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GW、観光施設や飲食店のオペレーションやマネジメントレベルの差が浮き彫りになるなと感じた話

GWのような多客期は、良くも悪くも観光施設や飲食店の普段のオペレーションやマネジメントのレベルの差が浮き彫りになるなと感じた、そんな話を徒然なるままに綴ります。

1.ドライブインの、ちょっと残念なテイクアウト型カフェ

GW前半の良く晴れた日、私はワーケーションを兼ねて私も山に足を伸ばしてみました。

道すがら、山道の国道沿いのいわゆる「ドライブイン」(って今も言うのかしら。馴染みのない方はググってみてください)に立ち寄り、ひと休みすることに。時間は15時10分を少し回っていました。

そのドライブインには、アイスクリーム、たい焼き、コーヒーなどが売られている、テイクアウト型のカフェがありました。コーヒーが飲みたくなった私は、車をとめてカフェの注文の待ち列に並びます。

連休ともあって、おそらく普段よりも多くの観光客で賑わっています。
お店も連休の混雑を見越してか、3人体制でオペレーションを回しています。お店の様子は、おおむね以下の図の通りです。

私は行列に並んで延々と待たされるのが大の苦手で、基本的にその手のお店はスルーするのですが……

「ドライブインのお店だし、手際よくさばいてくれるだろう」
「コーヒー1杯なら、早く出てくるだろう」

と思い、このカフェでコーヒーを頼むことにしました(この判断が失敗でした……)。400円を支払い、窓口近くのスペースで待ちます。

「商品をお出しする順番は、注文順と前後することがあります。ご了承ください」

このような貼り紙もあり、かつコーヒーメーカーは注文窓口のすぐ後ろにあったため、焼き時間のかかるたい焼きはさておき、コーヒーやソフトクリームのみのオーダーなら早めに出てくるだろうと思ってしまったのです。

ところが……いつまで待っても出てこない

周りにも待ち客がどんどんと増えていきます。

しびれを切らした先客の1人が、注文窓口のスタッフさんに問い詰めました。

「まだ時間かかりそうでしょうか? であれば、キャンセルしますので返金してください」

その様子を見た他の客の1人も、キャンセルを申し出ました。その人は、ソフトクリームとコーヒーを頼んでいたようです。

問題なのは、問い合わせやキャンセルするにも、窓口が1つで注文受けと商品渡し双方に対応しているため、お客はその列が途切れたタイミングを見計らってスタッフさんに声をかけなければならないところです。

その様、職場で忙しい上司に「今いいですか?」と切り出すタイミングを窺う、新入社員の如し(苦笑)

私もコーヒーを注文してから既に30分以上経過しており、これ以上は待てないと思い、キャンセルすることに。

注文窓口のスタッフさんは、「わかりました」とだけ言って400円を私に手渡しました。

(後でインターネットで調べてみたところ、1時間待たされた人もいたそうです……)

2.オペレーションとマネジメントに問題あり

このカフェのオペレーション、見ていて私はいろいろモヤモヤしました。

スタッフさんが1名しかいない、いわゆる「ワンオペ」状態の零細飲食店ならまだ理解できます。たい焼きを扱っている特性上、焼くためのリードタイムが発生するのも理解できます。連休で多くのお客さんがいるので、普段より時間がかかるのも仕方がないでしょう。

しかし、このお店には3名ものスタッフがいるのです。なおかつ、ソフトクリームやコーヒーなど、クイックにサーブできるメニューも単品で提供している。それにもかかわらず、たい焼き以外のお客も延々と待たせるのは、オペレーションとマネージメントに問題ありと言わざるを得ません。

私がその場で見た限り、スタッフさんの1名はたい焼きを焼くのに専念していました。1名は窓口で注文受けと商品渡しに専念していました。もう1名は、何をしているのかよく分かりませんでした。

また、3名全員が常に動き回っているかというと、そうではありませんでした。お客が途切れ、なおかつ、たい焼きが焼きあがるのを待つ時間があり、そのタイミングでは3名ともアイドリングしていました

