推しのいる日々①〜ZOO活1年生「今日もあの子に会いに行く」
退職後、運動不足が心配なのでできるだけ歩こうと心がけている。近所にウォーキングができる公園はあるのだが、数年前にイノシシが頻繁に出没するというニュースを聞いてから、めっきり近づかなくなった。
仕方なく家の近所を歩いてはいるが、田舎でもなければ都会でもない。何の変哲もないごく普通の町中なので、ただ歩くだけでは全く楽しくはない。
そんな私に、今日も明日も歩きたい、と思わせてくれるのが「推し」の存在である。
数年前から上野動物園の双子パンダちゃん(シャオシャオとレイレイ)の可愛さに魅了され、ファンの方がネットに上げてくださる画像や動画に癒され続けてきた。
ネット上でパンダの追っかけを始めるまで、ZOO活というものがよくわっていなかった。動物園というところは、数年に1度行くか行かないかの特別なイベントのために存在している場所だと思っていた。
しかし、雨の日も風の日も猛暑の日も激寒の日も。何時間並んででも。たとえ数分しか見られなくても。ようやく会えた推しが木の陰でこちらにお尻を向けて寝ていたとしても。それでも、寸暇を惜しんで上野に通い続けるファンの皆様の熱量に、ただただ圧倒されるばかりだった。
そして、そんなパンダファンの方々の行動力と皆様の秀逸な撮影技術のお陰で、遠く離れたこの地から大好きな双子パンダ、シャオレイちゃんたちの成長を事細かに知ることができている。
動物園に行くというのは、彼らにとっては決して特別なイベントなんかではなく、ごく自然な日常であり、動物園にはそんな楽しみ方もあるのだ、ということを知り、目からウロコの衝撃でもあった。
パンダファンの皆様を見習って、私も、どうせ歩くなら、と地元の動物園の年パスを買ってみた。とりあえず年パス分の元を取らなければ、というセコイ考えで続けて通うようになったのだが。そこは私の想像の何倍も素晴らしい場所だった。
動物園の経営は、決して楽ではないはずだ。動物たちの命を預かるこの場所を守っていくために、飼育員さんを始め園の関係者の方は、どれだけの努力をされているのだろう。
私が通い始めた動物園は、自然と動物と来場者への温かい愛情をそこかしこに感じる。そんな素敵な動物園だった。
そして、どの動物もそれぞれに魅力的ではあるのだけれど。その中でも私の心をとらえて離さない「推し」もできた。
しかも、その子はなんと、この動物園で生まれ育った生粋の地元っ子であった。
こんな愛すべき生き物が、生まれた時からずっと近くに存在していたというのに。その気になれば、赤ちゃん時代からずっと見守ることだってできていたはずなのに。どうして十年近くもの長い間、放置してしまっていたのか。
一番可愛かったであろう時期(今も十分かわいいのだけれど)を、何も知らずにスルーしていたなんて、まさに痛恨の極みだ。
飼育舎の前では、時々常連さんと思われる方々を見かける。彼らは動物たちを我が子のように愛でているし、飼育員さんとも懇意にしているようだ。
私は何となくその中には入れずにある種の疎外感を感じる。でも、それは当然のことなのだ。
常連さんと思われるファンの方々は、きっともう長い間彼らの成長を見続け、私とは比べ物にならないような深さと重さで彼らとこの動物園を愛して見守ってきたのだろう。
私は、いわば「ニワカ」だ。ZOO活も初心者であり、この動物園のために、今まで何一つ貢献してこなかった新参者だ。
それがいきなり、「この動物園はすごい」「この子がかわいい」と舞い上がっているわけで。まだまだ彼らの足元にも及ばない。
だから、今はまだ、ただの新規のミーハーなファンでいい。
それでも、これから長い時間をかけて、何かしら園のために貢献できることを見つけていきたいと思っている。私に新しい「生きがい」をくれたことへの感謝を、ほんの少しでも形にして返せたらいいなと思うから。
とにかく、その気になればいつでも会うことができる「推しのいる日々」は、ただただ単純に楽しい。
だから、今日も私は「あの子」に会いに行く。雨にも風にも夏の暑さにも、負けがちではあるけれど。
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