江戸川乱歩賞の思い出
毎日新聞社で整理記者の経歴を持つ、長井 彬(ながい あきら)氏が 第27回 江戸川乱歩賞 受賞した1981年、僕は東京にいた。
長井彬の「原子炉の蟹」が受賞(式)したホテルの会場に僕はいたのです。
推理小説と言えば…当時の僕は、森村誠一のトリックに胸を「ドキドキ」させ、松本清張の動機に「しどろもどろ」しながら、アガサ・クリスティーの殺人事件に涙していた青春期の真っ只中だった。
そんな僕が、江戸川乱歩賞の受賞会場にいて 気持ちの高揚を隠せないでいると、壇上で五木寛之の祝辞文が代理人によって読まれたのである。
その内容は、今では覚えていないが…ただ祝辞にしては、受賞者へのサービス精神に欠けた内容だったのを覚えている。
五木寛之と言えば「青春の門」長編小説ですが、僕は彼の短編に…イスタンブールを舞台にした、あのボスポラス海峡の美しい風景と主人公の心模様を重ね書いた作品が…記憶の深い部分で剥がれることなく鮮明に残っているのだ。
作品のタイトル名は忘れて残っていないが…その中での、彼の情景描写は流石がである。
文字の世界で、絵筆で描かれた様な文章の一つ一つに…キラキラした輝きがあるのだ。
五木寛之は…たぶん異次元的高所にいて、推理小説での伏線の面白さ以外にも、多くの「文章の魅力」を求めている様に感じた。
例えば、それは…平山郁夫画伯の絵画に見る。
そして、それは複雑に模様を織り込んで作られた着物(西陣織)の様であり、それを着こなすモデルや俳優の様でもある。