たとえば、以下のような改善が出来るのではないでしょうか。

・注文受けと商品渡しは窓口を分ける(店の構造上、締め切り扱いにしている窓を開放すればイケそう)
・3名のうち、スタッフAは注文受け、スタッフBは商品渡し、スタッフCはたいやきを焼くのに専念する
・コーヒーとソフトクリームは、スタッフAとスタッフBいずれかが準備する(どちらかの手が空いたタイミングで、声がけしながら)
・お客から注文を受けるときに「ただいま、X分ほどお待ちいただきますがよろしいでしょうか?」など、なるべく大きな声で(後に並んでいるお客にも聞こえるように)都度説明する
・いっそのこと、コーヒーメーカーは外に出し、コーヒーはお客によるセルフサービスにする(会計と同時にカップをお客に手渡す)
・(客単価を上げたいのであれば)たい焼きとセット販売のみ。コーヒーやソフトクリーム単体の販売はやめる

もちろん、もっと良い役割分担の方法もあるでしょう。

3名いれば、1名が全体の状況を俯瞰して臨機応変にマネジメントする、スーパーバイザー役を兼ねるのもありでしょう。

・並列処理
・アイドリングタイムの活用
・動線設計
・告知
・声がけ
・振り返り

こうした着眼点や発想があるだけでも、お金をかけずしてオペレーションを劇的に改善することは出来ますし、顧客と合意のもとに運営側のキャパシティに見合ったサービスを提供することが出来るでしょう。

私は、その場で改善要望をしようかどうか迷いました。

ただ、上記の多くはいずれもこのカフェの経営の問題です。
窓口のスタッフさんは見たところ現地の高校生と思われる若いアルバイト店員らしき人。他の2名も経営者らしき感じではありませんでした。

(と同時に、このカフェの経営者は現場を見ていないんだろうな。とにかく連休に売り上げが上がれば、それでよい(それ以上考えない)のだろうなとも思ってしまいました)

この3人のスタッフさんに要望するのも申し訳ないですし、その場で何も解決しそうにもないので私は黙ってその場を去りました。

ちなみに同様のもどかしい状況、私はこのカフェ以外でも経験しました。
私の生活エリアである浜松市内のおむすび屋さんも、このカフェと全く同じ状態味はとても良いのだけれどもオペレーションが残念過ぎて、私はまったく行かなくなってしまいました。。。

3.「期待値コントロール」という考え方

私は、「お客を待たせるな」などと偉そうなことを主張するつもりは全くありません

山の中で焦らずじっくりと、周りの景色とのどかな時間を楽しみながら時を過ごす。それも旅の醍醐味ですし、そのようなひと時を愉しむ人もいるでしょう。

私が気になったのは、そのカフェが営業活動をしているのがいわゆる道の駅/ドライブインであり、かつテイクアウトスタイルのお店であることです。

考えてみましょう。

道の駅やドライブインに、顧客が何を期待しているか?

おそらく(私が見た限りにおいても)、多くのお客が目的地に向かう道すがら、休憩がてらたまたま寄っただけではないでしょうか。

道の駅やドライブインはあくまで経由地。目的地にはなりにくいのです。ちょこっと寄って、長居しすぎずに目的地に向かいたい。あるいはほかの観光地を楽しみたい。

経由地である道の駅やドライブインに顧客が期待するのは、待ち時間の短さ。よもやコーヒーやソフトクリームを味わうのに、30分も1時間も待たされるとは思わないでしょう。その時点で、顧客の期待値とサービスの内容にズレが生じています。

そうこうしているうちに、日はどんどん傾いていきます。

待ち時間が短ければ、顧客は目的地や近隣の他の観光スポットで時間を使い、お金を落とすことが出来ます。他に何もできない場所および状態で、延々と待たされる時間は、顧客にとっても地域にとっても何も生みません。

