映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』は様々なジャンルを網羅したいって人に見てほしい作品【ITSUKIの映画を語りたい②】
ボーカルデュオ「all at once」のITSUKIが、音楽を離れてひたすら映画愛を語ってもらうインタビュー連載企画。
第2回は『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』がテーマです。
最初に感じたのは複雑な作品だということ
――タイトルに”オールアットワンス”が入った『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』がアカデミー賞で7部門受賞となりました。これをITSUKIさんとお祝いするのは変な感じですね。
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ITSUKI:アカデミー賞7部門受賞おめでとうございます(笑)。
――前回のインタビューで『スイス・アーミー・マン』を取り上げた際、ダニエルズ監督の次回作として期待を寄せられていましたが、実際に本作を見た感想はいかがでしたか?
ITSUKI:まず最初に感じたのは、めちゃくちゃ複雑な作品だなってことです。
ストーリー中で問題提起をしているところが沢山あるじゃないですか。主人公のエブリンはADHD(注意欠如・多動症)で生きづらさを抱えていたり、同性パートナーを持つ反抗期の娘ジョイとの関係があったり、英語が喋れない頑固なお父さんとかも。そこにカンフーやマルチバースみたいな、色々なものがギュッと詰まった映画だなって思いました。
――これでアカデミー賞が取れるんだっていうくらいトリッキーな作品でしたよね。
ITSUKI:ほんと、そう思いました。アカデミー賞を取った部門を確認すると脚本賞とかも取っていて、こういう作品が新しく評価される時代なのかなとも思いました。
――アカデミー賞とかも受賞するほどの作品なのに、いざ映画について説明しようと思うと要素がてんこ盛りで難しいんですよね。
ITSUKI:そうなんですよ。マネージャーさんからも「エブエブどうでしたか?」って聞かれたんですけど、何て説明するのが一番良いんだろうなって思って。ものすごく簡単に「これは映画好きの方が楽しめると思います」って答えちゃうくらい複雑でしたね。
――スリッパを反対に履く指示がくるシーンとか、これは何だろうって見ていると後からマルチバースに繋がるためのスイッチなんだとわかったりして。少しでも目を離すと置いてかれてしまう映画でした。
ITSUKI:映画鑑賞中に目を離したらいけないのは当たり前ですけど、そうは言っても少し目を離しちゃうタイミングとかもあるじゃないですか。それが今回は全くなくて、ずっとスクリーンに目が釘付けでした。
対話って大事だなって思いました
――色々と破天荒な世界も出てきましたけど、特に印象に残ったシーンやセリフ、マルチバースなどはありますか?
ITSUKI:印象に残ったマルチバースは指がソーセージになった世界ですね。
――やっぱりそこですか。
ITSUKI:あの世界は否が応でも印象に残りますよね。あと「この次元では恋人が国税庁の人なんだ!」って驚きもありましたし。
印象的なシーンの方は、娘の手を引いたエブリンが「I’m your mother」と言ったところです。どこかで聞いたことがあるようなセリフだと思いつつ(笑)。色々あっても、しっかり心から対話をするところが印象に残ってますね。対話って大事だなって思いました。
――個人的な感想になるのですが、生物が誕生しなくて岩が動き始めた世界も凄かったです。
ITSUKI:CMでも最後に一瞬だけ映るあのシーンですよね。
――岩同士が動いたり話している様子を見ながら「自分は何を見せられているんだろう?」って思って。
ITSUKI:「何を見せられているんだろう?」ってシーンは、確かにいっぱいありました。さっきの指ソーセージの世界もそうですし。でも、素敵なシーンも沢山あったなって思います。
あと、やっぱりミシェル・ヨーは、どこの次元に行っても綺麗で、歌手やアクションスターとして成功した次元の姿はさすがって思いましたね。ちょっと『007/トゥモロー・ネバー・ダイ』の時の雰囲気を感じました。
――そこら辺はもしかすると、ミシェル・ヨーがプロのバレリーナを目指していたことも関係あるかもしれないですね。足の怪我で断念したらしいんですけど、他の映画のアクションシーンを見ても動きが綺麗なんですよ。
ITSUKI:確かにめちゃくちゃ綺麗でした。それなのに、最初のダメな感じの時の演じ分けも凄いなって思いましたね。
――ちょうど演技の話が出たところで、これがミシェル・ヨーが読み込んだ台本らしいです。
自分が演じるマルチバースのキャラに合わせて、色の違う付箋を貼って管理しているそうです。
ITSUKI:これは凄いですね。
――本人もこうやって整理しないと、演技分けとか役に入りづらいのかもしれないですね。
ITSUKI:絶対そうですよ。あんなに複雑な役柄と映画ですし。
僕たち(all at once)も役作りみたいに楽曲によって歌い方を変えたりはしますけど、ちょっとそれとは次元が違う感じもありますよね。同じ次元のエブリンでも幾つか演じ分けてそうな気がします。「ここはもうちょっと暗い顔にしておいた方がいい」とか。
「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス 国税局」で検索
ITSUKI:変な監督さんって言ったらアレですけど、ダニエルズのお二人はやっぱり不思議な監督さんですよね。
――そんな不思議な監督コンビが作った奇想天外なマルチバースですが、行ってみたいと思った次元はありましたか?
