知ってもらって、彼らの魂が少しでも癒えたらいいなと思う。