「Pagong」―職人の想いも一緒に染めている。
<編集・記事執筆>
京都外国語大学 国際貢献学部
グローバル観光学科 2回生
本間紗矢
今回のわたしたちが取り組んだ誌面づくりにおけるテーマは【京都ファッション】。ALKOTTOのメンバーが主体となりフリーペーパーを作り上げるこの企画は、一年に一度の大きなプロジェクトなのでとてもわくわくしている。完成品をぜひ京都のいたるところで見つけてほしい。
さて、この誌面制作プロジェクトにおいて今回「Lovely Girly Style」をテーマに京都ブランドのファッションアイテムを集めてコーディネートをするチームのリーダーを務めたわたしは、メインのアウターとしてPagongのチュニックを選んだ。そしてその際、本社と工場に足を運び、取材をさせていただく機会を得たので、この記事ではそこで伺った話をご紹介したい。
京都には数多くの伝統工芸士さんがおられ、伝統工芸を守り、その技術をいまに残してくれている。17もの伝統工芸品があり、現在も世界中から注目を集めている伝統工芸だが、Pagongではその中でも京友禅という染めの技法を使い、洋服などを作っている。この取材は、伝統工芸というものが自分から遠く離れた存在だと思っていたわたしの認識を決定的に変えてくれた特別な日になった。
Pagongってなにをしているところ?
2002年に誕生したPagong。その背景には、未知への挑戦と染めに対する熱い思いがあった。
創業は大正8年。京友禅の染屋として先々代の亀田富太郎さんが「亀田富染工場」を設立。着物の需要があったこの時代には、100人以上もの職人さんが工場に居た。しかしその後、着物を着る人はだんだん減少し、Pagongは下請け仕事ばかりになっていったという過去がある。
そんななか、染工場の蔵に保管されていた京友禅の図案を、もっといろんな人に見てほしいという願いが消えずにあったという。もともと京友禅の染め屋として始まったPagong。アロハシャツの起源がじつは着物にあるということを知ったこと、着物の需要が減少しているということなどもあり、それなら京友禅の図案や友禅染の技法を使ったアロハシャツをつくってみようということになり、染めた生地をアロハシャツに仕立てたところ評判を呼んだ。研究に研究を重ね、さらなる改良を加えられた商品は、いまでは世界中の人に愛されている。
現在、Pagongといえば多くの人がアロハシャツを思い浮かべることができるほど有名になったが、そのイメージが定着している今日に至るまで、わたしたちには計り知れないほどの大きな困難を乗り越え、年代によって着物の柄が変化していくのと同様に、さまざまな角度からアプローチをしてこられた。
「染め」、色だけでなく想いが染められる工程
現在、Pagongでは染めの職人さん2人、染料の調色師さんが1人、合計3人で工場を運営されている。今回わたしたちも特別にその工場に入らせていただけることに。ドアの向こう側に広がっていたのはバケツ、バケツ、バケツ。わたしたち素人が見ると黒っぽい、液体のようなもの。
あたりを見回していると、工場長さんが分かりやすく説明してくださった(この世の中には知らないものが多すぎる…!すっごく楽しいけれど時には無知を実感して悔しくなる…)。バケツの中に入っていたのは色のりだった。黒っぽく見えるが、しっかり色が付いている状態だと仰っていた。
ここは「のり場」と言って、色のりを作る場所。そもそも色のりというのは、ドロッとしているスライムのようなのりのことで、透明なアルギンのりと粉末状の繊維を染めるための色素である染料を調合したものが、のりの素になっている。この膨大なのりを工場長さんおひとりで管理されているのには本当に驚いた。
Pagongで使っているのは化学染料で、生地や素材によっても染料を使い分けなければいけない。適合した染料を使わないと、色が染まらずに流れてしまうという。
京都の染屋さんは基本的に分業制。各工程によって業者・会社が分かれており、Pagongはそのうちの「染め」の作業をおこなっている。最終の工程を海外でおこなうと、Made in Japanではなくなってしまうため、Pagongではすべての工程を日本で行うようにしている。そのぶんコストが上がってしまうとおっしゃっていたが、こだわりを妥協せずに貫いておられる職人さんの姿が、わたしの瞳にはとても格好よく映った。
京友禅の捺染と呼ばれる技法を使われているのだが、捺染とは、版画のようなシルクスクリーンと呼ばれるやり方のことで、柄の形に穴が空いた四角い型にのりを入れて、板をスライドさせるとのりが下に写って生地に色を付けることができるのだそう。この作業をそれぞれ違う型を使って何度も繰り返すことでひとつの柄が完成する。つまり20色使うならば型が20枚必要ということになる。
今回わたしたちも型を実際に持たせていただいたのだが、決して軽いものではない。これを長時間かつ継続的に持ち上げ、生地に色をつけては一定間隔に型を動かすのは至難の業である。ひとつの洋服の柄が出来上がるまでにこんなにもの労力と思いが込められていたということを、目で、肌で感じることができたのはとても貴重な機会だったと思う。
さまざまな工程を経て、一着の洋服が出来上がるまで早くてもおよそ2か月はかかるとのこと。染料だけでなく想いも染められた洋服たちは、京都だけでなく海外からくる観光客の方をも笑顔にしてくれる。職人さんの想いがこもった洋服を、思い出として母国に持ち帰ることができる。なんて素敵な旅の仕方なのだろう。
多くて把握しきれていないそうだが、2000枚以上あるのだとか!