ITSUKI:やっぱりカンフーの世界ですかね。自分がカンフーが好きすぎるのと、あそこのエブリンがカッコ良すぎるのもあって、どうしてもそこになっちゃうんですよね。
あとは指ソーセージになっちゃうかもしれないですけど、ジェイミー・リー・カーティスと付き合える世界線にも行ってみたいな。
――ジェイミー・リー・カーティスにはビックリしましたよね。
ITSUKI:映画を見ながら「なんかこのおばさん見たことあるけど誰だろう?」って思って、終わってからすぐに検索したんですよ。
そしたらジェイミー・リー・カーティスの名前が出てきて「えっ!?」って驚きでした。
めちゃくちゃ綺麗なおばさまだったと記憶していたので、劇中でお腹周りとかもぷっくりした体格になった姿にビックリしました。まさに衝撃。
――最後まで気付かせないというのは、さすがの演技でしたね。
ITSUKI:確かにそうですね。あと旦那役のキー・ホイ・クァンも有名な映画に出てましたよね。『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』とか…
――あと『グーニーズ』とか。
ITSUKI:そう『グーニーズ』! アジアの方がこうしてアカデミー賞で主演女優賞や助演男優賞を取れたことにも感動しました。ミシェル・ヨーだけでなく、全員凄い演技だったなって思います。
アカデミー賞ってアジア系俳優は受賞しづらいとか、どこかそんなイメージがあるじゃないですか。その壁が全部取り除かれて、純粋に作品や演技を評価されてるなって思いましたね。
――そんなアカデミー賞を受賞している一方で、ちょっと下品なシーンも差し込まれるのも凄いですよね。
ITSUKI:それが面白かったですね。一番やばいのがトロフィーを●●にぶっ刺すというシーン。
マネージャー:えぇ……(ドン引き)。
ITSUKI:あのトロフィーのシーンは、この監督さんの作家性を強く感じましたね。『スイス・アーミー・マン』とかでも下ネタというかそんなシーンもあるので、ちょっと色を出してきたって思いました。
時間がないけど色々な映画を見たいって人に見てほしい
――“all at once繋がり”で聞いてみたかった質問ですが、もし別次元のNARITOさんが世界を崩壊させようとやってきたとしたらITSUKIさんはどう対応しますか?
ITSUKI:この映画を見る前だったら、たぶん倒して目を覚まさせるの一択だったかもしれないです。ただ、無償の愛じゃないですけど、愛とか親切心とか相手への理解をするのが大事だってことを見た後に理解したので、まずは対話したいです。
でも、もしNARITOがジョブ・トゥパキみたいになってしまったら、幾ら話を聞いても戻ってきてくれない気もするんですよね……。
――それこそ二人が出会わなかった次元というのを見せつけないと。
ITSUKI:確かにそうですね。その上で優しく諭します。とにかく優しく「絶対お前のためにならないぞ」って。そしたら世界を崩壊させようとすることを忘れると思うんですよ。
――今回の映画でも、ちゃんと対話したら解決に向かいました。
ITSUKI:対話は大事だと思いましたね。そんな彼女を支える旦那さんも優しくて、あの人がキーマンですよね。
――どの次元でも旦那さんは優しいんですよね。無償の愛を注ぐスタンスは変わらないので。
ITSUKI:そういう人になろう。ずっと優しくいたいと思います。
――ということで、この映画の魅力を一言で伝えるのはかなり難しいのですが、まだ見てない人や興味がある人に向けてオススメコメントをお願いします。
ITSUKI:見終わった時に5作品くらい見た気持ちになるので、時間がないけど色々な映画を見たいって人に見てほしいです。ギャグもコメディも恋愛も家族愛もアクションも入ってるので、様々なジャンルを網羅したいって人に見てほしい作品ですね。
――ありがとうございました。
聞き手:岩崎航太(B ZONE)