
サイコロと楽しさの期待値
格安居酒屋でたまに見かける「チンチロリン」。サイコロを振って出た目に応じてドリンクが無料になったり、半額になったり、逆に量や値段が倍になったりする、あのサービスのこと。
テレワークが基本の私の業務でこの前、久しぶりの出社日だった。たまにはということで、会社の先輩二人と仕事帰りに飲みに行くことになった。近場の適当な居酒屋に入り、飲み物や料理を適当に注文して1杯目を楽しむ。
皆がそろそろ1杯目を飲み終えそうだったタイミングで、「次、何か飲みますか?」と促したところ、一人の先輩がラミネート加工されたメニューの中からチンチロリンのサービスを発見。「これ、やろうよ!」と提案してきた。
正直、個人的にこういうサービスはあまり乗り気にはなれない。一人で飲んでいるときにこれをやろうという気になることはまずない。なぜなら、こういったサービスの期待値が通常価格を上回ることがないことは、なんとなく経験上わかっていたから。
期待値とは、ある出来事や行動の結果として得られる平均的な利益や損失を指す。
ギャンブルや確率論においてよく使われる概念で、サイコロやカードゲームなどにおける「期待値を計算する」という行為は、何回も繰り返した場合に得られる成果の平均を示すもの。例えば、サイコロを1回振ったときに出る目の期待値は(1+2+3+4+5+6)/6=3.5となる。
これを踏まえれば、期待値が高いか低いかを判断することで、参加するべきかどうかの指針となる。
今回のチンチロリンのルールを整理すると、以下のようになる。
サイコロを2個振る。
出た目に応じて以下の結果が決まる。
ピンゾロ(1,1) :ドリンクが2倍サイズで無料
他のゾロ目 :ドリンクが通常サイズで無料
出た目の合計が偶数 :ドリンクが通常サイズで半額
出た目の合計が奇数 :ドリンクが2倍サイズで倍額
ざっと考えただけでも、このサービスで通常価格を上回る期待値を得られる可能性は低いと感じた。特に「出た目の合計が奇数」の場合、50%の確率で2倍の価格を支払うリスクがあるのはかなり痛い。
それでも、先輩がやけにテンション高く提案してきた手前、水を差すのも気が引ける。「せっかく先輩が楽しそうにしているのだから、付き合うのも一興か」と考え、一緒にやることにした。

1人1回ずつ振った結果は以下の通り:
先輩A: 出た目の合計が奇数→ドリンクが2倍サイズ、価格も倍
先輩B: 同じく奇数→同様に2倍サイズ、価格も倍
私: 出た目の合計が偶数→通常サイズ、価格は半額
結果だけを見ると、50%の確率で「損」とも言える状況になるこのサービス。期待値を改めて考えると以下の計算ができる。
ピンゾロ (1/36の確率):2倍のサイズで無料=大幅な得
他のゾロ目 (5/36の確率):通常サイズで無料=やや得
偶数合計 (12/36の確率):半額=少し得
奇数合計 (18/36の確率):倍の価格=大きな損失
金額面では、損失が利益を上回るため、やはり期待値としてはマイナスだと言える。
さて、結果的に先輩たちのテーブルには巨大なジョッキ、もはやピッチャーに近いサイズのドリンクが運ばれてきた。その量は明らかに2倍以上ありそうで、あれほどのサイズのみかんサワーは初めて見た気がする。
運ばれてきたドリンクを見て「こんなの飲みきれないよ~!」と笑いながら盛り上がる先輩たちを見てると、「まあ、これはこれでよかったのかもしれないな」と少し思ったりもした。
ただ、金銭面や期待値を冷静に考えると、やはり居酒屋でのチンチロリンは無難に避けた方が賢明かもしれない。楽しさや盛り上がりを求めるならアリだが、少なくとも「得をしたい」と思って挑むべきものではないと改めて思った。
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