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働き方改革とは事務間接業務の撲滅&スリム化~本業回帰である

「働き方改革」なるビッグワードに向き合い続けてはや7年。
私の考える、働き方改革について徒然なるままに書き連ねます。

1.大組織は悪気なく事務間接業務を相手に課す

「見積もり原本を郵送してください」
「設計書、製本して提出して下さい」
「マイナンバー情報、書留で送ってください」

大企業や官公庁組織などの大組織(に限らないですけれども)は、日々悪気なくアナログベースの事務作業や煩雑な間接業務を相手(取引先)に求めます

それが仕事だから、決まりだから。そう言ってしまえばそれまでですが、「働き方改革」や「DX」が求められる今の世の中において、本当にそれで良いのでしょうか?

生産性、採用・定着、ダイバーシティ&インクルージョン、エンゲージメント、地方創生……これらのマネジメントキーワードや社会課題への影響をどうとらえているのでしょうか?

事務間接業務。事務リソースが豊富なあなたたち(大企業や官公庁組織)はよくても、相手にとっては大きな負担やコストになっています。

「だったら、事務員を雇えば良いでしょう」
「事務間接業務も仕事なのだから、文句を言わずにやるべきだ」

いやいや。そうはおっしゃいますが、そんなに簡単に解決できる問題ではありません。

2.中小零細事業者にとって事務間接業務は致命的

ズバリ申し上げます。

中小企業、ベンチャー企業、フリーランスのような中小零細事業者にとって、事務間接業務は命取りです。

まずもって、事務間接業務で時間や精神力を削られている場合ではない。

大企業のような資金力も時間もないですから、可能な限りの時間と神経を本業集中させなければ力尽きます。

あるいは、残業や土日祝日対応でカバーするしかない。これまた、体力と精神力が力尽きます。ブラック体質まっしぐら!

「だったら、事務員を雇ったら?」

いやいや。中小零細企業が人を雇うのは大変なことです。

なにより、一人雇うほどの事務作業の業務量がそもそもない

となると……

・事務もできて、その他の仕事も出来るマルチタレントな人を雇う
・一人分の事務仕事を作る
・フルタイムではない事務代行サービスなどにアウトソースする

いずれかの選択肢を取ることになるでしょう。

いずれにしても、それなりの対応コストや稼働が発生します。

その時間やコストや神経を本業に回したほうが良いです。

作家は書くことに、研究者は研究行為に、デザイナーはデザインすることに、クリエーターはクリエーションすることに、噺家は話すことに、営業担当者は営業することに集中できるのが健全な社会です。
プロが本来業務に集中できる社会を創ることこそが働き方改革の本質
でしょう。

(ちなみに私自身は法人化を機会に、事務間接業務の多くは複数のビジネスパートナーにお任せしていますし、クラウドサービスも駆使し以前に比べてだいぶラクにはなりました)

社会的影響力や大きい大組織が、事務間接業務をなくすかスリム化してくれれば解決する話なのです。

ちなみに私は、あまりに煩雑かつガラパゴスな事務間接業務はお断りすることがあります。

「情報はメールやメッセンジャーで提供しますから、そちらで転記してください」
「当方零細企業で事務専任リソースがないものですから、書類は原則PDFのみの対応となります」

事務リソースが豊富なあなたたち(大組織)の感覚で、事務間接業務を課されるのはたまったものではありませんから。

3.大組織の間接部門が事務間接業務を増やす

日本社会は(他国もそうかもしれませんが)、企業や官公庁など大組織の間接部門が事務間接業務を増やしてきたと感じています。

間接業務専任者や専任部署を創る。そこまでは良いのですが、当然その人たちが食べていくための仕事を発生させ続けなければなりません。

ここに働き方改革のジレンマがある。

間接部門に業務改善のモチベーションが生まれにくい。

当然です。改善してしまったら、自分たちの仕事がなくなってしまいますから。新しいことに興味のある人、プライベートタイムを充実させたい人、飽きっぽい人などであれば、率先して業務改善するでしょう。しかし、往々にして周りの抵抗や猛反発により頓挫するケースも。

こうして間接部門が業務改善や変革を阻止する、あるいは存在感と仕事を増やすために事務間接業務を増やしたりするわけです。

日本でも「ジョブ型雇用」が進みつつありますが、間接部門の人たちが、ジョブを無駄に増殖させないか本気で心配です。 

これでは、事業部門も取引先を含む関係者も、事務間接業務まみれで本来価値を出すことができなくなります。極めてアンヘルシー。

ただこの状況も長くは続かないでしょう。健全な考えを持つ経営者であれば、この状態は遅かれ早かれ解消したいと思うはずですから。

経営が大ナタを振り、間接部門の自動化やリストラを本気で進めたら、どんな抵抗も無力でしょう。

4.人のモチベーションを下げる業務をやめる。まずはそこから

私は事務間接業務に価値がないと言っている訳ではありません。私自身、間接部門出身者ですし、日々事務間接業務により世の中を支えてくださっている人には感謝の気持ちでいっぱいです。

