『スーラ』は壮大なファミリーヒストリー~水上 文 × 豊崎 由美、トニ・モリスン『スーラ』(早川書房)を読む
自らの四世代同居の経験に重ね合わせる(水上)
月刊ALLREVIEWS・フィクション部門はゲストが課題作を選ぶシステム。水上さんは課題本を選んだ理由として、この本が、1919年から1965年までの、アフリカ系アメリカ人の主人公の女性二人とその家族や周りの人々を描いていること。いわば女系家族のファミリー・ヒストリー。水上さん自身、曾祖母、祖母、母、自分という女性四世代で住んでいたこともあり、自分の経験に重ね合わせることも多いといいます。
豊崎さんは、主人公たちが住む集落が丘の上にありながら、「ボトム」と呼ばれることの面白さ、また貧しい集落の人が「上」から白人の生活を見ている面白さを語ります。
マジックリアリズム的な面白さも(豊崎)
最初は、おずおずと、お互いに気を使いながら話している対談でしたが、小説の細部について話していくうちに、お二人とも、調子が上がっていきます。詳しくは配信映像でお確かめください。
豊崎さんはこの小説には、ガルシャ=マルケスのマジックリアリズムに通じるところがあるといいます。特に、デューイ兄弟という登場人物の不思議さに注目します。また、モリスン自身は否定しているけど、土着の小説を書くということは、フォークナーに原点があるのではといいます。これには水上さんも同意。
逆にお二人の世代の差を感じたのは、水上さんがアフリカ系アメリカ人の作家として読むのにアリス・ウォーカーの『カラー・パープル』を挙げた時。豊崎さんは、ウォーカーは読みやすいけど、文学的には『スーラ』を超えられないといいます。『カラー・パープル』はスピルバーグが映画化したとき、派手な宣伝とともに集英社から出版されたことを、豊崎さんと同世代の私自身は鮮明に覚えています。このためもあり、私もウォーカーには、どうしても「軽さ」を感じてしまう。
あの時の派手な宣伝を知らない水上さんは、フラットな目でアリス・ウォーカーを見ているのだなあと感じます。若いなあ。
水上さんが『スーラ』に触れているフェミニズム関係の本として紹介したのはアドリエヌ・リッチの『血、パン、詩。』。こちらに『スーラ』が言及されています。
【記事を書いた人:くるくる】