アンディ・ガルシアにウィンクされた頃のこと
「Are you tired?」(疲れちゃった?)
アンディ・ガルシアが私たちに話しかけた。
これは夢ではない。
現実の話だ。
映画『ブラック・レイン』の撮影が大阪府庁で行われるという情報を聞きつけ、私と友人は撮影現場に駆け付けていた。
SNSなんてない時代。
そんな情報どこから入手したのか今となっては思い出せないのだけれど、確かにそこでは大勢のスタッフが忙しそうに行き交い撮影準備が行われていた。
うわぁ~~~‼!!
映画好きの私にしたら撮影現場の雰囲気が味わえるだけでテンションMAX。
ドキドキしながらその場にいたのを今でも鮮明に覚えている。
映画について学ぶため海外留学する直前の出来事で、これから始まる未来へ夢と希望に胸を膨らませていた頃のことだ。
撮影は中々始まらず、ちょっと退屈しかけていた時。
私たちの目の前を1人の外国人が通った。
それが冒頭のアンディ・ガルシア。
当時彼はまだそれほど知名度は高くなく、私も友人も彼を知らなかった。
それでも映画関係者に気軽に声をかけられたことがうれしくて、加えて去り際にウィンクなんてされたもんだから無垢な少女2人はポーッとなってしまった。
結局その日は撮影を目撃することはできずその場を去ることにしたものの現場の活気を味わえたことだけで胸がいっぱいだった。
だが私たちはあきらめてはいなかった。
別の日の深夜、大阪のネオン街十三で撮影が行われると聞きつけてはそこに出向いてみたり(めっちゃ寒かった)、またホテルニューオータニ大阪のある一室が撮影スタッフの拠点であることをつきとめては(ホンマその情報どこから入手したんやろ?)そこに行ってみたり。
もう時効だろうから打ち明けるけど、ホテルの部屋のドアが半開きになっていて「Excuse me」と声をかけたけれど誰も出てこなかったので友とドキドキしながら隙間から中をのぞいてみたら機材がいっぱい置いてあって!
おー!これが撮影の裏場面かー!
と感動しつつ、部屋をのぞき見する背徳感と「中を見たい!」好奇心のはざまで機械の電源ONを記す赤い小さな光と、ウィーンという機械音が静かな部屋に響いていたのをよく覚えている。
今思うと「ようやるなぁ」と思うのだけど、その時はドキドキとワクワクで楽しいしかなかった。
好きなものを追いかけるっていいよねぇ。
数日間にわたって行われた私たちの撮影追っかけ。
思い返すと結局撮影自体を目撃できたかどうかは思い出せないんよね笑。
そんなことどうでもよかったのかも。
ただその場の空気を味わいたい。
好きな映画がどんな風に作られるのか雰囲気だけでも味わいたい。
あの頃の私はそれで十分だったのかも。
「撮影を見る」目的よりもその瞬間が楽しければ満足だった。
それほど「今」を生きてたってことなんだと思った。
その後映画が公開された時、私は留学先のアメリカにいた。
憧れのハリウッドがあるカリフォルニア。
現地の映画館のスクリーンでアンディ・ガルシアを観た時は思わず「あ!」と声が出たのは言うまでもない。