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ストーリー作法の基礎④プロットと"認知"(主人公は「認知」を経て成長する)

 前回述べたような、受け手(読者、観客)による登場人物に対する評価の変化と彼らへの共感のプロセスは、「認知(recognition)」によって加速されます。

 「認知」とは何でしょうか。
 これは古代ギリシャの哲学者アリストテレスの著書『詩学』の中で指摘されている、ドラマ作法(ドラマツルギー)の最も重要な要素の一つです。『詩学』で提示された最も有名な概念は「カタルシス」ですが、この概念に関してはここで詳しく述べません。「認知」はカタルシスをもたらすためにも必要な要素であることだけを指摘しておきます
 
 「認知」の話に戻りましょう。ギリシャ語では「アナグノーリシス」と言い、「再認」とも訳されることもあります。簡単に説明すれば、登場人物が、そしてしばしば読者や観客自身も、それまで知らなかった重大な事実を発見することが「認知」です。
 登場人物は、自分の生い立ちの秘密や、過去の決断の間違いや他人に対する評価の間違いなどを知り、それ以降は行動を大きく変えます。ストーリーの途中や終盤で、主人公が自分の生い立ちの秘密を知ることによって幸福から不幸になったり、一見して好感の持てる人物が憎々しい敵役になるなど、「認知」を経ることで他の登場人物との関係性が変わり、彼らの行動原理や動機も変わり、ドラマチックな効果が生まれます。

 "プロット"は、読者や観客の心にもそのような「認知」を生じさせるように構成されるべきでしょう。そのようなプロット構成こそが、ストーリーに感動を呼び起こす「ドラマ」としての意外性を与えるのです(つまり、「認知」の効果によって、「いいお話」だったものが「ドラマ」になったりもするのです)。

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