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「正しく理解された自己利益」~トクヴィルが米国でみつけた民主主義とは~宇野 重規 × 鹿島 茂、宇野重規『民主主義を信じる』を読む

2021年6月月刊ALLREVIEWSノンフィクション部門のゲストは東京大学教授の宇野重規先生。東京新聞のコラムをまとめた新刊『民主主義を信じる』を読み解きます。日本学術会議の任命拒否問題で一躍有名になった宇野さん。鹿島さんは任命拒否の端緒となったのはこの東京新聞のコラムではないかと疑います。対談は19世紀に米国の民主主義をつぶさに観察したトクヴィルの話から始まります。

※対談は2021年6月25日に行われました。下記リンクよりアーカイブ視聴が可能です。

トクヴィルが米国で発見した民主主義

宇野さんは2007年に『トクヴィル 平等と不平等の理論家』でサントリー学芸賞を受賞されています。その時の選評を書かれたのが鹿島さん。鹿島さんは明治大学のゼミでトクヴィルを取り上げたこともあります。対談はトクヴィルの話から始まりました。

19世紀初頭、フランスの貴族の家系に生まれたトクヴィルは米国に旅し、かの地のデモクラシーを観察します。そこで発見したのは、「普通の人」の見識の高さ。普米国の民主主義の原点を発見します。商業活動をしながら、民主主義の意識も高い。「正しく理解された自己利益」が実現している社会をみて、民主主義の強さや、米国社会に根付いたアソシエーションの強さを発見します。

鹿島さんはトクヴィルの観察は渋沢栄一の観察にも通じるといいます。渋沢は明治末に実業団を率いて渡米し、そこでカーネギーやモルガンといった米国の実業家と歓談します。渋沢が感じたのは、米国のビジネスマンの意識の高さ。利益を追求しながらも、高額の寄付をし、社会の規範となろうとしている。

フ―リエ主義やサン=シモン主義にも明るい宇野さんも、渋沢が米国のデモクラシーに感じ入ったことはあり得ると納得します。

海士町は日本の希望となる!

続いて、宇野さんの新刊『民主主義を信じる』について。宇野さんが東京新聞のコラムを書き始めたのが2015年。米国ではトランプが共和党の大統領候補となり、英国ではBrexitが決定されるなど、民主主義が岐路に立った年です。宇野さんのコラムはトランプ政権の誕生や安倍政権の長期化をと同時に進んでいきます。勢い、時の政権に厳しい意見を述べることも。

それでも宇野さんは希望となる事例を出し、私たち勇気づけようとします。例えば、Iターンが進む島根県隠岐の島の海士町の発展を日本の希望として挙げています。

鹿島さんも海士町の出版社が発行した『進化思考』という本に注目しています。

トクヴィルについての見識から渋沢栄一につながる話はお二人ならではのもの。ライブの視聴者からは、「バイデン政権は米国の民主主義を復活させるのか」、「米国の現在のアソシエーションはエリート主義のクラブなのか、NPOに近いのか」という非常に興味深い質問もありました。

お二人のお話はたっぶり1時間半以上。アーカイブ視聴が可能です。

【記事を書いた人】くるくる

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2021年2月には、鹿島茂さんとの対談6本をまとめた『この1冊、ここまで読むか!超深掘り読書のススメ』が祥伝社より刊行されています。
本が読まれない時代を嘆くだけではダメだと思う方、ぜひご参加ください。
ALL REVIEWS友のTwitter:https://twitter.com/a_r_tomonokai



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