しかしながら、テクノロジーで代替できる業務や、ルールを変えればなくせる(かつなくしている組織が他にあるにもかかわらず)のに、自組織のルールに固執してやめようとしない、なくそうとしないのは「それ違う」と思うのです。

ましてや、立場の弱い中小零細企業に事務間接コストを転嫁するのは、企業組織の社会的責任としてもどうかと思うのです。

私はいま、伊良湖岬で #ダム際ワーキング しながら木村哲也さんの『Smart Factory 4.0』を読んでいます。とても学びの多い良書なので、全国の経営者や組織開発を進める方に是非読んでいただきたいのですが、その一節を以下に引用します。

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生産個数のカウンターを読んだり、停止時間を測定して記録したりする仕事自体には付加価値がありません。私は転籍以来、

「人には付加価値の高い仕事をしてほしい」

と言い続けてきました。人が関わるべきなのは、計測や記録から問題を発見し、その解決策を考え、実践することです。人的資源の限られている中小企業ではなおさらです。

出典:『Smart Factory 4.0 第四次「町工場」革命を目指せ!』木村 哲也著/ 三恵社刊


「人には付加価値の高い仕事をしてほしい」

大いに共感しますし、そのためのシフトこそが働き方改革の本質であると確信しています。

・事務間接業務で自ら疲弊する/相手を疲弊させる
・チェック業務、差戻し業務で自分と相手の時間を溶かす

アンヘルシーです。DXや組織変革以前の問題です。

人の嫌がる仕事はなくしていく。

仕事ですから、モチベ―ションが上がるものばかりとは限りません。しかし、人のモチベーションを下げる仕事を温存するあるいはわざわざ増やすのは、やはりいかがなものか

事務間接業務は撲滅する

そのくらいの覚悟で、事務間接業務から正しく自由になっていかないと、国全体の生産性もGDPも働く人たちのエンゲージメントも上がらないですし、ダイバーシティ&インクルージョンも推進されません。プロが育たず、DXもイノベーションも遠ざかる。

とにもかくにも、日本の組織は間接業務が多すぎるのです。官公庁しかり、企業しかり。事務作業大国日本といっても過言ではありません。

それぞれの立場で声を上げ、なくせるものはなくしていきましょう。

5.間接部門はどこを目指すべきか?

「事務間接業務がスリム化されたら、いまの間接部門の人たちはどうするんだ?」

私は間接部門が不要だとはこれっぽっちも思っていません。
むしろ間接部門はめちゃくちゃ重要だから、正しく進化して欲しい。こう思っています。

間接部門が果たすことのできる役割は大きいです。事業部門よりも、全社を俯瞰しかつ中長期を見据えられる立場にありますから、間接部門がいまの立ち位置を利用して本気を出せばものすごく大きな価値を発揮できる

但し、そのためには間接部門は第二形態に正しく進化していく必要があります。

(1)事務間接業務を俯瞰し、改善およびスリム化する役割に進化する
(2)組織や地域の課題解決のファシリテータの役割に進化する

最近では、社内の複数部門の社員同士を繋げて課題解決を支援する、コミュニティビルダーとして活躍する総務部門の担当者などもいます。

ベテラン中心だった総務部門の人口構成が、若手中心に変わりつつある企業もあります。部門の期待役割が変わり、若手のスキルや感性がより生かせる部門に変わったためです。

このように、職種の役割そのもののアップデートをし、経営課題を解決する強い右腕として活躍している間接部門もあるのです。

間接部門の第二形態を、私は「バックオフィス2.0」と呼んでいます。

バックオフィス2.0に進化するための具体的なアプローチや各論は、オンラインサロン 『沢渡あまねマネジメントクラブ』、および企業向け越境学習プログラム『組織変革Lab』でお話しすることにします。

共感された方、自組織を変えたいと熱い思いをお持ちの方、ぜひご参加いただき一緒にディスカッションしましょう。

・間接部門の価値の上げ方
・ベテランの本社社員が進化した姿

など、泥臭い話もとことんしたいと思います。

また、このテーマは各所で講演していますし、書籍『バリューサイクル・マネジメント』でも詳しく解説しています。

働き方改革とは事務間接業務の撲滅&スリム化~本業回帰である

それは決して事務間接業務や間接部門を否定しているわけではなく、時代の要請に合わせて正しく進化して欲しい。その期待のメッセージです。

すべてのプロが本来価値創出にフルコミットできる、健全な社会へ。


▼『組織変革Lab』 沢渡あまねが監修&講義&ファシリテーター
~半径5m以内からの組織変革を目指す人たちの、オンライン越境学び舎(ディスカッション中心)(部課長の参加が多め)

▼『沢渡あまねマネジメントクラブ』~組織変革、DX、働き方改革、ダイバーシティ推進、業務改善を目指す方のためのオンラインコミュニティ

▼書籍『バリューサイクル・マネジメント』