無駄な待ち時間の解消は、地域のキャッシュポイントを増やすこと、つまり地域経済の活性にもつながるのです。

この問題と改善策は、書籍『新時代を生き抜く越境思考』の第4章と第5章でも綴りました。 

もちろん、従来の道の駅やドライブインのイメージを覆すような、「そこが目的地となり得るような新しいコンセプトのお店」を出店するチャレンジは大いにアリでしょう。

「山の中の景色をお楽しみいただきながら、ゆっくりと流れる時間をお過ごしください」
「待ち時間もお楽しみいただける方のみ、お越しください」

こういう、コンセプトのお店が経由地にあったっていい。私も好んでそういうお店をよく利用します。

山で過ごすのんびりとした時間ももちろん価値です

であれば、そういうコンセプトのお店であることを告知・案内すべきでしょう。

道の駅やドライブイン(など、経由地としての立ち寄り需要で成り立っている施設)においては特に、待たせるスタイルのサービスは顧客との合意形成をもとに行うべきだと私は考えます。

さきほどお話しした、浜松の「美味しいのにオペレーションが残念なおむすび屋さん」の話も同様です。

顧客はおむすびに何を期待しているか?

ファーストフードとして、忙しい昼休みにささっと買えて、ささっと食べられることを期待しているのではないでしょうか?
(個人的に、もう少し高くても良いからサーブのスピードは改善して早くしてくれと思う次第です)

いずれのお店も、発想がプロダクトアウト(商品やコンセプトありき)すぎる気がするのです。

4.私にも反省すべき点はあります


いろいろ物申しましたが、今回私にも大いに反省すべき点があったと思います。

「コーヒー1杯をお願いしたいのですが、結構(何分くらい)待ちますかね?」

こんな一言を、注文する時点で投げかけてみれば良かったのです。

その時点で「そうですね、20分~30分はかかると思います……」などの回答だったり、スタッフさんが固まってしまうようであれば、私は「ならば、いいです」とその時点で諦めることが出来ました。

あるいは、思考に長けたスタッフさんであれば、その会話をした時点で「なるほど、コーヒーならすぐ出せるな」「コーヒーだけなら、たい焼きを焼いている待ち時間で出すことが出来るかもしれない」と気を利かせてくれたかもしれません。その気づきが、現場のオペレーション改善を後押しします。

「コーヒー1杯なら、すぐ出てくるだろう」
「ドライブイン/道の駅の施設なのだから、長時間待たされることはないだろう」

この思い込みが良く無かったです。猛反省。

5.山の中の、オペレーションの素晴らしい道の駅


今回立ち寄った、ドライブイン(のカフェ)を私は大変残念に思いました。

現場で頑張っているスタッフさんには大変申し訳ないですが、大切な知人とワーケーションに行くときなど、安心して立ち寄ることができないなと思います。

一方で、そのドライブインから決して遠くないエリアにも、オペレーションが素晴らしい(と私が感じた)道の駅はいくつもあります

たとえば、道の駅したら(愛知県設楽町)道の駅つくで手作り村(愛知県新城市)香恋の館(愛知県豊田市)

道の駅つくで手作り村(愛知県新城市) オペレーションも良くいろいろ気が利いています

常設のレストランもあり、混みあうこともありますがオペレーションは良いと思います。

また、いずれの道の駅も売店コーナーでおむすびや、お弁当が売られており、レストランで待ちたくない顧客がササっと買って、ササっと食べることが出来る。道の駅の期待役割を果たしていると感じます。

おむすびは、レストランの待ち時間が惜しい人にとってありがたいですね
カレーもある!

パンも売られており、ついでに旅が明けた翌日の朝食も調達することが出来る。気が利いていますし、旅人のライフサイクルをわかっていらっしゃる!

美味しそうなパンが肩を並べる、道の駅つくで手作り村の売店コーナー

この辺りの話も、『新時代を生き抜く越境思考』と『業務デザインの発想法』に事細かに書きましたので、是非参考にしていただけたら嬉しいです。

なお、香恋の館の様子は以下のサイトも参照してみてください。

道の駅豊根グリーンポート宮嶋(愛知県豊根村)も私は気に入っています。
新豊根ダムや佐久間ダムでの #ダム際ワーキング の道すがらによく寄るスポットです。

山の中の小さな道の駅ですが、オペレーションが良いですし、混みあっている時間など、スタッフさんが全体を俯瞰して率先して顧客が動きやすいよう動線を確保したり、空いている席を見つけて案内してくれたりします。

なにより、お店の要所要所にスタッフさんのホスピタリティを感じるしつらえがある

道の駅グリーンポート宮嶋。ダムカレーも絶品ですよ!

