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本『ゾマーさんのこと』


『ゾマーさんのこと』
パトリック・ジュースキント
ジャン=ジャック・サンペ 絵
池内 紀 訳

夏葉社の『冬の本』、その中で紹介されていた本『ゾマーさんのこと』。これがとても良かった。
今回はその話。

の前に、『冬の本』もまたとても素敵な本で、「冬」と「本」をテーマに書かれた84人様々な方々のエッセイ集。
見開き2ページの文章だけれど、本当にそれぞれに文体、エピソード、紹介する本が違っていて、とても豊か。
特に好みの文章があると、ほんの2ページの間に心がたたずむ。

それぞれ紹介される本は気になりだしたらキリがないのだけれど、その中でも『ゾマーさんのこと』という本に特に惹かれていたところ、嬉しいことにある方からお借りできた。

どこへ行くのだろう?
黙って、いつも、
ゾマーさんは歩いている。 
(帯より)

主人公である語り手が、少年時代の光景とそこにいたいつも歩いているゾマーさんのことを話す。

語り口調が少し独特で、私の場合まるで落ち着きなく頭に浮かんだことをそのままに次々と話されているような感覚で読んだ。時折話も逸れる。しかし決してそれらは無駄話ではなく、読んでいて煩わしいということもない。むしろするすると入ってくる。

言葉選びがとても好きだったのも、するすると入ってきた理由の一つだと思う。
少年の目に映るもの、少年の心の動き、それらの描写が心地良く鮮明で、時にはある意味気味悪くも思えるほど。
まるで少年の息遣いのままに記憶を辿るように一気に読むことができた。

絵も素敵で、伝えることが多くもなく少なくもなく、ただそうであったことを爽やかに描いているようで、情景の想像をより心地良くさせてくれた。

ゾマーさんはなぜ歩き続けるのか。何を思っているのか。

私はなるべく、相手の心を自分の想像で上書きして同情をしないようにしている。だから、ゾマーさんの心も、もしかしてその中にあるかも知れない喜びも苦しみも、私は分かった気にはなれない。

けれど、そこに描かれているゾマーさんの数少ない表情や言動が私の心を通るたび、胸が締め付けられた。
きっと私は私を抱きしめていたのだろう。

ゾマーさんのことをどれだけ想像しても、それは真実にはならない。
そしてゾマーさんも分かってもらうことを望んではいないだろう。
ただそうであると、一旦受け止めるしかないのだ。

(けれど時には、受け止めるままではいけないことや、「共感」が大切なことも、この世の中にはたくさんあるということは付け加えておきたい。)

おそらくこの本はもう古本でしか手に入らないと思われる。今後もしどこかで出会うことがあれば、手元に置いておきたい一冊。

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GW中の何もない晴れの日。
「部屋の窓を開け放って電気ストーブにあたりながら読んでるの?」と家族にツッコマれながら読んだ。

だってそうしたいのだもの。
世の中全部は理解できないものなのだ。



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