Pagongのチャーミングポイント
Pagong最大の特徴として挙げられるのは、やはりなんといってもアロハシャツだろう。国籍や年齢を問わず着やすいため、海外からの観光客も数多く購入していくのだという。わかりやすく日本を感じることができるのではないかと思った。ところでアロハシャツといえば男性が着ているものというイメージがあったが、それはただの私の勝手な思い込みだった。海外からの観光客だけでなく、華やかなお花の柄などは女性のお客様にも人気がある。
Pagongの魅力はそれだけではない。Tシャツやポロシャツ、ジャケット、ワンピースやスカートまで、幅広いアイテムが揃っている。
お茶碗に描かれている柄や絵師さんの浮世絵の柄なども取り入れているところ。古典的な着物の柄+絵師さんの絵の柄をバランスよく取り入れ、幅広いニーズにあった洋服を作っておられる。
また、五条本店のほかに、三条店、祇園店、さらには成田空港にも店舗があり、Pagongは日本人だけでなく世界中の人々から愛されているブランドであるということを再確認できた。
女の子がPagongを身につけて京都を歩くなら…
今回わたしたちが撮影用にお借りしたアイテムは、女性らしい印象のロングチュニック。コーデのテーマである「Lovely Girly Style」にピッタリ合う洋服で、和柄で日本を感じることができ、淡い色合いと動くたびしなやかに揺れる裾が女性らしさを表す。優しい雰囲気の和柄はナチュラルに日常に溶け込み、毎日を華やかにしてくれる。
裂取模様というのは、パッチワーク状に背景を区切ってあるかのような紋様構成のもので、亀田富染工場が膨大な着物の図案から復刻したものである。江戸時代初期の火災で豪華な小袖が焼失してしまったため、所蔵の裂地の切り取り、縫い合わせて無地の小袖に仕立てたことから裂取(きれどり)と称されている。
はっきりと背景が分かれているところもあれば、ぼかしの技法でやわらかな印象もあったりと、さまざまな表情を見せてくれる。今回はボタンを閉めてトップスとして使用したが、前を開けて羽織としても活用でき、幅広いコーディネートに取り入れることができる。
儚くて尊い、染めの技術をより多くの人に
伝統工芸は存続が厳しく、後継者不足や職人さんの高齢化が常に問題とされているが、人の手でしか生み出せないものにだけ存在する尊さがあると感じた。
皆さん口を揃えておっしゃるのは、多くの人に染めのすばらしさを知ってほしいということ。伝統工芸の存続に危機感が漂うなか、会社自体が生き残っていくためにも、現在も絶えず新しいものにチャレンジしておられる。この企画を通してわたしたちも知らなかった伝統工芸の魅力や染めの奥深さを吸収することができた。これからも京都の伝統工芸を守り続けなければいけないと思った密度の濃い一日だった。
Pagongの魅力を、染めのすばらしさを、少しでも多くの人に知っていただけますように。
企業・店舗情報
株式会社 亀田富染工場
京都市右京区西院西溝崎町17
電話番号:075-322-2391
営業時間:11:00〜17:30
定休日:不定休
●公式サイト:https://pagong.jp
●Instagram : https://www.instagram.com/pagongkyoto、https://www.instagram.com/pagong.overseas
●Facebook:https://www.facebook.com/KyotoPagong
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