道の駅グリーンポート宮嶋を訪れる方は、是非トイレの貼り紙を見てみてください。感動します。

なんていうか、スタッフさん一人ひとりが『ジョブ・クラフティング』しているなと感じ、私はとても嬉しい気持ちになります。また行きたくなります。

『ジョブ・クラフティング』とは:
従業員一人ひとりが仕事に対する認知や行動を自ら主体的に修正していくことで、退屈な作業や“やらされ感”のある仕事を“やりがいのあるもの”へと変容させる行動

「日本の人事部」Webサイトより

6.閑散期の時間の使い方がオペレーションの差を生む

こういう道の駅は、経営者やスタッフの皆さんがよく勉強なさっているのだと思います

業界の良い取り組みを研究したり、他の道の駅や飲食店で体験した「良いオペレーション」を取り入れたり、本を読んだり……

私の尊敬する経営者で、いすみ鉄道の公募社長を経て、現在はえちごトキめき鉄道の社長をなさっている鳥塚亮さんは、他業界の取り組みを率先して取り入れて地方の赤字ローカル鉄道の経営を改善してこられました

残念なオペレーションを放置し、顧客のフラストレーションを与え続ける観光施設や飲食店は、このような勉強をしているのでしょうか?

浜松の「美味しいのにオペレーションが残念なおむすび屋さん」には、是非一度、東海北陸自動車道 城端サービスエリア(富山県南砺市)のハイウェイオアシスにある「ヨッテカーレ城端」のおむすび屋さんを体験していただきたいと思います。

ヨッテカーレ城端のおむすび。早くて美味しく、通りすがりの旅人の強い味方!

おむすび(本当に美味しい)をその場で握ってくれ、実に手際よく手早く出してくれる。サービスエリア・道の駅への顧客期待を満たしつつ、味のクオリティも両立している好事例だと私は思います。

繁忙期に学習や改善活動をするのは、現実的ではないかもしれません。一方で、閑散期はどうでしょう? 閑散期に、振り返りや学習に時間を使う。そうして、自分たちのオペレーションやサービスを見直し、次の繁忙期に向けてやり方をブラッシュアップする。

それができるかどうかで、オペレーションやマネジメントに雲泥の差がつくのではないかと私は痛感しています。

世の中、GoTo施策や、ワーケーションなど地方都市のレジャー産業や観光・飲食業の活性化の取り組みが盛んになりつつあります。さまざまな助成金や補助金も運営されています。

良い傾向であると思う一方、

・いままでのやり方を改善しようとしない
・顧客の不便を放置したまま
・顧客の貴重な時間を溶かし続ける
・それらを解消するための、勉強や学習すらしない

それはさすがにどうかと思うのです。

私は観光業や飲食業向けの補助金は、オペレーション改善や経営者や従業員の「リスキリング」を行うことを条件にするなど、縛りを設けて欲しいと切に願います。

GWが明け、繁忙も一段落することでしょう。

旅人やワーケーション客が心地よく時間とお金を落とすことのできる、観光施設や飲食店が増えることを私は願っています。

おしまい。

▼新刊『新時代を生き抜く越境思考』
~第4章、第5章は地方自治体、観光業の方に是非読んでいただきたいです!

▼書籍『業務デザインの発想法』
~オペレーション設計、行動設計のポイントを凝縮した一冊です

▼個人向け学習コミュニティ『沢渡あまねマネジメントクラブ』
~テキストと音声(沢渡の声)でご質問にもお答えしています

▼法人向け越境学習プログラム『組織変革Lab』
~ともに学び合う、企業参加型の組織変革コミュニティです